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5:グレンジャー家
マクゴナガルとともにダイアゴン横丁にやってきた二人はマダム・マルキンの洋装店に入ると、互いに見ながら年相応の服を選んでいく。
ハリエットは服に関してあまり頓着しておらず、マクゴナガルも派手なデザインなどを選ぶわけでもないため簡素なものばかりだった。だがこうして同い年の子が選ぶとまた違ったデザインが選ばれて、ハリエットも楽しそうにハーマイオニーに服を選んでいた。
下着の話になると逃げ回っていたが、マクゴナガルがサイズを店員に言い、二人でデザインを選ばれるのを少し離れたところから見守る。
夏だけでも必要です、と言われて買った服を見るハリエットは顔を赤くして別の妄想をぶんぶんと振った頭から追い出した。もうスネイプの理性の壁を破壊するのは申し訳なさすぎる。
そんなハリエットを見るマクゴナガルは同僚にまたこの子がやらかしそうですわね、と心の内でそっと笑いかける。
ハリーが2年連続で例のあの人関係で穏やかな日常ではなかった。ハリエットもトラブルに巻き込まれやすいのか似たようなものだが、その小さな背に乗せられた重責は想像を絶するだろう。
だからこそ、彼女には他のことについてはできるだけ自由にさせてあげたい。教員と生徒と言うふしだらな関係ではあるが、彼女を見ていると何かそこにも意味がある気がして……マクゴナガルは軽く眉を顰めた。
来学期から着任した彼を思い浮かべる。娘らが魔法史の課題をどっちが先に書き終えるか競う様に、一生懸命書き綴けている間にダンブルドアからそう新任として口頭で紹介された彼。
在学中いつも4人で行動していた。あの事情に目をつぶればとても優秀かつ穏やかで、あの二人のいいブレーキ役だった。それでも止まらないジェームズを後の妻となったリリーがぴしゃりと黙らせていたのも覚えている。
そしてその彼女とよくいた現在の同僚のことも。闇に対する防衛術の教師が2年連続で騒動を起こしていたことから、彼を疑うわけではないが、何かしら……そう、現在収監中の彼などを含めた何かが起きそうな気がして、周囲への警戒を怠らない。そろそろ別れの時間になり、マクゴナガルは二人と荷物を手に姿くらましをした。
「ここがハーマイオニーの家なんだ」
へー、というハリエットにハーマイオニーははにかみ、音に気が付いたのか出迎えた両親とハグを交わす。
「かつて彼女の両親に魔法界のことを伝えたのはわたくしでしたのよ」
だから家も知っていたというマクゴナガルにハリエットはそうだったんだ、と頷くしかない。親友のハリエット、と紹介されドキドキしながらあいさつを交わす。
彼女の両親は自分が死ぬ前に、二人が婚約した際初めて会った。記憶を消して姿をくらました娘を叱るのではなく、記憶を戻した娘を褒め、彼女の心労を労ったという親友の両親。
両親のいない自分にはひどくまぶしく、家族の光景に切なくなったのを覚えている。そんなハリエットに気が付いたのか、マクゴナガルがそっとその背に手を当てた。
「マクゴナガル教授でしたね。娘から話は聞いております。来てくださったのですから、中に入ってお茶でもいかがです?」
「そうですわね。ではお言葉に甘えて。ミス・グレンジャーほど優秀な魔女はおりませんし、その話でも」
ハーマイオニーの母がそう切り出すと、マクゴナガルは表情を和らげてその申し出を受ける。私の部屋に荷物運ぶの手伝ってもらっていい?とハーマイオニーに促されハリエットは頷いて荷物を持つ。
彼女の耳が赤いからきっと恥ずかしいのだろうことは黙っておこう、と魔法を使ってはいけない城外であることもあり二人でひぃひぃ言いながらトランクを運ぶ。
リビングから時折笑い声が聞こえるから盛り上がっているのだろう。
楽にしてて、と言うハーマイオニーの部屋はハリエット同様あまり飾りっ気はない。本がたくさんあって、窓辺にちょこんと花が置いてある。
「前にダイアゴン横丁で見つけたの。魔法薬の材料になるぐらいで他には使い道も特徴もない花なんですって。でも語り掛けるといろいろな色の花を咲かせるのよ」
初めて触れた魔法界の物だから大事にしているの、と言うハーマイオニーにハリエットは微笑む。
あの一年の時、この部屋はどうしたのだろうか。そう思うと悲しくなって、ハリエットは静かに目を閉じた。気が付けば片手で足りるほどの年数しかない。
解毒に関してはダメだということが分かった。ポンフリーに言われたのだ。あなたはさほど血が流らなかったがために余計に毒が体に残ったのだと。
出血が激しい場合、毒は一緒に抜けることがあるのと、今回ハリエットがとっさにやったように縛る必要性があるのだと。だから場所によっては怪我を治すこと、流れた血の補給が大事なのだと、そう言われた。
だから次は治癒薬の勉強が必要だろう。果たして間に合うか……不安なハリエットだが、そこに窓を叩く音を聞いて、そちらに目を向けた。
「シーク、どうしたの?」
開けた窓から入ってきたのはハリエットのフクロウ、シークだ。学校のフクロウと同じ森フクロウのシークはハリエットの大事な相棒だが、普段はフクロウ小屋の中で他のフクロウに紛れている。
「うわ……律儀と言うか、なんというか」
思わず、ハリー時代の調子で声が漏れるハリエットは他に何か書いてないかと裏返す。羊皮紙に書かれていたのは日程表で、何やらこまごま書いてある。
脇から見ていたハーマイオニーも苦笑いして、何も文章も添えていない日程表を見る。誰からかなんて、この細い字に覚えがないわけがない。
「結構意外だけど、大事にされているのね、ヘンリー」
くすくすと笑うハーマイオニーにハリエットは顔を赤くするしかない。きっと、今ここにハーマイオニーがいることなど知らないのだろう。
そろそろ一人になっただろうと考え、ハリエットが空振りしないように、といない日や時間が書かれている日程表を送ったのだろうが、とハリエットも笑う。
明日は朝から母が出かけるのを聞いていて、スネイプも部屋にいるということで、もう予定は決まった。
彼が……彼が母の面影を追って自分を求めているのであれば……いや、求めているのだから、それはもう仕方がないことだし、わかっていたことだ、とハリエットは彼の一番になることはすっぱり諦めた。だから、もう気にしない。
夕食まで一緒になり、ハリエットはマクゴナガルと手を繋いでホグズミードに戻ってきた。帰る前にと三本箒でバタービールを飲み、二人並んで部屋に戻る。
ハリエットにとって初めて得た家族の温かさがこれ以上なくうれしくて、ハリーにこの家族の温かさを知ってもらいたいとより一層気を引き締めて、未来を変える決意を胸に抱いた。
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