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10:ドラコの初陣
いよいよ迎えたクィディッチの日。ピリピリとした空気の朝食をすませ外へと出る。今にも雨が降りそうなのを見て、何人かが傘を手にしていた。
ヘンリーは黒いローブを着て、雨が降ったらフードをかぶろうと防水の呪文を唱える。
ドビー製のブラッジャーの軌道はだれがどう見てもおかしい。
よりによってマルフォイの初陣にこの騒動を起こすとは……さてはドビー、何にも考えてなかったな?とヘンリーはため息をついた。
雨脚が強くなると、フードをかぶってじっとハリーを見つめる。あとから知ったことだが、あの骨生え薬の開発者はポッター家の先祖だったという。
そのおかげか、子孫であるポッター家には収益の一部が金庫に送られていたという。つまりは、との程度の金額かわからないものの、あの時飲んだ薬は巡り巡って一杯のカボチャジュースになっていったのだろう。
全く持ってうれしくない情報だ。まだ祖父の開発した直毛薬のほうがありがたい気がする。結局ハリー自身がお世話になることはなかったし、ヘンリーの姿もハリエットの姿も必要はないので、ハーマイオニーしか使うこともない。
飲み続けなければすぐ戻るという話から改良の余地ありそうだなとため息がこぼれる。自分はそこまで魔法薬に精通しているわけでもないし、ジニーだってそれはない。自分がスネイプと結婚でもすれば改良できるのかな、と無意識に考えて顔を真っ赤にして俯く。
ちょうどハリーの腕が折れたタイミングで、そのまま地面に転がったため誰もヘンリーの奇行には気が付いていなかった。
だから、と自分に言い聞かせるヘンリーはピッチで行われた騒動にも気が付かず、熱い頬に手を当てる。スネイプが何を考えているのかなんて全く分からない。
そもそも、付き合ってすらいないというのに、今では唇を合わせると高確率で深い口づけをされ骨抜きにされる。
さすがに押し倒されたのはあの日だけだが、足の力が戻るまで寄りかかると首に痕が付くんじゃないかというほど執拗に口づけられ、食まれる。
おまけに最初こそびっくりしたものの、最近はただ合わせるだけの口づけを含めて9割がたスネイプの手が背中と腰ではなく、逃さないという様に頭と臀部にまわされ、わしづかみされている。
もう慣れたというとおかしな話だが、少しずつスネイプの奇行が大胆になっているのと、慣らされている気がして、訳が分からない。
中身は20に12足したほぼスネイプと同年齢だけど、見かけは12歳なんだけど、と頭を抱えるヘンリーは顔が熱い、と他の生徒らとともに雨から逃げる様に城へと戻っていった。
談話室ではがっかりした様子のマルフォイに気が付き、余計なことを考えていて全然見ていなかった、とヘンリーは頬を掻く。
「そう落ち込まなくても。ドラコはポッターと違って目に直接雨が入る状況だったんだ。それなのに雨の中あそこまで箒を操れるなんて僕はすごいと思う」
ソファーの隣に腰をおろし、ぽんと背を叩くヘンリーは他のクィディッチ選手にも笑いかける。
そういやそうだな、と笑うフリントにビーターの一人も賛同し、逆にあの雨の中初めての試合だったというのにスニッチをあそこまで追い込んだのだから次に期待するぜシーカー!と落ち込むマルフォイの背を次々叩いていった。
それに自信を取り戻したのか、ふふんと笑うマルフォイにヘンリーはその調子だ、と声を上げた。ちらりと時計を見たヘンリーはそろそろ休むよ、といって部屋へと戻る。
「ツーショット写真が欲しいけど我慢しなきゃ。なんか……いやな予感がするし」
写真の中の人物はどの程度自由に動くのかわからない。けれどもハリーとロックハートの写真では自分が全力で逃げているのを見た。
写真の中身の人がどれだけこちらを見ているかわからないが、ロックハートの写真がこちらを見ているときがあったことを思い出すと、ある程度は見えているのかもしれない。
少なくとも、盗撮に気が付いたらしいバストアップ写真とその前の全身を写した写真は、渡された時は姿を消していたが今は隠れることなどせず写真を見つめるハリエットをじっと見返している。
いっそのこと静止画かと思うほどにそれは動いていないが、瞬きをしているからやはりちゃんと動くようだ。着替えも初めは気にしていなかったものの、パジャマから制服に着替える時何となく写真を見たら何があったと一瞬思うほど黒くなっていた。背を向けていると気が付いた時、慌てて写真を伏せたのだ。
日記をつけてから時計を見る。マルフォイの初陣とハリーの怪我。今頃ドビーと会っているのだろうか。クリビーはもう石化しただろう。
苦手ではあったけれども彼は嫌いにはばれなかった。あの大戦で彼は死んだ。カメラを持っていたそうだからあの戦いの記録を取りたかったのかもしれない。
迷惑はした。けれども、死んでいい理由にはならない。
考えても仕方がない、と日記をしまい薬の数を数えてベッドにもぐりこむ。
「先生、おやすみなさい」
すっかり日課になった写真に向かって言う挨拶はただ静かに部屋に響き、消えて行った。
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