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20:練習試合
今年こそは優勝を、と意気込むグリフィンドールのクィディッチキャプテン、オリバーがマクゴナガルのもとにやってきたのは10月も半ば。本格的に練習をしたいが作戦が漏れないようにしたいという。
チームを2つに分けて練習すれば問題はないが、シーカーであるハリーの練習のためにはどうすればいいのかという相談だ。
ハリーの前にいたシーカーの選手は去年卒業し、今年はまだ新しいメンバーを入れていない。ハリーに何かあったら問題なのだが、オリバーの求める実力に見合ったものがいないといってまだ補欠選手を決めていないのだった。
「選手になっていないグリフィンドール生で誰かいませんか?」
本人がやりたくなければ当然実力があろうと選手にはならない。ハリーはその承諾を得る前に選手にしたがマクゴナガルとしては彼がシーカーになることは運命だった気がしたのと、彼自身目を輝かせていたことから結果オーライだ。
ただ、相談を受けたマクゴナガルは困ったように考え……あぁとほほ笑む。
「適任者が一人いますね。選手ではないため、あくまで練習試合に付き合うだけという形になりますが」
ハリーと実力が拮抗している唯一のシーカー。悩む必要などなかった、とやる気満々のオリバーに日時を決めて当日連れて行くと約束する。
ウキウキとした様子で詳細を聞かずに部屋を出たオリバーはその足でチームメイトに声をかけに行く。
「本格的な練習になるぞ!」
これで我がチームのレベルアップ間違いなし!と意気揚々とするオリバーをハリーはぽかんと見つめ、相手シーカーは誰がやるんだろう、とロンと顔を見合わせた。
ハーマイオニーも来なよ、という声かけに一瞬笑顔を見せるも、ロンと目が合うなり調べるものがあるからいいわ、と首を振る。
ハーマイオニーの猫、クルックシャンクスとロンの鼠スキャバーズの不仲で生まれた二人の溝は深く、ハリーは深々とため息をついた。そこにクルックシャンクスが手紙をくわえてやってくる。
「あら、おりこうさんね。っふ、そういうことね……。やっぱりハリー、見に行っていいかしら。そこの人は嫌なんでしょうけど、見に行きたいのよ」
羊皮紙を開いたハーマイオニーは思わずと言った風に笑い、ハリーに告げる。え?と驚くハリーだが、久々に楽しそうなハーマイオニーに頷いた。
そして当日。たまたま廊下で出会ったルーピンと共に競技場にやってきたハリーは、練習試合用に分けられたいつもとは違うユニフォームに腕を通す。
作戦をハリーのいるAチームと、Bチームにそれぞれ伝えるのを聞きながら新しい人がいないことに首をかしげる。今回の作戦はほぼチェイサー関係で、オリバーはどちらのチームにも属さない徹底的にゴールを守るキーパーになるらしい。ビーターはフレッドとジョージが分かれて一人ずつでやるらしい。
「今日は練習試合形式で行う。相手シーカーはマクゴナガル教授が遅れて連れてくると言っていたからそろそろピッチにいるだろう。今日は特別に練習用のスニッチを飛ばすのと、ブラッジャーの代わりにゴムボールを使う。ケガの心配はないだろうけど、当然これも痛いし、いつもよりは小さい。気を緩めるなよ!」
さぁ行こう!とこれから本試合があるかのように声を張り上げ、ピッチに向かう。
そこにはマクゴナガルと、赤い髪の少年が箒を手に待ち構えていた。
「せっ先生!代役って……スリザリン生じゃ」
「その前に私の甥の子です。大丈夫ですよ、彼はべらべら人に話すほどおしゃべりではありませんし、体調のいいときにしか参加できないことから選手になることはありません」
驚いた様子のオリバーにマクゴナガルは微笑み、ハリーと戦わせれば彼の実力はすぐに分かると思いますよ、と言う。迷う風のオリバーだが、意外にもフレッドとジョージがまぁいいじゃないかと言い出した。
「作戦は聞いていないし、」
「シーカーっていうなら問題はないだろ」
なぁヘンリー、というフレッドに呼ばれたヘンリーはヘーゼルの眼をしばたたかせ、まぁいうつもりもないしと頷く。
フレッドとジョージは彼らが作った罠に嵌められた、あの騒動以外接点はない。なのに何か知っているような笑みに訳が分からないと軽く首を傾げ、ハリーを見る。
ヘンリーと向き合うのは一年生のあの塔以来だったというのにハリーはどこか懐かしい気がして、なぜか母リリーの面影のあるヘンリーを見る。彼が箒に乗る姿は授業で見てはいたが、確かに安定していた。
仕方ないと納得した風のオリバーが口外はしないように、と言ってヘンリーの手を握る。応じるヘンリーはいわないよ、と言うとそれに頷くオリバーはそれじゃあ始めよう、と声を上げた。
「君とこうして会うのは一年生以来だね」
「そうだね。あの二人……なんだか仲が悪そうだ」
声をかけると、ヘンリーはちらりとルーピンを挟んで座るハーマイオニー達を見る。苦笑するハリーはマクゴナガルのホイッスルの音で地面を強く蹴った。
