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15:バックビーク

 寮に戻るところをスネイプに呼ばれ、寮に入る他の人が聞こえるよう薬の改良の話を言う。
「ミスター・マクゴナガル、夏季休暇中にフクロウ便を送った通り、君の魔法薬の改良のため投薬時間を過ぎることがあるだろう。以前にもまして時間の都合をつけるのが難しくなるだろうが、それでよいかね?」
 魔法薬の投薬時間は夜10時。これは1年生の頃から変わっておらず、ヘンリーの周囲もそれを分かっている。今年監督生になった生徒もそう思っていたために、今年からヘンリーのそれは不規則になるのだと、そう理解してスネイプの言葉に了承するヘンリーを見た。
 
 ヘンリーに声をかける機会が減ったことに少し残念そうな監督生をスネイプは目の端に入れ、無自覚に人を引き付ける節があるヘンリーをじっと見つめる。魔法薬のおかげで女性らしさは見えないはずが、こうして男子生徒らの中にいるとどこか浮いてしまっているヘンリーことハリエット。
 これは魔法薬云々の話ではないな、と寮に入っていく背中を見つめた。やはり今年も彼の回りには男子生徒が多く……スネイプは踵を返し部屋へともどっていった。


 ハグリッドの初授業、スリザリン生とともに移動をするヘンリーはちらちらとハリーを見るグリフィンドール生に占い学を専攻しなくてよかった、と息を吐いた。今年、ヘンリーは数占いを選択した。
 数占いはハリエットの“予見者”には触れられておらず、力についてもばれる要素はないとそう判断したからだ。もっとも、“9”という制限に関する力に反応されてしまったが、それだけでは力のすべてを読み解くことはできないだろう。
 緊張気味のハグリッドを見て、ヘンリーは適任なんだけど動物の選び方がなぁ、と息を吐いた。ハグリッドとはヘンリーの姿として会ったことはなく、彼がハリエットに気が付く要素はみじんもない。
 生徒らの教科書はベルトなどで固定はされているが暴れた様子はないようで、ヘンリーはほっと息を吐いた。書店で購入する時は相変わらず檻に入っていたが、店主は暴れ始めた本を魔法でとめて背中を撫でてなだめて陳列していたため、本の被害はなかった。
 生徒らも理解した上で本を持っているようで、ブルブルし始めた本の背を撫でてなだめている。

 こんな本を指定するだなんて呆れるね、という声にヘンリーは何かあった気がしてじっとマルフォイを見た。
 ヒッポグリフのバックビークが……。何だっただろうか。ここで起きたことが原因で殺処分されることになったが、そのきっかけの事件の詳細が思い出せない。
 うーん、と唸るヘンリーはバックビークの前でお辞儀をするハリーを見て、首をかしげる。一蹴飛んで戻ってきたバックビークから下りてきたハリーを見て、皆あちこちでヒッポグリフにお辞儀する。
 ヘンリーはどうしようかな、と思っているとバックビークと目が合ってしまい考えた結果その前に進み出た。
 
 お辞儀をして反応を待つがバックビークは動かない。
 それどころか首を傾げ、前へと進み出てきた。何が何だかわからず、思わず足をすくませるとバックビークは鋭いくちばしをすぐ目の前にもってきて、のぞき込む様にヘンリーに顔を近づけた。
 さすがに予想していなかったヘンリーは首元に冷たいくちばしが当たったことで腰が抜け、その場に座り込む。見下ろすバックビークはどこか困惑しているように見え、そこで何が起きたか気が付いた。
 先ほど背中に乗せたハリーと自分を混同しているのだと。もしかしたら人間の雄という視覚の認識と、匂いなのかそれとも動物的な何かなのか、人間の雌である認識に困っているのかもしれない。
 やっとハグリッドがバックビークを引っ張っていき、へたり込んでいるヘンリーをクラッブとゴイルが引っ張っていく。

