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16:嫉妬の気配

 マルフォイの傷は深かったようなのと、大きな傷を負った際に出る熱で見たこともないほどにぐったりと横になっていた。ヘンリーはその傍らに腰をおろし、間に合わなくてごめん、と小さく謝る。
「何を言っているんだヘンリー。君が来てくれなきゃもっと傷が多かったんだ。僕こそ余計なことに巻き込んですまない」
 ヘンリーとしてはなんでくだらないことを思い出すのに、こんな事件忘れていたのか……それが悔しくて俯く。
 
「でもなんでヒッポグリフに暴言なんか……」
 ダメだって言われていたのに、と言うヘンリーにマルフォイはバツが悪そうに目をそらす。
「あいつ……ヘンリーのことを脅かしていただろう。それなのに僕にはあっさり膝を折って。それでかっとなって……」
 じっと見つめるヘンリーに根負けして、ぽつぽつと理由を口にするマルフォイにヘンリーははっと目を見開き、ごめんと繰り返す。

「違う!ヘンリーが悪いわけじゃ……いっ」
 落ち込んだヘンリーにマルフォイは声を荒げ、痛む腕に眉を顰める。ポンフリーにそろそろ安静にと言われて医務室を追い出され、ヘンリーはため息を零した。


「ヘンリー、こちらへ」
 廊下を曲がったところで丁度地下から上がってきたスネイプを鉢合わせ、そのまま彼の私室へと連れていかれる。大人しく着いてきたヘンリーの落ち込み方にスネイプは黙って見つめて、ソファーへと腰を下ろした。
 手当してもらったおかげですっかり傷の消えた額を確認し、自分の上に座るよう、引き寄せて抱きしめる。スネイプに乗り上げ、またぐようにするヘンリーはスネイプに抱きしめられたことで落ち着いたのか、今更だけど怖かったと小さく漏らした。
 事件のあらまわしは聞いていたスネイプは、ヒッポグリフの問題行動のことか、とため息をついてヘンリーの唇を重ねた。  何度も口付けていると、散々そうしてきたかいがあったかのように、ヘンリーは力を抜いてスネイプにもたれかかる。それに、とマルフォイを心配するヘンリーに少しむっとしていたこともあり、スネイプは黙って服をはだけていく。

「ヘンリーが悪いわけではない。あまり謝ってばかりではドラコも気が休まらないだろう」
 だからもういい、とそう言いながら喉元を食み、肩口に口づける。さすがに下着は男子生徒が着ているものであることにほっとして、他に怪我はないかね?とそう言いながら、キスで力が抜けているヘンリーを一糸まとわぬ状態にして……心に生まれた暗雲を晴らす様に揺さぶり続けた。

 ヘンリーとマルフォイはよく一緒にいるというのと、最近ヘンリーを見るマルフォイの視線が気になって、スネイプの心は落ち着かない。おまけに彼女がとっさとはいえマルフォイに覆いかぶさって助けたなど……。
 医務室にいるという話を聞き迎えに行こうとする際、下級生らが上級生にこんなことを聞いていたのが耳に入ったのも、どこか不機嫌な心の理由だ。

【マルフォイさんとヘンリーさんってどういう仲なんですか?】

 苗字が紛らわらしいからか、ヘンリーのことをマクゴナガルと呼ぶ寮生はほとんどいない。そして他にヘンリーという名前がいないためにスリザリン寮で呼ばれるヘンリーはヘンリーでしかない。
 ドラコがヘンリーを?と華奢なヘンリーの後ろの蕾を荒らすスネイプはかつて抱いた“嫉妬”の気配に眉を顰め、ヘンリーの唇を塞ぐ。あの時と違って、ヘンリーの心は自分に向いている。
 だから一方的なものだと、そう分かっていても優しいヘンリーが押し流されそうな気がして、それが怖い。こうして肉体的にも彼女と結びついているが本来の交わりではない。
 まだ早いと、もう少し経った後に彼女がスネイプだけを見ているのであり、彼女が求めてくれるのであれば……その時、真に交わりたいのだ。だから今はまだ……その時ではないし、スネイプ自身彼女のすべてをもらう勇気が今一つない。


 くたりと寄りかかるヘンリーに口づけ、手早くシャワーを済ませる。時間を見て、とにかく手早く着替えまで済ませると、予期した通りヘンリーはハリエットに戻っていた。
 眠った姿を見つめ、額に口づける。ハリーと違って額に傷のない少女はどこか嬉しそうに笑って、スネイプに顔を摺り寄せた。それを見下ろすスネイプはハリエットの髪を撫で、なぜこんなにも引き付けられるのか、と考えていた。
 眼球が好きなオキュロフィリアでは断じてない。ただ、色は違えどヘンリーの時とハリエットの時で瞳の輝きは同じで、それに惹かれている。
 どこか弱弱しくて、守らねばと近づけばその輝きは一転して芯の強い力強さを見せつける。
 リリーの緑の瞳は……リリーが好きだったからだ。リリーの何が好きかと聞かれてもスネイプにはうまく言葉にできなかった。だからかもしれない。
 彼女に想いを伝えることも、彼女のことを思うこともできなかったのは。彼女のうわべだけが好きになったわけじゃないというのに、果たして自分はそれを口に出せていたのか。きちんと伝えられたのか。

 ハリエットを愛しいと思えるのは彼女の内面を写す瞳だ。そして、そこから見える彼女の優しさや、まっすぐな性根が好きだ。
 それが自分だけに対する優しさではないことを分かっているスネイプは愛しいと思うと同時に、やはり嫉妬する自分もいて、我ながら矛盾している、と笑う。

 髪と眼の色、そしてある程度胸を抑える20分ほどしか効力のない緊急用の薬を手に取る。インターバル時間中でも服用できるが、効果はかなり薄い。それでも見た目的には問題はないため、スネイプが夏の間に準備した。
 その緊急用の薬を飲ませてローブを頭からかぶせて抱き上げる。薬の副作用で眠ったとして部屋に運ぼう、とスネイプは寮へと向かった。
 横抱きにされたヘンリーをスネイプが運び、いつもは閉ざされているヘンリーの部屋に入って彼を寝かしつける。そんな姿を起きていた寮生らはぽかんと見送り……まさか三角関係ではないか、と囁き合った。





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