ヘンリーから目を離し、フィールドに目を配る。
「視野が狭いよ」
そう言ってヘンリーがすぐ横を飛ぶ。彼に負けてなるものか、と目をやればヘンリーとは反対方向にきらりと光るものを見つけ、ハリーはそちらに向かって速度を上げた。
ヘンリーは横目でハリーのいるAチームではないBチームのフレッドを見つけ、箒をひるがえす。横切るゴムボールに慌てて進路を変えるハリーは自分の下を飛ぶヘンリーに気が付き、すぐにそのあとを追う。
急にヘンリーが急降下し、まさか見つけたのかと慌ててそのあとを追う。だがすぐにそれは罠だと気がついて、ヘンリーが急上昇するのとほぼ同じにハリーも進路を上空へと向けた。
今回の練習試合ではチェイサーの得点だけで決めるという話だったため、ハリーとヘンリーはキャッチしたら終わりではない。捕まえた時、まだ終わっていなければ放して、また追いかけるというものだった。
「一回目」
そう聞こえて振り向いたハリーはヘンリーの手に光るスニッチを見つけて目を丸くした。
初めて先に取られたのだ。しかも選手ではないヘンリーに。
悔しさが顔に出たのか、ヘンリーはニヤァと笑うと手を離す。途端に姿を消したスニッチにハリーは鼻息も荒く、きらめく姿を追いかけた。
拮抗どころかヘンリーのほうが上手で、マクゴナガルは目を細める。ハリーが敵わなくても仕方がない。彼のほうがシーカー歴は長いはずなのだから。
オリバーの気合で守られるゴールになかなか得点は重ねられない。その間にフレッドの打ったゴムボールはAチームを幾度となく苦しめ、ジョージは何度もヘンリーの行く手を遮り、キーパーのオリバーを邪魔する。
ハリーも負けずとスニッチを捕まえ、得意げに振り返ればヘンリーが少しむっとしていて……。
マルフォイとやった時でもこんなに緊張しなかった、とスニッチを追いかける。ヘンリーはハリーと同じニンバス2000に跨り、驚くほど繊細に箒を操る。
ヘンリーの下にスニッチを見つけた時は彼は迷わず上下を反転させ、赤い髪をなびかせながら難なくキャッチしていた。ゴムボールをぎりぎりで避けるヘンリーと競い合うのがなんだか楽しくて、ハリーは一歩先を飛ぶヘンリーを追いかける様に飛び続けた。
既定の得点になり、ホイッスルが響くとほぼ同時に、ヘンリーがスニッチを捕まえる。
「すごいや……。君がスリザリンの選手じゃなくてよかった」
息を切らすハリーはヘンリーからスニッチを受け取り、笑いかける。笑い返すヘンリーだが少し様子がおかしい。ふらふらと力なく降りてく姿に慌ててハリーは横から支える。
いつも練習で長時間飛び回っているハリーと違って、ヘンリーは毎日薬を飲んでいるような身体だ。体力の限界を超えたのだと気が付き、一緒に降りていく。途中フレッドとジョージが助けに入り、地上に降り立った。
「あぁヘンリー、あなたの体力を考慮すべきでしたね」
何事かと近づくマクゴナガルが心配そうで、それでいてどこか優しいまなざしをヘンリーへと向ける。
「体力つけないと……ダメですね」
少し青白い顔で笑うヘンリーは地面に座り込んでいてすぐには立てそうにない。
実にいい練習だった、と嬉しそうなオリバーらが寄ってきて、手を貸そうかと言うがヘンリーは少し休めば動けると言って断る。
「我が寮の……体力のない生徒を無断で飛ばすのはやめていただきたいものですな」
そこに聞こえた声に一斉に振り向くと、マクゴナガルは驚いた様子もなく、丁度良かったという。
「私は事前にヘンリーを借りると、そう声をかけましたのですが」
無断ではないというマクゴナガルをスネイプは睨むように見て、ヘンリーの箒を手に取ると座り込んでいるヘンリーを抱き上げる。黒衣に埋もれる様に抱きかかえられるヘンリーに見慣れないグリフィンドール生はぽかんと見つめた。
「2.3時間という話だったはず。4時間も休みなく……。少しは限度というものを分かっていただきたいものですな」
見ていたのか、時間が過ぎているというスネイプに熱中していたグリフィンドール生は反省しマントをひるがえすスネイプが去っていくのを見るしかできない。マクゴナガルだけが何やら楽しげだが、さぁシャワーを浴びて城へと促す。
試合を見ていたロンはすごい戦いだった、と言って立ち上がり、楽し気なハーマイオニーを見てむっと顔をしかめる。
ハリーは箒を担いで更衣室に入るとフレッドとジョージが何やら羊皮紙を手に話し合い、オリバーは彼がシーカーでなくて嬉しい反面、選手としては彼が選手ではないことが残念だと複雑な表情を見せていた。
「それにしても実に有意義な練習ができた」
そう笑うオリバーにハリーは取った数で少し負けていたことが悔しい一方、ハリエットと競い合えたならこんなに楽しい気持ちになったのだろうか、とシャワーを浴びながらどこかうきうきとした心境になって……次があれば絶対負けないと心に決めるのであった。
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