--------------------------------------------
6:増えていく頭痛の種
あの騒動から迎えた休日、ヘンリーことハリエットの姿はいつものようにマクゴナガルのもとにあった。スネイプがあの後マルフォイから詳細を聞き直し、わざと音を立てて注意をそらした生徒には加点を与えたという。
「ハリーが列車に乗っていないことには驚きましたが、何か事情があったということはわかりました。あなたの手紙の通りまだ学校が始まる前だから減点は致しませんでしたが……」
その話を聞きたいと考えていたはずが、ハリエットから聞いた騒動で全部吹っ飛んでいったマクゴナガルはあの能天気男が、と娘に対する行為に怒りがこみ上げる。
仮に同性だからいいという話ではない。人類皆ファンでもなければ崇拝者でもないのだ。あの男はそれを理解しているのか、とスネイプ並みの怒りのオーラをまとう。
「本来、好きでもなんでもない……そんな輩が体の一部を触るのはとんでもないことです。ましてやあなたとしては苦手な相手となればなおのこと。髪は意外とわかるものなのです。セブルスが触るのと、あの男が触るのでは全く違うのはわかりましたね?」
だからむやみやたらに触らせるものじゃない、というマクゴナガルにハリエットは頷き、黒い髪を手に取る。これが赤だったら先生も少しは好いてくれるかな、と考えて何考えているんだと内心焦る。
前回が男であったがためなのか、本当に彼女は男に対して無防備かつ、男装中は女性であるということを忘れすぎている、とマクゴナガルはこめかみに指をあてた。今後を考えると頭痛がする。
こんな無防備な状態でスネイプの所でお茶を飲んで気分を落ち着けていた、というハリエットの言葉をすべて鵜呑みにすることはできない。
こんな無防備な笑顔で近づき、こんな可愛い娘が、こんなに慕うオーラマシマシな子が……。
七面鳥が感謝祭に投票するとは言うが、この場合七面鳥が野菜を首に引っ提げ、頭にパンプキンパイを乗せた、そんな状態でうきうきと感謝祭の日に遊びに行くようなものだ。どうもこうもヘンリーに好意を抱いているらしいスネイプがそんな状態をみすみす見逃すとは考えにくい。
どんなに取り繕っても、どんなに草食系にみえたとしても、男は皆狼なのだと、しっかり教えるべきだった、とマクゴナガルは頭を抱える想いだ。
初めての子育てで失敗するのは仕方がないとしてもよりによって同僚で元教え子に娘が……なんて誰か想像できようものか。
どこか大人びたような気もする娘を見るマクゴナガルはあとでポピーに頭痛薬をもらいに行きましょう、と決めてハリエットの艶やかな黒髪をそっと撫でる。ハリーの髪はジェームズによく似ているが、ハリエットの髪はよくジェームズを叱っていたリリーによく似ている。
夏休み中に届いた新しいレシピのおかげで、ハリエットの魅力が少しは抑えられたと思ったのに、と横からでてきた男にいら立ちがこみ上げてくる。
ただでさえスプラウト教授からは私が何の教授だかわかっているんですかね、とひどく憤慨していたし、中庭で嫌がるポッターを捕まえて写真を撮ったとかなんとか……。
あの男はここが母校であり、学校である認識があるのか、とそう怒鳴りたくなる。フリットウィック教授は最初こそ我がレイブンクローから出た素晴らしい生徒だと言っていたはずが今は彼の名前を出すだけで見たこともないほどの形相で黙ってしまう。
ハリエットに至ってはきっと一年間……例の呪いの噂のせいで一年で辞めるだろうと踏んではいるが、一年間彼の授業を受けていたのだ。また受けることになって……しかも以前も今の状況から見ても穏やかな一年ではなかったと考えると何とも不憫で仕方がない。
どうもこうも二人そろってトラブルの種を引き寄せる性質でもあるのかと疑いたくなるほど、お互いを中心とした騒動が起きている。そう考えてスネイプの傍にいる方がまだましなのかしら、とマクゴナガルは頭を抱えた。こんな究極の選択……誰が望むものか。
「ハリエット、あなたはもう少し自分の魅力に自覚を持つことと、周りの目を気にしなさい」
リリーもとても魅力的な女性だったがセブルスと一緒にいることが多かったり、ジェームズが声をかけていたりで、特に騒動はなかったが今はその虫よけが何もない。しいて言えばヘンリーに対してスリザリン寮が何としても守らねばと謎の結束を見せているから他寮に関しては大丈夫そうだ。
きょとんとして自分を見下ろすハリエットはやはりわかっていない。大体、ハリエットの時は少し少女から成長してきたあかしとして、まだ小ぶりながらも胸が出てきている。
それに体つきも徐々に変化してきている。男性よりも早く成長し成熟する女性ならではの速さに、当の本人は気が付いていない。
「いいです?いくらあなたが好きな相手であって信頼していても、無防備に寝顔をさらしたり、髪を撫でさせてはダメですからね。あなたは今、レディなんですから。男性と違って女性には様々危険があることをお忘れないように」
たとえそれがヘンリーの姿であっても、と付け足すマクゴナガルにハリエットはわかったと言いながら目をそらす。やったことあるのか、とあきれるマクゴナガルは頭が本当に痛いと大きなため息を吐いた。
|