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2:平常心平常心平常心

 翌日、一緒に眠ったハリエットが先に目を覚まし、ハーマイオニーが続けて目を覚ました。なんだか不思議な気分であいさつを交わし、目くらましをかけて一緒にハグリッドのもとへと向かった。

「おぉ……おぅ?ハーマイオニーでねぇか。ハリエットとどこであったんでぇ」
 出迎えたハグリッドは見慣れた少女と、夏にしか会えない少女という組み合わせに驚き、とりあえず中にと案内する。
「マクゴナガル先生の紹介でちょっとね。ハリーから聞いたのよ、アクロマンチュラを昔飼おうとしたって。ハグリッドの体の大きさなら抑えられるかもしれないけど……ここにはハリエットみたいに体の小さな子もいるから気を付けなきゃ」
 まったくもうと叱るハーマイオニーにハグリッドはバツが悪そうにして、でもあいつらは森の奥にいるから、ともごもごという。
 まぁアラゴグがいる間はね、とあの大戦を思い返すハリエットはそのあとのことを思い返した。闇払いとして仕事をしているときに知ったのだが、あの後森に逃げた吸魂鬼などと一緒に本来すむべき生物ではないとして“処理”されたという。
 仕方ないよね、と思うハリエットだが、それを言うわけにはいかないし、酷い目に会ったハリエットとしては同情する気も起きない。
 大体、この後大きな生物を連れてくるし、なんなら作るし、とハーマイオニーとハグリッドを見ながら紅茶とともにそれを飲み込んだ。

「そうだおめえさん達に……あぁだめだ、まだ言わんほうがいいだろう。あー……そういえばこのイッチ年間騒がせたバジリスクって知っちょるか?」
 何かを言いかけてやめるハグリッドにハリエットはくすっと笑ってハーマイオニーと目を合わせて頷く。ハーマイオニーに至っては一瞬のことだっただろう。ハリエットにとってもあのペンダントに黄色い目が映ったのが忘れられない。

「ほんと大きな蛇だよね。雄鶏の時を告げる声が嫌いで、アクロマンチュラの天敵」
 後々、ロンとハーマイオニーがその屍から牙をとって分霊箱を壊したと聞いたが、5年たっても消えない毒に恐ろしさを覚えた。
 そしてその牙が今回足をかすめ、そして毒が体を巡ったのだ。前回と違ってかすめただけだったからか、毒が少なくてよかった、とポンフリーから聞き、フォークスの涙が無ければあの時あの場所で本当に死んでいたのだと、改めて思い知ることとなったのはつい最近の事。

「そうか、おめぇさんホグワーツで起きたことは何でも知っとるんだったな。パーセルマウスじゃなきゃ扱えねぇってんで生きている個体はないっちゅう話だったんでちぃッとどんな魔法生物か気になって……あぁ安心してくれ。育ててぇわけじゃない。あれは……一人の生徒の命を奪った……」
 あれはさすがに危険というレベルではねぇ、というハグリッドに二人はほっと息を吐いて、顔を見合わせて笑う。やっぱり心配だよね、と視線でのやりとりをする少女たちにハグリッドは気が付いていない。

「あら?この本新しいのね」
 そう言ってハーマイオニーが示したのは怪物的な怪物の本、だ。本当にどっからこんな本探してくるんだろうというのと、誰がこんな本作ったんだ、と呆れるハリエットはいつ牙をむくともしれない本に視線を送るだけにとどめる。
 ハーマイオニーは知らない本があると興味がわくのか手を伸ばそうとして、急に牙をむいた本にかまれそうになる。

「びっくりしたわ……こんな本があるのね」
「あぁこれは背中を……あー背表紙か。背表紙を撫ぜりゃぁ大人しくなるんだ。覚えておくといいぞ」
 そう言いながらひょいと本を持ち上げ、背表紙を撫でる。途端におとなしく本に戻ったのをハーマイオニーは面白いわと笑って本を開いた。
「本屋さんでもそれ扱いに困るそうだから、背表紙を撫でる様にって本屋さんに教えてあげたほうがいいかもよ」
 透明術のための透明な本で泣いたことがあるというあの店員を思い出し、さすがに本のばらばらとか可哀そうになってハリエットが口を開く。

