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17: 敵うはずもなく

 クリスマスの朝、今年は他に寮生がいるということで、部屋で仕度をすませヘンリーとなって談話室へと入る。すでにマルフォイらが起きていて、プレゼントの山に手をかけていた。
「ヘンリー、去年もこんな感じだったのか?」
 そう言って示されたのは去年と同じ山。さすがに笑うしかないヘンリーは食べ物関係をあとで見てもらうため分けて置いていく。それを見たマルフォイは去年スネイプが言っていたクリスマスで懲りたのではないかという問いかけを思い出し、すぐに納得する。

「今年は魔法薬が入ってないといいんだけど……」
 食べたかったな、とのんきなヘンリーにため息がでるマルフォイは先に行っているぞと談話室を出ていく。残されたヘンリーはがさがさと母とスネイプからのを探して手に取った。
 マクゴナガルからは着られる毛布ということでふわふわのガウンが入っていた。スリザリンの部屋は寒いでしょうというメモに思わず笑みがこぼれる。確かに、グリフィンドールの塔よりは寒いな、と頷いてスネイプからの袋を開ける。
 付き合うともはっきり言いあってはないが、クリスマス前の休日は魔法薬を生成するスネイプの隣で初歩的な解毒薬を作って……終わった後は紅茶を飲み、別れ際にいつものようにキスしてという関係になった。
 いつぞやのロンとラベンダーのべたべたカップルには閉口したが、スネイプとのこの距離感は落ち着いていられる。いつか話さないと、と思うヘンリーだがそのタイミングがまだつかめていない。

 そう考えながら開いた袋の中身は小さなリングが入っていた。黒い小さな石が嵌ったリングはどう見ても薬指にも入らなそうな大きさをしている。もしかして、と小指に着ければぴたりと一致し、こういうのもあるんだ、とヘンリーは思わず笑みがこぼれる。
 ダンブルドアからは今年はないが、いつもくれるわけではないため気にせずヘンリーは小指にリングをはめたまま大広間へと向かった。


 怪物がいるというホグワーツにおいても帰らない生徒はいて、この日ばかりはそのことを忘れるかのように賑やかだ。スリザリンの席に座ったヘンリーは右手にリングをはめたままパンを手に取る。
 その手に光るリングに気が付いたのはマルフォイだ。咽そうになるのを堪え、まじまじと朝はなかったヘンリーの装飾を見つめる。

「それ……」
「え?あぁ、うん。彼からのプレゼントだったんだけど小さかったから小指用なのかなって。この前、やっと勇気を出してその……付き合えることになったんだ」
 こそっと耳打ちするヘンリーにマルフォイはあれ?と首をかしげる。髪紐を贈ったり、ペンダントを贈ったりしていたというのに付き合っていなかったのか、という目でみるがリングを見て嬉しそうなヘンリーは気が付いていない。
 リングに気が付いたのは他のスリザリン生もだ。黒い宝石はなんだろうかとひそひそと話され、すでにヘンリーが誰かと付き合っていることに疑いの目をマルフォイへと向ける。
 それを受けるマルフォイは心外だという顔をして、ちらりと教員席を見る。咽ているマクゴナガルと我関せずという顔をして食事をしている寮監がおり、ヘンリーのわかりやすい態度と照らし合わせてもそういうことでいいんだよな、と考える。

 スリザリンらしくペンダントやらリングやら……束縛気質というよりも独占欲と言うべきか。初めから誰もかなうわけがないんだよな、と視線をそらし食事を再開させた。


 大広間に来たヘンリーを目で追っていたマクゴナガルはその手に光るものに気が付き、思わず咽てじろりとスネイプを見る。我関せずという風だが、長年の付き合いだ。彼が非常に上機嫌であることは元教え子ということもあって確信を持って言えること。

「セブルス、ミネルバ。このあと少し時間とってもいいかの」
 静かに、それでいてはっきりと伝えるダンブルドアに両隣から了承の意が返る。

 校長室に集まった、何か言いたげなマクゴナガルといつものように表情を消しているスネイプを見て、ダンブルドアはどこから話そうか、と口を開いた。

「いつから気が付いたのじゃ?」
「彼が時々纏う魔法薬の匂いがしておりましたのと、あのクィレルの件で気絶した彼から飲ませたばかりと思われる魔法薬に確信を持ちました。夏に魔法薬の材料を買うのに同行した際、隠してはいましたが該当する材料を手にしていたので、間違いはないと」
 ダンブルドアからの問いかけにスネイプは抱いていた疑惑と、確信に至るまでの話を告げる。ペンダントから気が付いているだろうことはマクゴナガルからダンブルドアには伝えられていたが、あの時か、と怪我をしたヘンリーを思い浮かべた。

