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29:親友

夏休みに入ってから改めて話しましょう、とスネイプとハリーに告げるマクゴナガルは実は、と医務室の扉に目を向けた。
「彼女が、あなたが目を覚ましたのなら是非にと。ポリジュース薬のことは聞いております。あなたには同性同士の友達も必要でしょう。彼女からもしもあなたに不利であるのならば記憶を消しても構わない、とそう窺っています。おはいりなさい」
 彼女が信用できるのは貴方ならよくわかるでしょ、とハリエットに視線だけで告げるマクゴナガルは声を張り上げ、扉の向こうにいる少女を呼び寄せた。
 少し緊張した面持ちで入ってきたのはハーマイオニーだ。ハリエットの近くにいるスネイプに驚きつつ、中へと進み出た。

「私のポリジュース薬って何色になった?」
 沈黙が続き、切り出したのはハリエットだ。かつてみんなが飲んだのは金色だった。だから、と気になったハリエットにハーマイオニーは銀色だったわと答える。
「すごくきれいだったから、ハリー達もほっとしてそれぞれ入れたら、鈍い色になって」
「クラッブとゴイルだからしかたないよ。そっか、銀色か」
 酷い顔してたわ、というハーマイオニーにハリエットは笑って、対となる色になったことになんだか嬉しくなる。
 目の前で堂々とポリジュース薬の話をする二人にスネイプとマクゴナガルはやれやれとため息をそっと吐いた。それで、とようやく決めたらしいハーマイオニーがじっと親友と同じ顔の少女を見た。

「ヘンリー、これがあなたの本当の姿なのね」
「そう、ハリーの片割れ。いろいろ事情があって……正体を隠さないといけなくて。スネイプ先生が開発してくれた薬を飲んで男装しているんだ」
 今は効果切れちゃったけど、と微笑むハリエットにハーマイオニーはにこりと笑い返す。
「やっぱりそうなのね。鏡を見た時ビックリして、マートルとかが覗きに来ないとも限らないからすぐフードをかぶって顔を隠したの。ハリー達にも眼鏡が合わないからいけないって言って。よかったわ、とっさの判断だったけど……。あ、そうだわ。これは予測だったんだけど……あなたの名前、ハリエットよね?ヘンリーと同じ愛称で、ハリーと呼べるもの」
 間違えていたらごめんなさい、と言うハーマイオニーにハリエットはさすがハーマイオニーだ、と呟いた。彼女はいつだって……ロンが絡まなければ鋭いのだ。
 つい先ほど本人から名前を聞いたスネイプはそういうことだったのか、とマクゴナガルの視線から逃れる様に顔をそむける。確かに、離れ離れになるときにリリーであれば二人を繋ぐものとしてそう名付けるのは容易に想像できたはずだ。

「ねぇハリエット。秘密の友達になりましょうよ。たくさん話したいことがあるのよ。それに私いつもあの二人といるけど、同性の友達で色々話せる相手があまりいなくて。あなたが危険な目に合わないよう、ハリエットが……あなたが誰かに言うまで絶対に秘密は守るから。だから」
 ハーマイオニーはハリエットの手を握り締めると、友達になって、とそう告げる。
 まさかまた彼女と友達になるなんて、考えもしなかったハリエットはトロールから始まって、シリウスを助けに行って、一緒に呪文の練習をして……ハーマイオニーとの思い出が脳裏によみがえり気が付けばボロボロと涙をこぼしていた。
 驚いたハーマイオニーがごめんなさい、嫌だった?とのぞき込むと首を振って驚くハーマイオニーを抱きしめる。ずっとずっと支えてくれた大切な親友。
 その一人と再び友情を結べたことがうれしくて、ハリエットは心が軽くなった気がして、涙をこぼし続けた。

 石化から戻って、抱きしめてくれる腕と、運命のことはできなくともそれ以外の相談ができる親友が一度にできたことに嬉しくて、感情が暴走するままに泣きじゃくり続けた。
 目覚めたばかりで感情が高ぶっていたおかげか、泣きながら眠りに落ちて行ったハリエットにハーマイオニーは黙って見守っていたマクゴナガルを見る。

「彼女は……ある特殊な力を持っているために公に出ることができません。おそらく、主に文通の身になるかと思いますが……」
「もちろん、ヘンリーに対して不利になるようなことはしません。ただでさえハリーが危ない目に会っているのですから。それに、ハリーから聞いたんです。ヘンリーが襲われたのは自分のせいじゃないかって。ヘンリーの顔がハリーのお母さんに似ていて、雰囲気も近い気がするって。バジリスクは本当は自分を狙ったのに偶然近くにいた彼が間違えられたんだって、そう言っていました」
 だから、彼女も狙われる確率が高いと思うんです、とハーマイオニーは眠っているハリエットを見る。
 とても初めて会話した気分ではないほど、親友に似ている新しい親友。マクゴナガルはその通りです、と頷くと何かを考え、杖を振ると羊皮紙を飛ばした。

「ミスグレンジャー。あなたは夏休み始まってすぐ2,3日ほどでしたら空いていますでしょうか?」
 唐突に予定を尋ねるマクゴナガルにハーマイオニーは少し考えて、空いています、と答えた。
では、と言ったところで羊皮紙が戻ってきて、それを見たマクゴナガルは満足そうに頷く。
「あなたが良ければですが、夏休み中のホグワーツに泊っていきませんか?」
 半日程度ならばヘンリーの姿で外出できはするものの、泊まることのできないハリエットは夏休み中ずっとここにいるしかない。だから代わりに、とそういうマクゴナガルにハーマイオニーは驚き、是非、と答えた。


 
 





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