「おぉ!確かにそれもそうだ。ちょっと変わった人が書いているっちゅう話だから入荷をお願いする時にそう言っておこう」
 未来にかかわる事じゃないが、少しでも周囲の負担を和らげたくて助言するハリエットにハグリッドはうんうんと頷いた。
 ……これで本の被害が減るといいんだけど、とハリエットはハーマイオニーとともに次行こうか、と視線で会話し紅茶を飲み切った。


 ハグリッドと別れを告げ、目くらましをかけ直した二人は城の外を巡り……ここで噛まれたの、と東洋のアネモネが植えられた場所までやってきた。
「なんでこんなところにきちゃったのよ」
「うーん……ル……女子生徒の声が聞こえてそっちに逃げちゃまずいと、それだけ考えていたらここまで来ちゃったんだ。ここ、スネイプ先生がよく薬草を取りに来ているから……無意識かも」
 石のベンチに腰をおろし、なんでここまで来たかなーと風になびく髪を抑える。おかげで他の人を巻き込まなかったが、思えばとても危ない行為だった。
 口を開きかけたハーマイオニーだが、誰かの足音に気が付き、ハリエットと共に視線を向ける。

 ちょうど背の高い草木に囲まれていたからか、石ベンチに腰を下ろした二人が見えていなかったらしいスネイプが現れ、ハーマイオニーは反射的に固まり……同じように動きを止めたスネイプを見る。
 スネイプは一度ハーマイオニーに視線を向けた後、その視線を隣に向けて動かない。なんとなくつられて隣を見たハーマイオニーはびっくりしたのか、それとも何なのか。
 何とも言えない……恥かしさを誤魔化そうとして失敗したような、思わず口角を上げそうになるのを堪えるような。そんな顔をして顔を赤くしたハリエットを見た。

 そういえばこの二人医務室で当たり前のような顔で並んでいたような、と思い出すハーマイオニーの目の前ではっとしたように動き出すハリエットがポケットから瓶を取り出し、顔を背けて一気に煽る。
 途端に赤くなる髪にこうやって姿を変えていたのね、とハーマイオニーが見ているとその一連の行動に何を思ったのか、小さく吹き出す様な音と、誤魔化す様な咳払いが聞こえて、今度はスネイプに視線を移す。呆れたように顔を片手で覆うスネイプにもう一度ハリエットを見ればヘンリーの姿になっていた。

「こんにちは。スネイプ先生」
 少し低くなった声であいさつをするヘンリーだが、スネイプは顔をそむけたまま動かない。ン?と首をかしげるヘンリーをハーマイオニーは見つめて……彼女の失態に気が付いた。
「ハリエット、あなた今女の子の服よ!」
 何しているのよ、と笑うハーマイオニーに視線を落とすヘンリーはワンピース姿であることを思い出し、髪と同じくらい顔を赤らめた。
 これじゃ女装だ!と焦るヘンリーにスネイプが深呼吸するのが聞こえる。

「何を考えているのかわからないが、不用意な行動は慎みたまえ。そんなことではいずれぼろが出ますぞ」
 やっと口を開いたスネイプはいつもの無の表情で、先ほど笑いかけていたのが嘘のようだ。耳の先まで赤くなったハリエットから目をそらすスネイプは気まずそうにした後、いつものようにうつむいた赤い髪に手を置く。

「ハ……ヘンリー、今度薬の改良のため、できれば薬を飲まずに我輩の部屋に来たまえ」
 軽くなでるスネイプにうつむいたままハリエットはこくりと頷くだけで答えない。この二人の関係……と考えるハーマイオニーはがばりと立ち上がったハリエットが手を引いて走り出したため、転ばないようにしながら待ってハリエット、と言いながら追いかけて行った。

 残されたスネイプは大きく息を吐き、平常心と唱え必死に無心になりながら……ミントを必要以上に収穫していく。
 夏休み始まってすぐヘンリーが部屋に来ないため、グリフィンドールの少女に苛立ちを覚えたが、いてよかった、と先ほど二人が座っていたベンチに腰を下ろす。あんなことをされたら確実に押し倒していた。






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