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9:クリビーとヘンリー

 少し元気を取り戻したヘンリーは服の中に隠したペンダントにそっと触れる。どの程度の魔法が込められているかわからないものの、スネイプがそばにいる気がして落ち着く。食欲も徐々に戻ってきて、痩せた体も戻ってきた。
「せっかくのデビュー戦だけど、体調が悪いなら無理しなくていい」
 去年と同じく囲まれるヘンリーにいつも通り横に座ったマルフォイが次の試合について無理はしなくていいといいつつ、来てほしそうに告げる。
 思わず笑みがこぼれるヘンリーは初陣ならいくさ、と答えた。マルフォイの初陣を見たいのではなく、ハリーを見たいがためだがそれを言うわけにはいかない。
 それにしても、とよくよく考えれば今年一年は無茶なことはしないといったがそれはヘンリーの話であって、ハリーの時はだいぶやったな、と母に内心謝る。先生方はものすごく大変だっただろうし、心配もかけただろう。

 バジリスク並みに厄介だったのはあの男だ。整髪剤は知り合いにもらったもので市販じゃないことを伝え、お茶の誘いを躱し……どういうことなの!と思わず図書室で突っ伏す。
 ハリーの時も確かにあの男は厄介だった。勘違いをしまくり的外れのことを言い……。今年はそれから解放されると思っていたのに、なぜ付きまとうのか。

 パシャという音が聞こえて顔を上げると、あわてたように少年が逃げていく。嘘だよね、と顔をしかめるヘンリーは荷物をまとめてコリン=クリビーを追いかけた。
 ぱたぱたと走る音にいらっとして闇払い時代使っていた追跡の魔法であっという間に距離を詰めた。

「隠し撮りはよくないんじゃないかな、コリン=クリビー君」
 なんで?なんで今回もこうなるの?と嘆くヘンリーはこめかみをひくつかせながら空いた教室にクリビーを引き込み問いかける。
「えっと……人に頼まれて……ごっごめん勝手に撮るのはよくなかったよね」
 おどおどとするクリビーにヘンリーはため息が尽きない。いったい誰がという思いと、ハリーの時はこうじゃなかったということでの憤りを感じて。

「僕はあまり写真が好きじゃないんだ。それとさ……僕には許可を取ったほうがいいというのに何でハリー=ポッターには嫌がられてもとるの?」
 いわゆるパパラッチ根性だ。何度ジニーとのデートを邪魔されたことか。
「だ、だって彼は有名だから……。有名人は有名な分そういうのも仕方がないって前にTVで見て」
「母親と父親が死んで生き残ったことが有名の理由なのに?両親が守るために死んだのにそれを有名だからと追いかけるのが人のすることかい?」
 人の生死での有名なんて冗談じゃない。ヘンリーは死んでいった人々の顔を思い出し、顔を伏せた。母も父も死んだというのに世の中は生き残った男の子として祭り上げて、祝った。

「僕は……僕だったらそうは考えない。ロックハートのように望んだ名声ならいいだろうけど、彼は両親を喪ったんだ。それをよく考えてみてはどうだろう」
 少なくともクィディッチなどの時は選手として撮るのはいいとは思う。ジニーだってプライベートは嫌がったが、試合中や練習は笑っていた。自分だけいつでもプライベートがなかった。
「そ、そんな……ぼっぼくそこまで考えてなかった……。そっか、そうだよね。写真撮るときは楽しい顔をとるんだぞって言われていたのに」
「クィディッチ中とかはまあいいとは思おうよ。でも彼ってプライベートがあるんだから」
 ありがとう、というクリビーにヘンリーはそっと笑って……ところで、とにこりと笑う。


「僕の写真を勝手にとっていた件だけど……この写真持ってきてくれたらチャラにしてあげる」
 盗撮はだめだといったのだが、どうしても一枚ほしくなってしまったヘンリーにクリビーは任せてよ!と宣言した後、無理無理と悲鳴を上げた。にこりと笑いながら、すでに何枚か人にわたっている僕の写真全部許してあげるからさ、ととどめを入れた。

 20点の減点を食らったクリビーに謝りながらヘンリーは2枚の写真を手に部屋へと戻る。
へへへ、とスタンドに収めた写真を眺めるハリエットはやっと、やっと手に入れた写真を大事そうに胸に抱く。絶対死なせないと心に誓いながら……枕元に置いて眠りについた。
 いつでも彼を見られることに、ハリエットは自身の孤独が少し和らいだ気がして……後日マクゴナガルにクリビーの減点理由と彼女が上機嫌な理由についてこってりと絞られることとなった。







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