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18:無邪気な彼
マルフォイが授業に戻ってきたのは魔法薬の授業の半ば頃。まだ痛むという腕にハリーらが疑わしい目を向ける。ヘンリーも以前同じ思いだったが、ただ切り傷を治すだけでなく、その腕の筋とかいろいろきちんと治るまで時間がかかったことと、今もまだ本調子でないのは寮での彼を見て知っていた。
ロンに材料を切らせ、酷い出来のネビルの薬をトレバーにかけ……手助けしたハーマイオニーを減点する。別のスリザリン生と組んでいたヘンリーはため息をつき、通りざまに彼女に手紙の返信とお礼を分からない風にして渡す。
彼女との文通は主にクルックシャンクスが運び、ヘンリーが自分のフクロウであるシークか、あるいはこうして直接何かしらに変化させたものを渡すことで続いていた。
「先生のシャンプー、いつ渡そうかな」
昼食を取って呪文学の教室に向かいながら今朝届いた荷物のことを考える。忙しい彼女に聞くのは憚れたが、ハーマイオニー以外に聞くことはできない。母に言ったら追及されそうな気がして、それをうまくごまかせる自信がなかった。ルームメイトに聞いてくれたのか、教えてもらったシャンプーを購入し届いたのが今朝だ。
その日の夕食はスネイプが怒りに怒っていて、スリザリン生ですら萎縮していた。原因はグリフィンドールのボガート。ネビルのせいでおばあさんの姿をしたスネイプの話があっという間に広がったのだ。
詳細は思い出せなくとも、懐かしいなと考えるヘンリーはルーピンと目が合い、とっさに視線をそらした。彼の授業は相変わらず素晴らしいもので、荒探しをするマルフォイらには加わらず、授業を受けている。
また感情が暴走しないようにと、ヘンリーは閉心術を使って感情をコントロールしていた。ルーピンも特にあのことには触れず、声をかけることもない。
きっと彼なりに配慮してくれているのだろう、とヘンリーはいつものようにシャワー室へと足を運び、いつも通り髪を洗い、体を洗い……腰にタオルを巻いて肩にタオルをかけて更衣室に戻ってきた。そこで腕をかばいながら服を脱ぐマルフォイを見て、そういえばと考える。最近彼の髪は片手のせいか、十分にヘアケアができていないらしく、絡んでいるのを見ていた。
「ドラコ、髪洗うの、手伝うよ」
シャワーの個室に入るマルフォイの背に声をかけると、ぎょっとしたようにマルフォイが振り向き、何やら難しい顔をする。それに構わずちょうどいいやと自分のシャンプーを手に取り、固まっているマルフォイの髪に触れた。
「ヘンリー!いっ、いや、自分で洗うから大丈夫だ!」
スリザリンの男子シャワー室に珍しく声が響き、何事かとヘンリーを見る。当の本人は気にしていないのか、いつものさらさら髪じゃないマルフォイの髪をどうにかしようとそれしか考えていなかった。
「ほら、目に入るからあっちむいて。その手じゃちゃんと洗えてないよね。最近こっち側特に絡まっていたし……僕に泡が付くから暴れないでって」
いいからいいから、と振りほどこうとするマルフォイをいなし、ヘンリーはにこりと笑って後ろを向くように促した。抵抗しても時間が過ぎるだけと考えたのか、マルフォイはため息をついて背を向け、少し屈む。
「ヘンリーはちびだから届かないだろう」
そんなに洗いたければどうぞ、と言うマルフォイにちびじゃない、と反論するヘンリーは屈んだことでやりやすくなったことに口をとがらせ、マルフォイの髪をやさしく洗いだした。
「ドラコの髪って天然でサラサラでうらやましいな。僕の髪、短くするとすぐ跳ねるし……」
いいなーというヘンリーは一通り洗い終えると泡を流し、そうだこれも付けてみようと、止める間もなくコンディショナーを少量取って毛先に付けた。
「付けなくてもよさそうだけど、最近ヘアケア怠っていたみたいだから」
これでよし、と洗い流すヘンリーにマルフォイは背を向けたままありがとう、と素直にお礼を言う。耳が赤いのはシャワーを当てすぎたからかな、と気にも留めていないヘンリーはまた今度手が治る前に手伝うよ、と笑ってシャワー室をあとにした。
マルフォイの髪をヘンリーが洗ったという話はスリザリン寮にすぐに広まり、翌朝そのまま流れとしてスネイプの耳にも入る。軽く頭を抱えてため息を吐くスネイプは夕食後に部屋に来るように、とそう呼び出した。
魔法薬の事かな、と気にしていないヘンリーに、サラサラに戻ったマルフォイは深々とため息を落とす。ヘンリーの傍にいるのが変に嫉妬深い女性だったり、逆におおらかすぎる女性だったりでなくてよかった、と彼の恋人が嫉妬と束縛と支配欲で固められたごりごりのスリザリン気質な大人であることを思い浮かべる。多分この後お仕置きされるか、何かされるか……。
そうは思いつつ、ヘンリーには悪いけど、とマルフォイは耳を赤らめて髪を手に取った。もうすぐ完全に治る腕を見下ろして、ヘンリーが彼になんといわれていようとも、もう一度洗ってもらいたい、と。
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