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ムスカリで紡ぐ不器用な花冠
2学年編
1:夏の少女
こんこん、と軽い音が聞こえ、森の番人であるハグリッドは木の扉を開ける。
「おぉ!おまえさんか、さぁ入った入った」
夏の日差しから隠れる様にフードをかぶった少女の姿にハグリッドは破顔して中へと招き入れる。小さい頃から時折外で遊ぶため、マクゴナガルから見ていて欲しいと託されてきた少女はずいぶんと大きくなった。
長い黒髪をふわりと靡かせる少女、ハリエットを見たハグリッドは思えばと声を上げた。
「ハリーを見た時どっかで見たことあると思ったらハリエットとよく似ていたんだな」
ロックケーキを進めるのを笑って断るハリエットをみて、やっと気になっていたことが分かった、とファングを撫でるのを笑って見つめた。
「眼の色とかが同じだからそう思うだけだよ。そうそうハグリッド、ドラゴンを一時的に飼っていたけどさ、ずっと気になっていたから言うけど……ハグリッドがドラゴンとか好きなのはわかるけど、環境を整えてあげないとドラゴンがかわいそうだと思うんだ」
好きだから飼うなんてエゴよ、と言うハリエットにハグリッドは気まずそうにあーと唸って、あれ?と言う顔になる。
「なんでぇそれを知ってるんだ?」
「誰からか聞いたわけじゃない、私は何でも知っているの。私から誰かに言うことは絶対にないから安心して。知りすぎているから、こうして誰もいないホグワーツに預けられるってわけ」
夏だけ預かる親戚の子として紹介されているハリエットに、ハグリッドはそうかと深く追求はしない。そういうのもあるさと言ってくれるハグリッドのおおらかさにハリエットは笑って、ありがとうとお礼を言う。
それで、と続けるとハグリッドもバツが悪いのかもじもじとして確かに分かっちょるけどでも、と魔法生物を飼いたそうに身動ぐ。
「きちんと飼う環境を整えたら、それに合う動物を飼えばいいじゃない。それにすでにいるセストラルもちょっとインパクトあるけど他にはいない貴重な魔法生物だから……危険生物は生徒に対して危ないから駄目」
「お前さんの歳であれが見えてるのが驚いたけど……確かに他にはいねぇ魔法生物だ。ちぃと大人しいけどな」
紅茶のおかわりいるか?と注ぐハグリッドにもう注いでると笑って9歳頃のことを思い返す。馬の世話があるというハグリッドについていき……そこでセストラルが見えることに気が付いた。
世話を手伝うハリエットにハグリッドは深く訪ねることはなく、世話の仕方を教えてくれた。どうやら自分は死を受け入れた状態のままなのだと、予見者として自身でも知らなかった特性に気が付いた。
3杯目の紅茶は辞退して、外に出たハリエットは目くらましを自分にかけて湖畔にやってきた。サンダルを脱いでそっと冷たい水に足を浸す。
一度の買い物で服から何やらそろえるのは大変だからと、2回に分けていくことになったダイアゴン横丁。誕生日前に行けるのはハリーの分を考えると嬉しい限りだが、毎月もらえるお小遣いから捻出するのは割と大変だ。
以前は金庫からがばっともって、それを割と考えずに使って行き……学年末にはほとんど底をつくという……。3学年からはそんな感じだったなとかつての金銭感覚酷いな、とため息を零す。
今年のクリスマスはスネイプに何か贈ろうかな、とまだまだ先のことを考え、ごろりと横になる。そろそろ部屋に戻って課題をこなして……ヘンリー分とハリエット分の服を買ってもらおうとぴょんと起き上がった。
姿を隠すためと、マクゴナガル曰くせっかくの白い綺麗な肌なのだから大切にしなさいと温度調節のついたローブで身を包み、目くらましもかけて城に戻る。
以前と違うのはどうやらあまり日焼けはしないほうらしく、日にあたりすぎると焼けるのではなく赤くなってしまうことだ。ひりひりする感覚が馴染めず、それ以来日焼け対策はしているが何だかなーと思う気持ちもなくはない。
マクゴナガルとともにハリエットの姿でダイアゴン横丁に来た二人は、長居は危険とフードで顔を隠してはいるものの、手早く買い物を済ませていく。
「私服と……あとは何を買います?」
「フクロウフーズがもうなくなりそうかな。魔法薬の本買ってもいい?」
ハリエットの姿でなければ買えない女性ものの服を買いに行き、そのままフクロウ百貨店と本屋を渡り歩く。今回は買ってあげましょう、と意味ありげにほほ笑まえて、ハリエットは違うと真っ赤になりながら返した。
スネイプが好きだからとかではなくただ治療系の本が欲しいだけだから、と顔を赤らめたまま魔法薬のコーナーを見上げる。どれがいいかなんて正直わからない。
とりあえずパラッと読んでよさそうなものを一冊手に取った。それを見ていたマクゴナガルは少し考えて、今度本代は出しますからきちんと調べてからのほうがいいのでは?とそわそわする娘に声をかけた。
はたと顔を上げたハリエットも少し考えてからその方がいいかも、と本を戻して、本屋を後にする。マクゴナガルが少し休憩してから帰りましょうと、ハリエットにとっては懐かしいパーラーへと腰を落ち着かせた。
「ここのサンデー好き!」
また食べられる、と嬉しそうなハリエットにマクゴナガルは思わずと言った風にほほ笑み、時折見せるハリエットの歳相応な振る舞いをやさしく見つめる。
これから先何が起きるのかわからないものの、不穏な空気が煙のように立ち込めてくるのはある程度覚悟している。
この笑顔ができる限り長く続くことを祈るしかできない自分が歯がゆく、せめて今だけでも楽しい思い出を作って欲しいと、育ての親として思うばかりだ。無事すべてが終わって、彼女が結婚相手にとスネイプを連れてきてもそれはそれで歓迎しましょうか、とまだ先の未来をそっと思う。
人間関係が不器用な彼が、リリーに似たヘンリーを個人として可愛がっているということは、ハリエットもジェームズの娘ではなく一人の少女としてみてくれるのではないか。
そう考えて、サンデーを食べ終わった娘を連れてホグズミードに姿現しをする。荷物を鳥に変えて飛ばすと、たまにはと二人そろってアニメ―ガスになり猫と並んで歩く雌鹿の組み合わせで城へと戻っていった。
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