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3: 思わぬ贈り物

「治療系の魔法薬と言うとこの本が入門としては適しているだろう。2学年もまた私の時間が合えばになるが、この本を基に魔法薬の追加授業を受けるかね」
 ヘンリーから医療系の魔法薬についてもっと学びたいと、そう手紙に書いてあった。その際にどの分野に特化したものがいいかと尋ねると、翌日届いたのは解毒などが自分のレベルでできればと帰ってきた。
 毒とはいえ様々な種類があるが、これ以上踏み込んで聞いても彼は引き下がってしまう気がして、彼のレベルでもできる基礎的な解毒薬がいくつも記されている本を紹介した。

 彼の背では届かないところにあった本を手に取りそれを手渡すと、それで顔を赤らめていたりした顔が急に真剣な顔になって、ありがとうございますと、そうとても大切そうに本を抱える。
 まるでこれから何か起きるのを予知しているかのような、そんなどこか決意に満ちた顔で……スネイプはヘンリーの頭をそっと撫でた。目をぱちぱちとさせた後、嬉しそうにほほ笑む姿に会計を済ませてきたまえと送り出す。
 並んでいる姿を見て目的の本を探しに行く。専門外の棚に目をやり、目的の本と思われる本を数冊手に取る。その上から魔法薬の本を適当に乗せ、スネイプも買い物を済ませた。

 これで買い物が終わったというヘンリーに少し付き合ってもらってもいいだろうか、と少しずつ人の増えてきたダイアゴン横丁を歩く。
 魔法薬の材料を扱う専門店に入ると、小さな声を上げるヘンリーは買い忘れていたと慌ててメモを取り出し、それを確認する。そろそろいつもの薬の材料を買わなければならなかったのを思い出し、ちらりと横目でスネイプが別の戸棚に向かったのを確認した。
 彼だったら材料を見たら勘づいてしまうかもしれない。それだけは避けなければ、と手早く目的の材料を手に取り、ついでにいくつか持っていない材料も少量購入する。
 パンパンになった袋に少し考えてからいつもローブをしまっている拡張された袋を取り出した。こんな大荷物を持って暖炉で移動なんて無理、と押し込めていると、じっと見つめるスネイプと目が合った。

「大荷物になるだろうからって……拡張魔法のかけられた袋を持ってきました」
 これで楽になりました、と笑うヘンリーはスネイプの手元も何もないことに気が付き、魔法使いの買い物って普通こうなのかな、と小首をかしげた。
「私ももう買い物を終えたところだ。よければ姿くらましで家まで送るが……」
「いえ、お言葉はうれしいですけど、暖炉で帰れますから。その為のフルーパウダーもありますし」
 手を引き、また路地に入るとスネイプは振り返る。家はどこか、と言うスネイプにヘンリーは慌てて首を振り、暖炉で帰るから大丈夫だと身振りで示す。ホグズミードまで送ってもらったらホグワーツに住んでいることがばれてしまう。
 そう思って断るヘンリーにスネイプはやや残念そうにそうか、と言ってヘンリーの手を取っていた手を下ろした。

「あ、あの、今日はありがとうございました。その、一緒に買い物ができてうれしかったです」
 そう言ってスネイプの手を取るヘンリーは耳まで赤くなって、ゆるく手を握る。虚を突かれたような顔をするスネイプはそっと笑って、本当はこれを買いに来ていた、とヘンリーに会う前に購入したという箱を取り出した。

「寮生がいつ成人を迎えたかわかるよう、何月が誕生日かの情報を我々は共有しているのだが、先月が君の誕生月だと知って、一日も早く渡したかったのだ」
 成人を迎えるとそれまで外部で魔法を使うことを禁じられていた未成年に付けられる“匂い”がなくなる。
 何か起きた時のためにと事前に寮監らはそれらの情報を知りえる立場だと、スネイプはそう言い、帰ってから開けたまえ、とヘンリーを抱き寄せる。
 また夏休み後に、とそう言いながらヘンリーの唇を奪い、そっと細い腰を引き寄せ、片手で感触を確かめる様、臀部に手を置いた。

