--------------------------------------------
2:鉢合わせ
誕生日が過ぎ、数日が経ってからプレゼントを持たせてヘドウィグを空に放つ。ヘドウィグにはベベに頼んで取り換えした手紙を持って行ってもらったから今頃ハリーは読んでいるだろう。
ドビーには悪いと思いつつ、主人の手紙を盗むなんて!と、マルフォイの家のしもべ妖精らがいる場所で怒鳴って怒鳴って……あわやドビーが盗みを働いたことがルシウスにばれる前に、慌てたほかの屋敷しもべがドビーを取り押さえて手紙を差し出した……らしい。
ベベいわく、騒ぎになったとしてもドビーのほうが悪いからいいのです、と鼻息荒くしていたため、4学年の時が心配だなぁとハリエットはその手紙の束を手にして……読まずにハリーへと渡した。
結局自分は読むことが無かった手紙。いまさら読んだところで、これはハリー宛の手紙だ、と少しの寂しさを覚えながら遠ざかるヘドウィグを見た。
私からの誕生日プレゼントはこれ、と白い姿が青い空に消えていくのを静かに見送る。心に開いた穴から目をそらしたハリエットは家に戻り……ため息を吐く珍しいマクゴナガルの姿に足を止めた。
「あぁハリエット。このバカげた教科書リスト……本当に頭が痛いですわね」
私がとやかく言うことではないですが、とそういうマクゴナガルにハリエットは小さく笑うしかない。全学年同じ教科書……いや、ただの教材ですらない本を指定され、副校長でもあるマクゴナガルはさぞ頭が痛いことだろう。
おまけに彼女の前にはでかでかとサインの書いた本が置いてあり、呆れてハリエットもため息しか出ない。
「このような内容のことをおひとりでなさっているのであればさぞご立派かつ、休む間もない人生でしょうね」
ありえないことだらけです、と律儀に一度は目を通した様子にハリエットは感心して、やっぱりおかしかったんだ、と正直に思うしかない。彼の年齢を考えると、毎日あちこち全く違う地域に足を運び、狼人間にあったり雪男にあったり……本当に休む間などなかったかもしれない。
真っ赤な嘘であることを知っているハリエットはやっぱりと思うしかない。おそらくこの本に書かれていることが真実であると、そう信じてやまない人は少ないかもしれない。彼の顔と、しゃべりと……非現実的な話にのめり込んだだけの気がする、と本をどけて夕食をとるハリエットは考えて、しゃべりそんなにうまかったかな、と首をかしげた。
ヘンリーの姿であれば一人でも大丈夫、と他に仕事のあるマクゴナガルを説得し、早朝ダイアゴン横丁にやってきたヘンリーはリストに書かれた教科書……教科書を買い、かさりと手紙を広げる。
治療系の魔法薬についてもう少し知りたいが、どんな本が自分には合うのか、と言う質問にスネイプが答えてくれた手紙を片手に該当する本を探す。なかなか見つからない本に仕方ないと店員に聞こうとして、サイン会会場を作るのに忙しい様子を見て引き返す。
少し時間をつぶして、ロックハートが来る前に戻ってこようとぶらぶら歩くことにした。服も購入し、制服の裾も少し直してもらい……することが無くなったヘンリーはクィディッチの箒店に足を向けた。
「ニンバス2001だ……」
あの頃はこんな間近で見たことはないし、興味はないと反発してしまったが、改めてみるとニンバス2000の時少し気になっていた箇所が修正され、穂先までピシッとそろえられている姿にやはり後継機だからだな、とまじまじと見つめる。
「ヘンリー?」
突然声をかけられ、驚いて肩を跳ね上げたヘンリーはすぐ真後ろにいるスネイプを振り返った。
驚いたのと同時に、スネイプに会えたことが無償に嬉しくて、つい笑顔になるヘンリーを相変わらず黒一色のスネイプがじっと見つめる。
ちょうど来たところなのか、まだ買い物をしていない風のスネイプは来たまえ、と無防備な笑顔を見せるヘンリーの手を取り、人影がまばらなダイアゴン横丁のわき道に入った。
「お久しぶりです、せん」
ぐっと引き寄せるスネイプに唇を塞がれ、ヘンリーは目をつぶってその感触に集中する。背中にまわされた手が熱く、それだけでヘンリーの鼓動が早くなった気がする。
学年末の部屋であったように唇を軽く食まれ、力が抜けていくヘンリーを抱き留めるスネイプは自分の行動に思わず固まった。もっと深く欲しい、とそう願ってしまう頭を振り、呆けた様な恍惚とした表情のヘンリーの唇を解放させた。
「元気にしていたかね?」
いまさら何を取り繕う必要がある、と動揺したままのスネイプにヘンリーもまだ現実にしっかり戻ってきていないのか、甘えるように寄りかかりながらこくりと頷いた。
ヘンリーが持っている袋から覗く表紙にあのばかばかしい本を買ったのか、と思わずため息がこぼれ、今年一年波瀾が起きそうだと内心頭を抱える。かさりという音に視線を落とせば、ヘンリーのポケットから覗く手紙に気が付いた。
「あの本は見つかったかね?」
「いえ……そのまだ見つけてなくて。店員の人に聞こうと思ったら忙しそうだったから……後でもう一度行こうかなと思っていました」
抱きしめるとヘンリーの匂いがして、落ち着かないスネイプは夏休みに入った時たてた仮説を自分に言い聞かせる。それはそれでまずいのでは?とどこか冷静な自分が問いかけるのを無視して、何かが満たされた気がしてヘンリーを放す。
「ちょうど今から行くところだ。一緒に来るかね?」
ドキドキが収まるのを待つヘンリーはスネイプの言葉にまた顔をほころばせ、こくこくと頷いた。
嬉しそうなヘンリーとともに歩くスネイプは、まだ生徒らも買いに来ていない時間ということもあり視線を気にすることなく目的の本屋へと向かう。
「あ、なんかサイン会があるとかで……本人が来るそうですけど僕はあまり興味が無いから早く帰りたいなって」
書店に見慣れない机やら何やらが設置されているのを見て、眉間にしわが寄るスネイプにヘンリーは一歩下がった場所からその気配を察して苦笑する。全く興味がないというより、書店にそんな輩を入れるなど正気ではないといった態度に小さく笑いがこぼれ足早に歩くその背を追いかける。
|