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31:ハリエットの居場所

 ジョージとフレッドから忍びの地図と言う古い羊皮紙をもらったハリーは、自分と殺人犯であるシリウス=ブラックのつながりを聞いて、怒りと失望感に唇を噛み、アルバムを見つめる。

 こいつが両親を裏切った……。

 無断で行ったホグズミードの三本の箒でマクゴナガルらの話を盗み聞いてしまったわけなのだが、酷く悲しむハグリッドらと違ってマクゴナガルだけは何か引っかかっている風だった。
 それが少し気にはなったが、きっと些細なことだ。ふと、ハリエットのことをこの写真の男は知っているのだろうか、と疑問に思う。
 自分の名付け親だという男。どのタイミングで名前を付けていたのかわからないが、もしも生まれた時であればハリエットもいたはずで……。
 そうだ、地図、とハリーは忍びの地図を開く。まだ就寝前の時間だからどこかにいればわかるはずだ。寮については大まかな場所と談話室までは確認でき、じっくりと眺める。
 そういえばフレッドとジョージがこれを渡す際妙なことを言っていた、と地図を眺めながら思い出していた。


「これはハリーに渡すべきだってそうジョージと話して決めたのさ」
 そう言ってフレッドとジョージは古びた羊皮紙をハリーに渡した。
“われ、ここに誓う。われ、よからぬことを企む者なり”
その言葉でホグワーツ城の敷地内を含めた地図が現れ、秘密の抜け道までもを知ることとなった。

「それと、どうやらこの地図はポリジュース薬も無効化してしまうらしい」
「それによってとんでもない秘密を知ってしまったのだが、事が事だったからな」
 取り扱いには気を付けるんだぞ、という二人にハリーは目をしばたたかせて……ホグズミードに行けることの喜びが勝って二人が知ってしまった秘密については深く考えていなかった。

 もしかして二人はハリエットの名前を見たんじゃないのか。それも普段名乗っている名前とは別の人物で。そう考えてじっくりと見ていく。
 上層階にはいないことからグリフィンドールもレイブンクローも違うのか……あるいは寮に入ってしまっているのか。
 ハッフルパフについてはここにあるんだ、と感心してみていくがやはり名前はない。

 やっぱり考え過ぎかな、とみていくと廊下を移動する名前を見つけて思わず顔を近づける。

【ハリエット=ポッター】
 間違いない、片割れの彼女の名前だ。

「え……地下牢教室……じゃない。ここは……」
 名前の点が歩いていく先にいるのはスネイプの名前で……。彼女がいるのはまさにそのスネイプの私室だ。この間の夜といい……信じられないものを見るハリーはじっとその点を見つめる。
 どれほど一緒にいたのか。スネイプに抱えられているのか、ハリエットとスネイプの名前が重なり、廊下を歩く。そのままスリザリンの寮に入ると、どこか部屋に入ったのか姿が消え……。ほどなくしてスネイプの名前だけが出てきて、廊下を歩いていく。

「スリザリン……なの?」
 驚くハリーはそう呟いて、ぶんぶんと頭を振る。そんなはずない。絶対ない。と言うかなぜスネイプと……。おかしいよ!と先ほどまでシリウス=ブラックのことを考えていたハリーだが、今度は双子の片割れのことでいっぱいになる。
 それにしてもいったい誰に変身しているのか。ポリジュース薬を毎日飲んで大丈夫なのか。いや、スネイプとつながっているというのならば全く知らない魔法薬の可能性もある。
 もしかしたら、あの夜も含めて魔法薬が関係しているために……こう、主治医と患者の関係のようなそんな間柄かもしれない。
 でもだからと言って寒々しいネグリジェ姿の少女を抱き……いや、魔法で浮かせたかもしれない。そうに違いない、とハリーは思わず天井を仰ぐ。


 翌日、ハリーはブラックのことも気になる一方、スリザリンに消えた片割れが気になってほとんど眠れず、談話室ではハーマイオニーとロンが心配そうに見ていた。ブラックを追うなんて馬鹿な考えはやめるんだというロンをみて、がばりと肩を掴む。