 何も考えず、ただ、本能というべきか、思うがままに行動していたスネイプはきわどい所に手を置いたまま思わず固まり、手を置かれたヘンリーはどきどきと心臓が苦しくなる。
 間違いなく、これは問題だ、と焦るしかないスネイプは放そうとして、自分の胸元を握るヘンリーの白い手に気が付いた。ガラガラと音を立てて崩れる何かに目をつぶり、ヘンリーを強く抱きしめる。
 さらにきわどい所に手を回すことになっても無視して、しばしの別れを惜しむかのように互いに手を緩めなかった。

「ハリー!よかった、無事だったのかい?」
 突然聞こえた声にヘンリーは驚き、とっさに唇を離したスネイプは自分のローブに隠す様に包み込む。一本挟んだ道の向こうの会話が聞こえ、思わずヘンリーは身を縮ませてスネイプの胸元に隠れる。
 がやがやと去っていく一行にやっと息をつき、ヘンリーはスネイプの腕の中座り込みそうになるのを堪える。

「そろそろ別れた方がよいだろう。ではまた9月に」
 スネイプの奇行に未だ戸惑うヘンリーだが、それでもうれしいことには違いはなくそれではと離れようとするスネイプを捕まえ、自分から薄い唇に口づけた。

「それじゃあ教授、また9月に」
 スネイプが反応するより先に離れ、大通りを暖炉のある方向へとヘンリーは走り去っていった。残されたスネイプはと言うと、自分の立てた仮説を頭で繰り返し、久々に三本箒で少し高いウイスキーを飲んで帰ったのだった。



 部屋に戻ったヘンリーはそうだそうだとスネイプから渡された箱を開ける。
「これは……」
 何かしらとみていたマクゴナガルは中から出てきたペンダントを思わず凝視する。片頬が若干ひきつるのは仕方がない、としつつ嬉しそうに手に取って首に着けるヘンリーを、丁度ハリエットに戻った娘を見つめた。
 ハリエットがスネイプに遭遇した話に少し嫌な予感がしつつ、聞いていった矢先に誕生月のことを失念していたと緑に輝くペンダントトップをじっと見る。

「これは……エメラルドなどではなくグリーンダイヤモンドでしょうか」
 きらきらと輝く様子と、宝石からわずかに感じられる宝石特有のオーラのような力を感じてマクゴナガルはつぶやく。マグル生活でも出てくるダイヤモンドという言葉に驚くハリエットはそのペンダントトップを握り締めた。
「魔法界でもダイヤモンドって貴重?」
「そうですね……やはり鉱物の一種ですので、どちらかと言えばマグルに出回らないものがこちらには流通するので、マグルほどではないかもしれないですが、それでもカラーダイヤモンドですからね」
 それにしてもペンダントを送る意味をあの男は知っているのか、とマクゴナガル閉ざした口の中で呟く。付いている宝石にどぎまぎしてそれどころではないハリエットの様子をみてダンブルドアに相談しなければとマクゴナガルは少しばかり姿勢を正す。
 どこで気が付いたかわからないが、恐らくスネイプはヘンリーが薬を飲んでいることに気が付いたのだろ。
 そして、性別から目の色などすべてを変える必要性があるものとして、“ポッター家の長女”という一度攫われそうになったあの情報に行きついていたのであれば。ハリエットの瞳の色に似た宝石も合点がいく。
 彼女に言うべきか否か……悩むマクゴナガルに気が付いたのか、ハリエットが首を傾げ、似合うかな、尋ねた。

「えぇとても似合いますよ、ハリエット」
 純粋に喜ぶ娘に水を差すべきではないと判断してそっと髪を撫でる。まだ少し早い輝きとも思えるが、きっとこの輝きに負けない素敵なレディになるでしょう、と恋する娘の将来を思い描いた。






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