「大丈夫だったか?」
 マルフォイの声にようやく息を吐いたヘンリーはびっくりしたぁとゴイルの手を借りて立ち上がった。魔法生物らには自分がどう見えているのだろうか、と考えるヘンリーはバックビークに向かうマルフォイを見て、あ!と声を上げた。
 なんで忘れていたんだ、とドラコ、と声を上げる。醜い野獣という言葉と共にバックビークの鉤爪が光ったのはほぼ同時だった。
 転がったマルフォイにヘンリーがかばうように覆いかぶさって、プロテゴを無言呪文で呼び出す。ガツン、という衝撃に頭を打ったヘンリーは何とか首輪をつけて連れて行こうと奮闘するハグリッドを見た。
 忘れていた自分が悪い、と青ざめるヘンリーはマルフォイの腕の傷を見る。すぐに連れて行かにゃならんと、こちらも青ざめた様子でハグリッドが駆け寄り、マルフォイを抱き上げ、ハーマイオニーが開いた柵の出口から城へと一目散に走って行った。

「ヘンリー!あなたも医務室に行った方がいわ!額から血が出てる!」
 パンジーの金切り声のような悲鳴に立ち上がったヘンリーはえ?と額に手を当て、血がにじんでいるのを見る。どうやらとっさに出したプロテゴでは強度が不十分だったのか、それともバックビークの力が強いのか。
 口々にハグリッドの悪口をいうスリザリン生らとともに城に向かうヘンリーをハーマイオニーが胸を抑えながら見ていた。顔に傷だなんて、と思わず口に出すハーマイオニーにロンが面白くなさそうに眉を顰める。

「マルフォイも大丈夫かしら。あんなに血が……」
「マダム・ポンフリーならあっという間に治すさ」
 魔法の授業において血が流れることは今のところあまりない。だからこそ生徒は動揺し、いつもハグリッドに好意的なグリフィンドール生ですら声を潜めて囁き合う。
 何度もいろんなケガで世話になっているハリーはふん、と言いながら、城に入るヘンリーを見る。彼はほんの少し前にあのバックビークに驚かされて腰を抜かしていた。
 だというのに、とっさとはいえマルフォイに駆け寄り、それ以上の追撃から守る様に身を挺してかばっていた。

 優しいというよりも無謀な彼に既視感を覚えて眉を顰める。今年、片割れであるハリエットから手紙も何も来なかった。ハリーから送ることもできないため、連絡するすべもない。
 たくさん話したいことがあるのに、とため息をついて頭を切り替える。今はハグリッドの心配をしなければ。


 その夜、課題に取り掛かるも集中できず、ロンとハリーは顔を見合わせた。まだ外はうっすら明るい。飼い猫であるクルックシャンクスに何かを持たせるハーマイオニーは何か言いたげにハリーを見る。
 その視線にハリーはむすっとすると脱獄犯であるシリウスが自分を狙っているから気を付ける様にと、ロンの父に言われたことを思い出す。だがここはホグワーツだ。ここで制限を受けるいわれはない。
 それでもどこか迷いを持ちつつ、3人でハグリッドのもとに行った。

 深酒をし、すっかり落ち込んだハグリッドは一日も持たなかったと嘆いている。
「理事らから聞いた話じゃ、その前に問題行動を起こしていたヒッポグリフをなぜ放って置いたのかってな。おまけにおれがびっくらしている間に、滑り込んだヘンリーまで怪我しちまって」
 きちんと見ておくべきだった、と鼻をかむハグリッドにハリーとロンがハグリッドは悪くないと、声を上げるがしょんぼりしたハグリッドには届かないようで、うぉんうぉん泣き続ける。
 気が動転しているあまり、友人を守った生徒に点数の加点もしないのか、とスネイプにも言われて自分は教員失格だとどん底まで落ち込んだ。
 あぁ、スネイプが出て来ていたのね、と内心ほっとするハーマイオニーもハグリッドは悪くないわ、と言いジョッキの中身を捨てに行く。
 愛猫に渡した手紙はきっと明日届くだろう、と今頃叱られているヘンリーを思う。
 樽で頭を冷やしたハグリッドはそこでハリー達3人に今更気が付いたように声を上げ、怒ったように3人を連れて城へと戻る。その様子に、ハリーはまたむすっと顔をしかめた。

どこに行ってもシリウス=ブラックだ!





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