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4:2学年の始まり

 なんでまたこのメンバーなのだろう、と列車に揺られるヘンリーは隣に座ったマルフォイの話に顔を向ける。向かいに座ったいつもの二人はまたお菓子を広げてぼりぼりと食べながらその話を聞く。
 何度か上級生などが扉を開けたが、ゴイルたちを見て諦めたように立ち去っていったため、いてよかったとは思うがよくわからない。
「そうだヘンリー、まだ発表するまでクィディッチの選手に内定していることは内緒だ。父上がチーム全員にと……おっとこれはまだ我が家だけの秘密だ」
 いつも以上に胸を張るマルフォイの言葉にヘンリーは気になるなーと笑う。聞かないで楽しみにしてる、と返すヘンリーはマルフォイ家の財力の凄さを改めて思い直す。
 聞いた話では父も先祖らの残した功績やら何やらで暮らしていたと聞いている。魔法界の純血一族、先祖の誰かしらが作った何かが子孫らへ恩恵を与えて……。仕事をしていたヘンリーとしてはシリウスと二人何していたんだろう?と首をかしげるしかない。

「そうそう、スネイプ教授が我が家へ来た……まぁ父上との友好関係できたというのが正しいけど、その際に学校の話になって僕以外に優秀な生徒としてヘンリーの名前をあげていたんだ。マクゴナガル教授の親族であることと、スリザリンに入ったこと、少し病弱なことに父上もぜひ一度会ってみたいとそうおっしゃっていた」
 優秀な生徒だと、めったに生徒を褒めない言葉にヘンリーはうれしな、と顔に出過ぎないよう必死に心を閉ざそうと久々の閉心術に集中する。
 もっとも、得意そうなマルフォイが自分を見ていないことと前の二人があらかた菓子を食べ終えて寝ているため、多少顔が緩んでも大丈夫か、とすぐに気を楽にする。

「父上はホグワーツの理事を務めている。だから会う機会もそのうちあるだろう」
 そう得意げに語るマルフォイにヘンリーはわかったと頷きながらダンブルドア校長も苦労しただろうな、と考える。夏休み中、何度かベベやマクゴナガルに今日は部屋にいる様にと言われていたことがあるが、その時理事会が来ていたのを知っていた。
 鉢合うことは当然なかったが、実家でもあるホグワーツ内にその人らがいるのは嫌だな、とその度思ったものだ。

「それでヘンリーはどうしていたんだ?例の整髪剤をくれたやつと会っていたんだろう?」
 理事会のあった後に校長室を訪れるとダンブルドアがにこにことしてお菓子をくれたり、お茶を入れて、空想の話だとして今のハリーのことを話すなどしていたな、と思い出すヘンリーは急に振られた話にきょとんとして、じわじわと赤くなっていく。
 いや、たまたまあっただけで、と必死に手と首を振るヘンリーだが、ついに耳まで赤くなったことに気が付いてはいない。
「別に隠すほどでもないだろうし、ヘンリーの場合隠すのもできていないから観念したほうがいい」
 見ていて面白いけど、と言うマルフォイについ最近母に好きな人がばれたヘンリーはぐうの音も出ない。真っ赤になった顔に手を当てて向かいの二人を起こさないようあーっと唸るヘンリーは、扉の外に誰もないよね、という風に見てからマルフォイに体を向ける。

「あのさ、ドラコは口が堅い方?」
「あぁもちろん。人の秘密くらいは守るさ」
 おずおずと切り出すヘンリーにマルフォイは当たり前だろうというと、こちらもヘンリーの身体を向けた。
「偶然ダイアゴン横丁であったのは事実なんだけど、その時誕生月だからって……宝石のついたペンダントくれて……。その人の誕生日、何贈ればいいだろう」
「ペ……。何の宝石?」
「ダイヤモンド」
 おぉう、と驚いた様子のマルフォイだったが、平常心を保とうとしてミネラルウォーターを一口飲む。宝石の名前を聞いた瞬間飲もうとした水が奇妙な音を立て、あわや吹き出しそうになって何とか堪えた。

「一応、一応聞くけど逆に違かったそれはそれで驚きだから念のためだ。相手は男でいいんだろう?」
 何とか咽るのも最小限に済ませたマルフォイは念のためと前置きして、ヘンリーに尋ねる。彼が同性を好きになったとか、そういうのではなく、どこか危なっかしい彼を支える相手が同性の年上であることを確認するマルフォイにヘンリーは気の毒なぐらい赤くなって、人それぞれだから別に隠す事でもないだろう、と慌ててフォローに入る。

「別に同性が好きなわけじゃないよ、本当に。ただ、その人だけでたまたま同性だった……みたいな……そんな感じ」
 水でも飲め、と飲みかけのボトルを渡すと、ヘンリーは躊躇なく飲んでやっと落ち着いたように一息つく。
 何がというわけでもなくなんか危なっかしいんだよな、と返されたボトルから水を飲むマルフォイは考え、年上ということは卒業生か、と先輩らの顔を思い浮かべる。スリザリンであることは間違いはないだろうが、あまりピンとこない。
 だからと言って寮監であるスネイプは古くから知ってはいるが、あの氷のような人物が宝石を……ましてやペンダントを送るようなことはないだろう。

「相手が年上ならあまり背伸びし過ぎたものは嫌だと思うな。そんな大層なプレゼントを贈る相手なら、ヘンリーが選んだものなら何でも喜ぶだろう。それはそれとして……ヘンリー、ペンダントを送る意味とか……知っているのか?」
 少し髪を切ってはあるものの、やはり少し長いヘンリーの赤い髪を見て、マルフォイは更に問いかける。昔ジニーが言っていた気もするが、ネックレスはデートしたときに見かけて、そこでジニーが気に入ったものを買ったぐらいで贈ったことはない。
 何せクィディッチの選手であり、彼女自身が輝いていたからあまり装飾品は贈らなかったし、彼女もそれより花などのほうを喜んでいた。
 知らないと首を振るヘンリーに迷うように目を伏せるマルフォイは、何かを自分の中で決めたように頷いて視線を上げた。

「絆を深めたいや離したくない、ずっと一緒にいてほしいなどの意味と言われているが、束縛したいという意味も含まれていると言われているな」
 独占欲がなければいいけど、と言うマルフォイにヘンリーは意味を反復して、また恥かしさで両手に隠れる。
 しっかりしているようでそうでないヘンリーをそこまで愛し、ヘンリーも喜んでいるなら別にいいか、とマルフォイは笑ってヘンリーの赤い髪をぐしゃぐしゃと撫でた。
 ひとまず、すぐに寮内にはばれるだろうが彼とその思い人が相愛だというのは黙っておこう、とそう心に決め……髪をぐしゃぐしゃにされて少し怒るヘンリーにさっさと整えろ、と櫛を差し出した。






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