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27:夏を前に

 マクゴナガルに説得され、不貞腐れたようにハリエットは今年ほとんど足を踏み入れなかった天文台の塔で外を眺めていた。会いたいとは言ってくるのはわかっていたが、よりによってスネイプが外に出るタイミングだった分タイミング悪いよ、と小さく唸る。
 つい勢いで手紙を出すなんて言ってしまったが、シークには遠回りして戻ってきてもらわなければならない。あ、そうだと足音に振り向いたハリエットはヘドウィグが痩せないようにとあることを思い付いた。
 これは特に未来に関係のない話だから大丈夫だろう。

「ちょっとぶり、ハリー」
 透明マントを着ているハリーの姿に声をかけると、ハリーはなんでばれたの?と目を丸くし、マントを脱いだ。
「あんなに足音立てていたらネビルだって気が付くよ。ハリーまでも気絶したって聞いて、ちょっと驚いた。もう大丈夫?」
 まったくもう、と笑うハリエットにハリーもつられて笑い……ハリエットこそ、と心配げに見つめる。大丈夫、と手をひらひらとさせるハリエットはどうしたのさ、とハリーに声をかけた。

「その……ありがとうと、僕にもう少し力があればハリエットが傷つくこともないのに……ごめん」
「違うよハリー。これは私が今を生きる理由だから、ハリーのせいじゃない。これはね、ただの私の自己満足なんだよ。変わることが怖いから、事実だけを変えた、ただそれだけ」
 うつむくハリーにハリエットは首を振り、他でもない自分のためにやったことだからという。クィレルの生死が今後どうなるかわからないから……事象は変えずにいた。ただそれだけの事。
 
「ハリー、君が私にどんな思いを持っているかわからない。けれど、私は非情な人間なんだと思う。私自身の目的のためにいくつも切り捨て、見ないふりをして。仕方がないんだと、そう割り切って……。もし私にやさしい姉とか妹とかそんな幻想を抱いているなら、私はそれにこたえることはできない」
 クィレルも切り捨て、リーマス達もいつどこでが分からないからと、そういって切り離している。他にもたくさんの人の死があったがヘドウィグとの天秤にかけている自分は人としては酷いのだろう。
 闇払いを数年して、そうやって割り切って生きてきた。そうしないと後悔と罪悪感に引きずり込まれてしまうから。視線をそらし、仕方が無いから、とそう繰り返すハリエットだが、突然ハリーに抱きしめられ、目をしばたたかせた。

「ハリエットのおかげで、僕はお母さんの守りの力で人を殺めずに済んだんだ。あの時、もう少し遅かったら僕がクィレルに飛びついていた。この手で、死を、体験するところだった。どんな方法を使ったか、僕はまったくわからない。けれど、とてもつらい魔法だったと思う。僕はハリエットが酷い人とは思わないよ。酷い人なら僕にこんな話を打ち明けないから」
 大丈夫、というハリーにハリエットは戸惑い、ほんと涙腺おかしいな、と両手で顔を覆った。


 少しして落ち着いたハリエットはハリーに学期末どうだった?と問いかける。目をそらすハリーにハリエットは笑う。
「そうだ、夏休みなんだけどヘドウィグを借りてもいいかな。ペチュニア伯母さん嫌がるでしょ。誕生日明けた頃にちゃんと返すから」
 かつて南京錠で閉じ込められたヘドウィグを思い出すハリエットは予測できなかったにせよ可哀そうなことをした、とハリーに提案する。幸い、ヘドウィグは自分のことを知っているようだから引き取っても文句は言わないだろう。
「え……あぁそっか。伯母さん嫌がるだろうな……。最悪閉じ込められるかも……。でも誕生日に頼みたいことがあるから……」
「今年はやめた方がいいと思う。それに誕生日、ヘドウィグに何を頼むつもりだったの?」
 唸るハリーにハリエットはどうせ無理だし、と心の中で呟き何か贈る相手でもいるだろうかと首をかしげる。いや、その、と言葉に詰まる様子にため息を吐いた。

「私にはフクロウ便は届かないから、手紙もダメって言ったでしょ。私のフクロウが運ぶ以外には届く手段が無いから無駄になると思う」
 ダメだというハリエットにハリーは目に見えて落ち込む。ヘンリー宛てであれば届くが、ハリエットはそもそも城自体が堅牢な守りで、その中に校長の権限で守られている存在であるために許可をしたフクロウ以外では探知不可になっている。
 現状ではシークだけがその許可をもらっているため、シークを使えば届くが普段は学校のフクロウたちに紛れさせ、彼がどれかわからないようにしている。

「どうしてもだめなのかな……」
「フクロウ便は必ずしも安全というわけじゃないから。様々な方法で中身を見ることも止めることもできる。大丈夫、手紙が無くてもハリーのことはちゃんと分かっているから」
 引き下がろうとしないハリーにハリエットは苦笑して、ドビーのことを思い出す。さて、どうやれば彼から手紙を取り戻せるか。それを考えなければならない。
「わかった……。それじゃあヘドウィグのこと、よろしく頼むよ。今日は急に呼び出してもらってごめん。何か用事があったから不機嫌かもしてないってダンブルドア校長が言っていたから少し気にしていたんだけど……」
 しぶしぶ折れるハリーに笑うハリエットは続けられた言葉にえ、と顔をこわばらせた。用事があるとはダンブルドアには一言も言っていない。呼び止められた時に思わずヘンリーのまますごく嫌そうな顔をした気もするが……。

「いや、その、別に用事というわけでもないけど……。ダンブルドア先生に何も言ってないのに」
 まさか自分がスネイプを……それ以前にヘンリーとスネイプのよくわからない距離感のことだろうか。どこまでばれているのかと思うと気が気ではない。
 少なくともダンブルドアもマクゴナガルにも以前誰だったか、言わずとも知られていることはわかっている。
「ならよかった。そういえばハリエットは、クィディッチは得意?」
 ほっとしたようでハリエットの動揺する姿に気が付かないハリーは気が逸れたのかすぐに話題を変える。
 昔20歳の誕生日を迎えた翌日、もう!とジニーに怒られたことを思い出すハリエットはこういう気づかいの無さというか、察しの悪さが原因かといまさらになって気が付き少し頭を抱える。
 これはまたいつかジニーに怒われるだろうな、と。

「もちろん。箒に乗るのは好き。多分問題なくシーカーは努められると思う。けど、人がいる時は乗れないから……」
 そういえばヘンリーとしても授業以外では乗っていない。たまにシーカーとしてスニッチを追いかけていた時のように全速力を出して飛びたくもなるが、今それをやるわけにはいかない。大体病弱設定が覆ってしまう。せっかく定着したのにそれだけは回避しなければ。
「あ、そっか。いつかハリエットも自由に暮らせるようになれたらいいのに」
 余計なことを聞いた、とまた気落ちするハリーにハリエットは笑って大丈夫とその背を叩いた。鐘の音が聞こえ、ちらりと空を見る。もうそろそろ別れなければならない。

「今の生活でも満足しているから大丈夫。一応私も正体を隠して授業出ているし」
「え?あぁそうだよね。そっか」
 不自由はしていないというハリエットにハリーは顔を上げて、ダンブルドア先生が絡んでいるのに学校に行っていないわけはないのかと妙に納得してそれならよかったと笑う。









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