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30:2学年目を終えて

 眠っていたがために少し筋力の落ちてしまったヘンリーは、汽車に乗るのにゴイルとクラッブに荷物を持ってもらっていた。
 そしてそのままいつもの3人でコンパートメントに入ると列車が動き出す。ケガは大丈夫かと聞かれ、ヘンリーはすっかり元気だよ、と心配げなマルフォイに答えた。
 まさか彼が襲われるとは思っておらず、マルフォイが悪いわけではないのに罪悪感に駆られているようであった。

「どうしても朝欲しい薬草があって、取りに行ったら鉢合わせたみたいで。バジリスクも驚いたし、僕も驚いたしで、互いに軽く混乱していたのかも。スネイプ先生にも多大な迷惑をかけちゃったから……医務室で反省してました」
 スリザリンの化け物もやっぱり動物だったんだね、というヘンリーにマルフォイは呆れたように息を吐いた。単独行動禁止と言われていたのに何をしているんだ、と首を振って……苦笑いをするヘンリーの額を指ではじく。いきなりおでこをはじかれたヘンリーは驚き、目をしばたたかせた。

「石化した後、スネイプ教授は平静を装っていたが、グリフィンドールとのいさかいが起きた際、スリザリン寮からも減点をし、提出物の合格範囲がかなり狭められていた」
 どうやら相手が何寮であるのかを考慮していない風だった、と言うマルフォイにそれが普通のはずなんだけどな、と心の内で呟きそれは災難だったね、と苦笑するにとどめた。
 ヘンリーが何を呑み込んだのか、気が付いている風のマルフォイは肩を竦めて見せ、ため息を吐いた。マルフォイの父ルシウスは理事を辞めさせられ、以前のような権限はなくなってしまった。そのことが彼に少し影を落としているようだった。

「それにしても、なんで今年も僕は平穏に終われないんだろう」
 去年は自ら飛び込んだのもあるが、今年は徹底的に避けていたはずなのに次から次へと……。そう思ってため息をついていると、マルフォイはニヤリと笑ってトラブルメーカーではなく、トラブル吸引機、と言い放つ。
「なんだいそれ」
「トラブルメーカーと言えばあのグリフィンドールの双子みたいなものを示すけど、ヘンリーの場合自分で吸い寄せているのに自覚していないから、あっち行っては一つのトラブルを引き寄せ、こっちに行っては新しいトラブルを引き付ける。そんな風に引き寄せ続けていると、怒ったスネイプ教授に部屋に軟禁させられるぞ」
 首をかしげるヘンリーにマルフォイは不穏なことを堂々と言い放つ。軟禁……と聞いて目をしばたたかせたヘンリーはスネイプの寝台に抑えつけられる絵を想像して、無い無いと首を横に振る。
 無いはず、とだんだん自信がなくなって、やりかねないな、と両手で顔を覆った。
 耳まで真っ赤になっているヘンリーにつられて赤くなりそうなマルフォイはだから来年こそは気を付けて行動するようにと言う。

「うん……そうする……あれ?なんでスネイプ先生が軟禁?」
 顔が赤いヘンリーはあれ?と気が付いて顔を上げ、マルフォイを見つめる。やっときがついたのか、とため息を呑み込むマルフォイは耳を貸せ、と言ってヘンリーの耳に顔を寄せた。
「付き合っているんだろ?ペンダントも、指輪も……ブレスレットも。さすがわれらが寮監。なんだかんだ言っても、スリザリンらしい人だ」
 ズバリと言い放つマルフォイにヘンリーは嘘、と頬に手を当てた。このままではスネイプに迷惑が、と思い悩んでいると、マルフォイがヘンリーの頭に手を置いた。

「いや、スネイプ教授ぐらいの大人でないと、こっちが心配で仕方がない。気が付いている奴らもそれはそれで想定内と思っている。それに、あのダンブルドアが気が付いていないわけがないのだから、僕らがとやかく言う必要はないだろう」
 そう言って、赤い髪をぽんぽんと叩くマルフォイにヘンリーは顔に出ないようにしなきゃとため息を吐いた。来学年もまた騒動に巻き込まれそうな気がして、マルフォイは小柄なヘンリーに笑いを零した。


 プラットホームに滑り込んできた列車から降りていく生徒に混じり、ロンドンに出たヘンリーは路地に曲がってはいっていく。
「お待たせハーマイオニー」
 先についていた親友に笑いかけて、人目が無いうちにポートキーを取り出し、ホグワーツへと戻っていった。ヘンリーの記憶にある静かで……嵐が来る前の穏やかな最後の夏が始まろうとしていた。



ムスカリで紡ぐ不器用な花冠 第二学年 終








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