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14:いつもの車窓

 揺れる列車の中、いつもの4人で座るヘンリーはマルフォイの夏の話を聞いて、笑いながら相槌を打つ。コロコロと変わる表情をじっと見つめるマルフォイにどうしたのかと、細い首を傾げた。

「ずいぶん表情を隠さずだすようになったな」
 見ていて飽きない、と言うマルフォイにヘンリーは少し考える。前からわかりやすいと母からもスネイプからも言われていた分、今更?と考えるがマルフォイ曰くそうじゃないらしい。

「以前はどこか押し殺したような顔をしていることもあったのに、それがない。時折見せていた素の笑顔だ」
 めったに見られなかったから少し惜しい気もするけど、と続けたマルフォイに意味が分からず、ヘンリーは何か心境の変化でもあっただろうと考えるも思い当たらない。

「それだけスネイプ教授に大事にされているということだな」
 にやりと告げられ、ヘンリーは顔を赤らめる。幸い、いつものように腰巾着二人はお菓子を食べて満足したのかすやすやと寝ているため、実質マルフォイと二人きりのコンパートメントだ。

「夏季休暇中も会っていたのか」
 とんとん、と首元を示すマルフォイにヘンリーは顔を真っ赤にして慌てて鏡はないかと鞄を探った。それを見て笑い出したマルフォイは冗談だというと、にっと目を細めた。

「そうかそうか。さすがは我らが寮監。しっかりマーキング済みというわけか」
 眩しいものを見るように目を細めるマルフォイに、ヘンリーは耳まで赤くなる。なんでマルフォイにだけばれているのか。さっぱり分からないし、こんな冗談を言うなんて彼らしくない。
 オイ、何時まで寝ているんだ、と二人を叩き起こすマルフォイはどこかに出かけていく。それを見送って、ヘンリーは素早く制服に着替えた。去年もこうして出かけていたのは彼の習慣なのだろうか。首をかしげていると、また不機嫌な様子で、どこかつまらなさそうに3人が戻ってくる。

「新しい闇の魔術に対する防衛術の教師は今年も期待するほどではなさそうだな」
 ふん、という彼はきっといつものようにハリーらに喧嘩を売ろうとしてすごすごと返ってきたのが癪に障るらしい。初めて聞いたとばかりに興味を示すヘンリーに去年とは真逆さ、とぼろぼろのコートを着ていかにも苦労しているという風だった男……リーマスの話をする。
 雨足が強くなってきたところで急に寒気を覚え、4人は顔を見合わせた。列車が止まる振動に車内がざわめく。

 
「いったい何が……」
 停電まで発生すると、マルフォイはヘンリーの手を握った。ヘンリーが目をしばたたかせると、マルフォイは気配を探る様に真剣な表情になって乗り込んできた謎の影を窺う。
 がらりといきなり開いた扉に驚くと同時に、ヘンリーのきゃしゃな体をマルフォイは引き寄せる。姿を現した異形の物をヘンリーに見せまいと、赤い髪を胸元に寄せ、抱きしめた。
 何が起きたかわからないヘンリーだが、廊下に現れた銀色の光によってディメンターが追い払われてほっと息を吐いた。大丈夫かい?と顔を覗かせるリーマスに礼も言わないマルフォイは黙ってヘンリーを胸に抱きしめる。
 大丈夫そうならよかった、と言ってディメンターを追い払うべくリーマスの姿が扉の向こうに消える。

「あぁいきなりすまない。また得体のしれないものに危害を加えられたら、と思った瞬間気が付いたら抱きしめていた。ただ、できればもう少しこのまま……」
 胸から直に聞こえるマルフォイに言葉にヘンリーは苦笑する。ずいぶんと皆に心配をかけたのだと、そう理解してありがとう、と口に出した。
 彼が本当は優しい所もあるというのはこの2年間で学習したことだ。それに、マルフォイもまたディメンターと言う未知の存在が怖かったのかもしれない。
 彼が落ち着くというのであればもう少しこのままでもいいか、と抱きしめられたままの体制でいたわる様に薄いその背中に腕を回す。
 驚いた様子のマルフォイにヘンリーは笑って、緩んだ手から起き上がった。

「っ、このことスネイプ教授には絶対に言うなよ」
 顔を赤くするマルフォイに、ディメンターが怖いなんて恥ずかしいことじゃないのにとヘンリーは内心で笑い、わかったと頷いた。そういえば今夜薬の調整の名目で呼ぶと言っていたことから、少し遅い時間になっても大丈夫なよう何かしてくれるらしいことを思い出す。
 列車から降りるとセストラルの牽く馬車に乗り、ヘンリーはいつもの日常に戻っていった。





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