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ムスカリで紡ぐ不器用な花冠
3学年編
1:お泊り会
比較的安全だと思っていたはずが、またもやバジリスクに関わることとなり、噛まれたあげく石化し……。ため息を吐くハリエットだったが、嬉しいこともあった。
スネイプと恋人関係になれたことと、と物珍し気に人気のないホグワーツを見回すハーマイオニーに視線を移す。
また、彼女と親友になれたことだ。彼女がポリジュースで変身してくれてよかった、とそう思えてただいま、と変身術の教授室を開けた。
「はっ入ります」
緊張した面持ちのハーマイオニーが続き、マクゴナガルがいつもの厳格な雰囲気を和らげ、ようこそ、ミス・グレンジャーと声をかける。
薬が切れ、ハリエットに戻ったヘンリーがこっち、と何もない扉に手をかけた。触れたところから扉が現れ、驚くハーマイオニーをしり目にハリエットはその扉を押し開いた。
「ここが私の部屋。そこの本棚は施錠しているから開かないけど、こっちの戸棚はいつでも見て平気だから。明日はハグリッドの所に行こう」
友人が家に来る。そんなこと今までなかったハリエットは少し浮ついた様子でえぇっと、慌てる。散々泣いて疲れて眠って……起きたら母からハーマイオニーが数日泊まることになったと聞いたのだ。
もう何が何だかわからないままに夏休みになって、ハリエットは心の準備もままならないままに今日を迎えてしまっていた。
ハーマイオニーも友達の家に泊るということはあまりなかったということと、それが教員のいる家というのに緊張しているようだ。
ハリエットの自宅がこの部屋ということで、誘って申し訳ないのだけれども、とマクゴナガルがハリエットの寝台を少し大きく変える。
「あ、私は床でも全然大丈夫だから、ハーマイオニーが寝台を使ってよ」
慣れているから大丈夫、と言うハリエットにハーマイオニーはぎょっとするようにそれなら一緒に寝ましょうよ、と引き止める。
それに驚いたのはハリエットで、どうしようと考えながらそういえば大広間でみんなで寝ていたこともあったんだっけ?と思い出し、じゃ、じゃぁそうしよう、と笑う。
とりあえず荷物を置いた二人がリビングに戻ると、マクゴナガルがお茶の準備をしていて、屋敷しもべ妖精のベベの焼いてくれた糖蜜パイが切り分けられていた。
「減点することも何もないので、緊張しなくてもよろしいですよ。それと、城内ではまだ魔法が使えます。部屋から出る時はハリエットに目くらましの呪文をかけてもらえば出入りに制限はありません」
あなたも覚えておくと何かと便利ですよ、とマクゴナガルは柔らかく微笑み、仕事があるのでまた夕食の時間に、と部屋を出ていく。
そこでやっと一息つくハーマイオニーは本当にここに住んでいるのね、とハリエットを見た。
「うん。生まれてすぐあたりからずっとここに住んでいるよ。前にポリジュース薬の時に意味わからないこと言っていたかもしれないけど、その……未来をちょっと知っていて。この力を悪用されないようにって、それで隠れているんだ」
だからここ以外の世界はちゃんと知っているけど、私はほとんど出たことがないという。3学年に上がったら占い学を専攻しようとしているハーマイオニーはそんなことがあるのね、と一人重々しくうなずいた。
それにしても、と外の世界はわかるという少女の横顔を見る。この13年間ずっとこの閉ざされた世界の中生きてきたという。
ハリーからどんなふうに過ごしてきたかを聞いた時、彼も彼で魔法を嫌っているマグルの親戚の家で物置で過ごしてきたと聞いていた。全く別の環境に居ながらにしても似た境遇にいたことが不思議でならない。
「あなたもハリーも11歳まで会ったことはないのよね。なんだか不思議だわ……」
全く違う環境で育ったのならばもう少し違う性格になるかと思えるのだが、二人は見かけだけでなく中身もよく似ている。なんとなく、ハリーがすぐかっかするのに対し、ヘンリーことハリエットは以前ロンと少しもめた時はどこか悲し気だった。そんな違いくらいしかない。
「まぁ……そうかな。私とハリーは対だから。だからそうなのかも。ただ、ハリーは私のことは知らないけれども、私はハリーのことは何でも知ってる。それがハリーを苦しめることはわかっているから、だから彼が私を必要としているとき以外会わないようにしてるんだ。まぁこの前は私がどうすればいいかわからなくて会っちゃったんだけど……やっぱりそれはダメなんだってことが分かったから」
私が主体として動いちゃだめなんだ、というハリエットにハーマイオニーは何も言えず、じっとその横顔を見つめるしかできない。直感的に彼女は彼女が語る以上の秘密と重責を抱えている。
そんな気がして、カップを握る細い指を包む様に軽く握った。
「ハリーとあなたがどれだけのものを抱えているのか、まだ私にはわからない。だけど、友達としていろんな話をしましょう。私、もっとあなたのことが知りたいの」
いいでしょ、と笑うハーマイオニーにハリエットはにこりと微笑んでうん、と頷いた。
授業の事や呪文の事、様々話をしていたハリエットとハーマイオニーは夕食の時間になり、戻ってきたマクゴナガルとともに小さなリビングで食事をとる。
ホグワーツの屋敷しもべ妖精である乳母のベベが作ったものが机に並べられ、二人はホグワーツのご飯美味しいよね、と笑いながらいつもより賑やかに食事を楽しんだ。
「そういえばハリエット、いつもマルフォイといるのを見るけど、仲がいいのかしら?」
食後のティータイムにそう切り出したハーマイオニーにハリエットは少し考えてそんなにいつも一緒かなと、首をかしげる。思い返せば食事の時はほとんどマルフォイの隣ではあるが、それは彼が席を取っておいてくれるからであって、特にそこに意味はないだろう。
「スリザリンの中では一番よく話しているかも。一部の人はすぐ肩に手を置いてきたり、人のお皿にソーセージとか入れてくるけど、そういえばドラコはそんなことしないから……やっぱり安心できるとは思うかな」
後輩からはあまり声をかけられてないが、そういえば今年は談話室にいる時は誰かしら同級生か上級生がいて、後輩は近くにすら来なかった。
それに、ヘンリーとしては口数の少ない寡黙な地味キャラを作っているため、聞き役に回ることが多い。
……と思っているが黙っていようとして、口に出さない分コロコロ変わる表情に、本人の知らぬところでスリザリン寮生からは皆恥ずかしがり屋の可愛いキャラとして認識されている。
そのことは寮の違うマクゴナガルから見ても、本人の動向からきっと寡黙で地味で、陰にいるキャラを作ろうとして、コロコロ変わる表情がそのキャラづくりを失敗にさせている、と彼女の認識がずれていることを見抜いている。
思えば、彼女が作ろうとしていたヘンリーとしてのキャラは彼女の……想い人であるかの教員の学生時代に似ている……ような気がするとマクゴナガルは思い出す。 だが彼女が、いや彼が大嫌いな教師の過去をどこかで知りえる機会があるのだろうか、と内心で首をかしげた。
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