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26:副作用
散々無体を働いたヘンリーの呼吸が浅いことに気が付いたスネイプは、慌てて額に手を当てた。明らかに熱が上がっている。いや上がっているどころではない。
上気したためではない汗が球となって滴り落ちる。無理やり閉じさせていた膝を解放しても、こわばったようにヘンリーの脚は動かない。
「ヘンリー?」
朦朧としているヘンリーに呼びかけるも返事はない。こんな状態のヘンリーを組み敷いたことに青ざめ、水差しから直接水を口に含み、ヘンリーの唇に重ねる。
開いている唇に含んだ水を少しずつ渡すと、ヘンリーの喉がこくこくと動く。熱さましを、と取り出そうとしてはっとヘンリーを見下ろした。
今彼は魔法薬のせいで体調を崩している。そのあとのスネイプの暴走も要因ではあるが、魔法薬の影響も大きい。この状態でさらに魔法薬の投与は彼女の身体に負担が大きすぎる。
だいたい、元気爆発薬を使える状況でもない。これほどまでに意識の混濁が見られるというのにあの魔法薬を使うことはできない、とスネイプは彼女にしてあげられること、と必死に考える。体調の悪くなった要因は間違いなく自分の行いもある。彼女のことを愛しているというのに、なぜ自分がぐらついているのか。
ひとまず、白く汚れた彼女の身体を魔法で清め、こわばった足を下ろさせると、冷たくしたタオルを首筋に当てる。流れ出る汗で体が冷えないよう、彼女用のガウンを着せて額にも濡らしたタオルを置く。
「せんせ……あつぃ……」
かすれた声が聞こえ、顔を見ればうわごとのように繰り返していた。
「すまない……」
体中に残る痛々しい痕にスネイプは俯く。こんなことをしたかったわけではないのに……。自分の中の彼女に対する思いがここまで醜く、変質しているのかと呆れ果ててなおさら言えない。
彼女のことを考えず、無理やり組み敷くなど、本当に彼女を大切に思っているのか。彼女を手に入れたい、支配したいという負の感情ではないのか。
外部への魔法薬は干渉しないだろうと考え、体中の歯型など今までつけたことのない醜い獣の痕を消していく。白いばかりのはずの脚にはどれだけ力を込めて足を閉じさせたのか。
膝周りに残る指の形をした青あざと、擦り続けて赤く腫れあがった内股にスネイプは壊れ物を扱う様に丁寧に薬を塗り込んでいった。
ルーピンのことを狼人間だと、所詮は何を考えているかわからない獣の力を持った半人であると、どこか考えているところもあった。だがこれはどうだ。体調不良で半ば朦朧としていた、しかも未成年の女性を組み敷き、彼女がわずかでも抵抗するのを楽しむかのようにいたるところに歯形を残す。
意識を失った相手の身体を使い自慰と何ら変わらない行為をして……。か細い呼吸すら奪って思う存分体を白く汚させた。
これこそ獣ではないのか。衰弱した相手を貪り喰らう、どう猛な獣だ。
うっ、と苦しげな声を聞いて、杖を振るい器を出す。横を向かせると嘔吐くヘンリーの背をさすった。吐くものもないというのにヘンリーは嘔吐くのをやめない。
それもそのはずだ。これだけ体温が上がり、そして細い内股からはみ出たもので彼女の腹を何度も突いた。いつもと違って、欲望のままに、力加減もせず。ぐっと、体重をかけ腹部を圧迫し続けたのだからなおのことだ。
ふと、時計を確認すると本来であれば効果が切れている時間だ。それなのにヘンリーの身体は中途半端なまま戻ってない。やはり薬の副作用が、と改良しきれていなかったことにスネイプは唇を噛む。それよりも彼の体調が心配で、彼を窺えば力尽きたように嘔吐くのをやめ、ぐったりと動かなくなる。
ますます自分のやったことに、過去の自分を殺してやりたいと、自分自身への憎しみがつのるスネイプはヘンリーを抱きかかえる。
何時ハリエットに戻るかわからない以上、この部屋から出すことができない。つくづく何をしているのだ、と自分を呪うスネイプは祈るような気持ちで熱さましの魔法薬を呼び寄せる。
頼むからこの魔法薬の副作用を悪化させないでくれ、と祈る気持ちでうっすらと開いた唇に瓶を傾けた。魔法薬学の教授である身でありながら、想定外の副作用に対応できないなど、笑い種だ、と少し落ち着いた様子のヘンリーを横たえる。
幸い、副作用の悪化はない様子で、徐々にヘンリーの熱すぎる身体が冷めていく。ほっとしてスネイプは汗に濡れた赤い髪を撫でる。
こうしてみるとやはりヘンリーはヘンリーでリリーではない。彼のどこを愛したのか。慕う目か、はにかむ姿か?それとも、リリーとは違うあの瞳か。
わからない。
だが愛している。
理屈も何もない。ただ、ただ……。
ヘンリーが落ち着くのを確認し、彼女が持っていた魔法薬を調べる。嫌な予感通り、完璧なものではなかった。彼女の魔法薬の腕を責めるつもりはない。それほどまでに新しいレシピは複雑なのだ。
一歩間違えればここまで強い副作用を産むと分かっていたのなら、しばらくは彼にはしばらく練習だけさせて自分が作ったものを携帯させればよかったかもしれない。だがそれでも重複させることでの副作用は避けることはできなかっただろう。
屋敷しもべ妖精を呼び出し、マクゴナガルへの伝令を頼みヘンリーが副作用のため体調を崩したことを伝えた。それと同時に、今後のことを考え解除用の魔法薬を考案する。
ポリジュース薬などでは時間内の重複は延長の効果がある。だが、このヘンリーの薬はもともと体にある情報を引き出すことと、ホルモンを変える働きがあり、少し作用が異なる。
そもそもそこが間違いなのかもしれない。考え方を変えるべきか。変えるべき姿は定まったのだ。ならば今後はそれを維持するようにして、ポリジュース薬のように飲むのをやめると効果が切れる様にすれば……。
出来なくはないだろう。
脱狼薬は一鍋分煎じればあとは問題はない。減欲剤は先日一棚分煎じた。空いた時間に解除薬と今度こそ体に負荷のない魔法薬を作らねば。忌々しいがルーピンの監視はやめるしかない。だが、引き続き警戒は怠らず……。
「シリウス=ブラック」
昔から気に喰わない男だったが、アズカバンで自身の歳を数えるのを忘れたのか。癇癪を起して暴れるなど……。30過ぎたの男が何をしているのだ。見つけ次第、奴には呪いをかけ痛めつけた後ディメンターに引き渡してやる。とスネイプはそもそもヘンリーが薬を飲まざるをえなかった状況を作った男を恨む。
彼女との悩みすぎて襲った結果、その体調不良を増長させた自分への恨みはその倍以上であることは考えるまでもなかった。
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