「では、彼女が誰かは」
「いつぞや囁かれていた“ポッター家の長女”でしょう。それ以外に髪の色や性別を偽る理由は思いつきませんな」
 マクゴナガルの言葉にもよどみなく答えるスネイプにダンブルドアと二人視線を交わす。彼が知っているのは“ポッター家の長女の噂”だけなのだと確認し、怪訝な顔のスネイプを見る。

「その通り。彼女は未来を見る力がある。だが予言者と異なり、口外することはできない力じゃ。それに彼女の気質もあるんじゃろう。誰かを巻き込みたくないという思いが強いせいで誰とも深く関われずにおるのじゃ」
 謎の取り巻きらがいないときはいつだってヘンリーは一人だ。それはスネイプも気が付いていた。図書室で勉強するにも彼は一人で行動している。
 あまり大きな群れを成さないスリザリンだからなのかとも思えるが、それにしてもヘンリーはいつの間にか消えて、離れたところで一人違う方角を見ている。だから余計に放っておくことができない。

「そんな中……セブルス、君にだけ距離を縮めたいとそう考えているようじゃ。その理由はヘンリーに聞くしかないじゃろう。じゃがこれは憶測ではあるのだが、彼女は純粋に君を慕っている……そう見えてならんのじゃ」
 ダンブルドアの言葉に無邪気な笑顔を想いうかべるスネイプはそうでしょうな、と頷く。双子共に揃って嘘が下手なのは見ていてわかる。純粋で無垢で……小生意気なハリーとは違う大人しいヘンリー。
 階段から飛び降り、双子の片割れのためにクィレルを亡き者にし……とやることは大胆かつ思い切ったら即行動と呆れる事ばかりなのだが、華奢で繊細で……どこかリリーを思い出させる。それがヘンリーだ。

「よほど閉心術にたけて演技がうまく完璧に演じ切るものでなければ、あれほど表情豊かにすることはできないでしょう」
 時折閉心術を使っている風でもあるが、驚いて振り向いたときに瞬時にかけている様子はなく……あの日の秘め事だって彼は……。ダンブルドアにまで関係が危惧されているのならばやはり付き合うべきではと考えるスネイプだが、それに気が付いたらしいダンブルドアがにこりと微笑みながら今回はそのことではないとはっきり告げる。

「彼女の交友関係などはわしは何も言うことはない。節度は持ってほしいのじゃが……あの子と保護者であるミネルバに一任しておる」
 意外な言葉にスネイプは思わず片眉を上げ、探るようにダンブルドアの青い瞳を見つめた。そこからは何も読み取れず、ため息をついて先ほどからじっと見ているマクゴナガルに視線を移す。

「わたくしとて、あの子についてとやかくは言いませんよ。ただし、ご自分の気持ちを誤魔化したり、ヘンリーのためと無理に合わせたりするのだけはやめてもらいましょう。それでなくともあの子は……。いえ、何でもありません。今回はそのようなことを注意する場ではありませんね?ダンブルドア校長」
 言いたいことは沢山あれど、二人について口出しするつもりはない、とそう苦いものを噛みながら言うかのようなマクゴナガルにスネイプは眉を寄せる。
 普段のマクゴナガルであれば規則は規則として、絶対に曲げないと言うのになぜヘンリーに関することは目をそらすのか。それが分からないスネイプは知りえた情報から推測しようとするがそれほどまでに彼の……彼女の未来予知は正確無二であるのか。
 そして誰にも相談することもできない……このことについても不可解だと感じているスネイプは何か隠されているのではないかと考えている。だが、今まで得た情報からもそれ以上のことは見つかっていない。

 今回呼ばれたのはどこまでスネイプは気が付いているか……その確認だったのか、と何とも居心地の悪さを覚えて……ため息を飲み込んだ。
「ヘンリーの飲む魔法薬については引き続き改良の余地がある限り、その研究は続けましょう」
 彼との関係についてはじっくり考えればいい、そう判断するスネイプにダンブルドアは頷く。もう下がってよい、という言葉に下がろうとしてスネイプはマクゴナガルを振り返る。

「彼女の……ヘンリーの本名はなんというのですかな」
 ポッター家としての名は何か。好いているからこそ、その名を知りたい、と問いかけるスネイプにマクゴナガルは微笑む。
「レディの名を他人から聞くなどいけませんねセブルス。そういう大事なことはきちんと本人から聞けるようにならないと」
 それでは私はこれで、と先に部屋を出るマクゴナガルにスネイプは少し顔をしかめて自室へと戻っていった。

 
 




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