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28:やっと一年

 自室に荷物を運び終えたハリエットは見かけだけのトランクを用意し、ヘンリーとして列車に乗る。この一年はいろいろあった。まさか一年生からスネイプとの距離が縮まるとは思ってもみなかったが、累計すればほぼ同い年なのだからセーフ、と自分に言い聞かせる。
 とはいえ、スネイプにとっては赤毛の少年だ。黒髪の少女ではない。それに少し罪悪感を抱き……また一緒のコンパートメントに乗っているマルフォイを見る。

「また魔法薬の本を読んでいるのか?」
 手に持った本に目を向けるマルフォイに、そういえば行きにずっと読んでいたんだっけと思い出し、そっと表紙に手を置く。
「やっぱり苦手だったけど……自習のおかげで大分うまくなったかな」
 苦手だと言っていた魔法薬の授業は常日頃から薬を生成しているがためか、それともスネイプに好意を抱いているからなのか……いまでは割と好きな授業だ。得意なのは英才教育を施された変身術だが、多分3学年からまともに始まる闇に対する防衛術も得意の一つになるだろう。

「スネイプ教授とは以前からの知り合いだけど、ヘンリーといる時だけ少し機嫌がいいのはやっぱり気に入られているんだな」
 僕もそのうちの一人だけど、と付け加えるマルフォイにヘンリーはそうだと嬉しいな、と笑ってヘーゼルの眼を細ませた。スネイプ対策にと目元を隠していたというのに、いつの間にか抵抗はなくなってきている。
 スネイプが睨まなくなったのも大きいが、髪留めなどで前髪を抑えているということもある。

「そういえばドラコ、来年はクィディッチのチームに入るのかい?」
「あぁ、まだスネイプ教授との間でしか話してないけれども、本来一年生がチームに入ること自体が異例なんだ。あのポッターは確かにうまいかもしれないが、2学年からはそうはいかない。ヘンリー、具合がいいときはぜひとも見に来て、スリザリンが優勝するのをその場で見たほうがいい」
 ふふんと得意げな様子から、やっぱりもう打診されているのかと納得して、なるべく体調を整えるよ、と返す。
マルフォイも決して下手ではない。ただ、やり方はいろいろ問題があっただけで。

「そういうヘンリーも箒は得意な方だろう。授業の時どんな風が吹いても動じないの見ていたぞ」
 体調を考慮して乗っているみたいだけど、というマルフォイにヘンリーは目をしばたたかせた。えーっと、と目を泳がせるヘンリーだが、マルフォイにばれても大丈夫かと考えて頷いた。
「小さい頃からおもちゃのだけど乗っていたらしいから。夢中になりすぎてすぐ体調悪くなるから、それを抑えていたんだけど……ばれちゃうか」
「バレバレだ。まったく、そんなんだから食事の時軽いセクハラを受けていても気が付かないんだ。人の視線位少しは気にしたほうがいい」
 まったく、というマルフォイにヘンリーは笑ってごまかし、セクハラってなんだろうかと首をかしげる。

 やはりわかってない風のヘンリーにいや気にするな、とマルフォイはため息をついた。魔法薬の自習というよりも補習的なものが始まってからは、良くスネイプとともにいる姿を見ているため、変な輩は近づかないだろう。
 だが、純粋すぎるのでは?と思うほど無警戒な姿はどこかしらに闇を抱えたスリザリンの中では浮いてしまっている。

「できればこれからもスネイプ教授と一緒にいればたいていのトラブルは回避できそうだな」
 ぼそりとつぶやき、ガラッと開いた扉に目を向ける。両手いっぱいに何やら買い込んできたクラッブとゴイルの姿にあきれたため息を漏らし、渡されたカボチャジュースを飲む。
 普段マルフォイ以外とあまり交流を持たない二人がヘンリーにパイを渡している姿に、カリスマとまではいわなくとも人を惹き付ける魅力というのはこういうことなんだろう、と赤毛の少年を見る。
 彼が純血ではなく、半純血であるマクゴナガル教授同様にマグルの性であるために家には呼べないマルフォイはそっと息を吐き、また9月だな、と窓の外に目を移した。









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