「ねぇロン!もしも、もしもだよ?え、あ、いや、えぇ……僕はどうしたらいいんだ……」
 同じ妹がいる者同士聞こうとして、ハリエットのことは重大な秘密だと言われていたことを思い出し、ハリーは頭を抱えた。シリウス=ブラックに対して憎しみもあるし怒りもある。
 考えることが多すぎてハリーの頭はパンクしそうだった。ひどくまいっている様子のハリーを心配げに見るロンが気分転換にハグリッドの所に行こうと言い……城内にいたほうがいいというハーマイオニーの言葉を振り切って城外へと出ていく。
 
 バックビークの裁判の話を聞き、どんよりとした雰囲気で城に戻ったハリーだったが、地図、と開くとスネイプもハリエットも城内には見つからない。
 城外の温室が立ち並ぶ場所にスネイプの名前を見つけるも彼女はどこにもいなかった。ふと、禁じられた森の傍にハリエットの名前を見つけ、思わず振り向く。
 だが、木々と雪のせいで黒髪の少女の姿はどこにも見えない。ハーマイオニーらに促され、後ろ髪を引かれる思いで城内に戻るハリーは頭を切り替えた。
 休暇初日の朝を見ていないからわからないが、スリザリンはきっとほとんど帰っているはずだ。だから残っている人を見ればおのずとわかるはず……。

 夕食、大広間に行くとスリザリンは不愛想な5年生の生徒と、赤毛の少年しかいない。女子生徒の姿はどこにもないことにハリーはため息をつき、食事をとる。
 まばらにいる生徒も何人かは遅れて帰宅するらしく、今年のクリスマスは人が少なそうだ、とハリーは食事後に階段陰に隠れ、地図を取り出した。大広間を見れば席を立ったのか丁度動き出した点が一つ……。

「あれ?ハリエットの名前……ここに座っていたのって確か……」
「あ、先生!ちょうどよかった……。昨日の魔法薬についてなんですけど……」
 思考が止まっていたハリーだが、突然聞こえた声に驚き、体をぴたりと階段に貼り付ける。地図を見れば探していた名前で……。

「それならば今日の分の魔法薬がそろそろ切れるだろう。ついて来たまえ」
 楽しげな声に対し、スネイプのいつもの低い声が応じる。遠ざかる足音にハリーは地図を見つめ続けた。片割れの名前と並んだ陰険教師。大広間にはヘンリーなどと言う名前はいなかった。いたのは……。

「ヘンリーが……ハリエット?」
 うそだぁ、と座り込むハリーはまたスネイプの私室に入った二人の名前を見て……うそだぁと力なくつぶやいた。だって彼は男子生徒で、スリザリン生で……。

「もしかしてヘドウィグ……気が付いている?」
 何度か彼の肩にとまっていた相棒。思い返せばどこか弱弱しくて……だけどその眼は弱くなくて。そもそも、彼女と別れてから彼が石化……それを思い出してハリーは顔を青ざめた。
 彼が彼女をかばった石化したとばかり思っていたが、そもそも同一人物なら……。
 え、どういうこと?と混乱するハリーは無意識に片割れの名前をじっと見つめる。

「なんでさっきからこの二人の名前近いんだよ。なんで。どうして!」
 先ほどからほとんど動いていない二つの点。わけがわからない!と頭を抱えるハリーは談話室でも一人頭を抱えていた。
 先に戻っていた二人は顔を見合わせ、少なくともブラック関連ではなさそうと明日からどう調べていくか作戦会議をする。
 一人げっそりするハリーは天蓋を下ろした寝台で恐る恐る地図を開き……まだ二人が一緒にいることに思わず白目をむいて倒れ込んだ。

 今日はもう地図を見ない、とトランクにしまったハリーは大広間でまた赤毛の少年の後姿を見つけ、頭を抱える。この地図が壊れていなければ間違いなく彼は彼女だ。そしてなぜかスネイプとぴったりだったわけだ。
 意味が、意味がまるで分からない。ぼんやりしているうちに赤毛の少年は消え、隣で心配そうにする親友だけが残る。

「大丈夫かい?昨日からずっとなんか変だけど」
 そう声をかけるロンにハリーはもう、訳が分からないんだ、と呟いた。






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