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21:ハリーとハリエット

 ハリエットは日記を閉じて深々とため息をついた。スネイプが審判を務めるクィディッチも記憶通り終わって、ノーバートの件も終わって……。マルフォイが悔しがっていたがスリザリンの人は責めることはしなかった。
 彼が魔法薬学で点数を稼いでいるのと、スリザリンは普段から点数の減点が少ない傾向にあるからか、名門貴族である彼が罰則を受けることで溜飲が下がるのか。スリザリンで過ごせば過ごすほど……かつての寮が嫌になりそうで、ハリエットは羊皮紙を手に取った。
 杖を出して机を何度か叩く。すぐに表れたのは昔からハリエットを知る屋敷しもべ妖精だ。
 ハリエットとヘンリーのことを知るごく少数のうち、本当に小さい頃からマクゴナガルが授業でいないときなどに世話をしてくれた……乳母のような屋敷しもべ妖精をベベという。
 ベベにこれをハリー=ポッターの寝台に届けてほしい、と頼む。ベベは特に詮索することなく承知しました、と受け取りパチンと消えて行った。

 クィディッチもやめたいというほど気落ちした様子のハリーだったが、枕元に置かれていた手紙に気が付き、ルームメイトからの嫌がらせかと身構え……署名のH・Pに首を傾げた。
『ハリーへ あなたがとても気落ちしていると思い、手紙を書きました。もし、ハリーが来られるのであれば透明マントをかぶって土曜の昼過ぎ、湖畔に来て。14時くらいまで待っています』
 とても短い文面だったが、H・Pのイニシャルにハリーははっとなって片割れからの手紙を抱きしめた。
 彼女にまた会える。
 それも城の中ではなく外で。
 それにしてもなぜ透明マントのことを知っているのだろう、とハリーは首を傾げた。
 勉強をしようというハーマイオニーの誘いに対し、どうしても外せない用事があると言って透明マントをかぶり急いで湖畔に向かう。


「ちょっと早かったかな」
 息を切らしながら到着するもだれもいない。ちょっと待とう、と腰を下ろすハリーはくすくす笑う声に驚き、音のほうにと顔を向けた。
「久しぶり、ハリー」
 すぐ近くに座っているハリエットは杖を振るって目くらましよ、と事も無げに告げる。
同い年のはずなのにすごい、と感心するハリーにハリエットは笑い、必要な魔法だったから、と必要に迫られたから覚えたと返す。
「そっか……君は……ハリエットは大変だったね……。大丈夫なの?こんな外であったりして」
 目を伏せ、納得した風のハリーにハリエットはニコリとほほ笑む。
「今の城は息がつまるでしょ。だから大丈夫。一応人が来たらわかる魔法を周囲にかけたからある程度は大丈夫だと思う。私、グリフィンドールは素晴らしい寮だと思っていたけど、幻滅したな。だいたい、点数点数って……先生のさじ加減で変動するものなのに仲間の中でこんな争うのならいっそのこと廃止すればいいのに」
 かつて首位だったスリザリンがグリフィンドールの逆転によって滑り落ちて行った。
 あの時は喜んだが、大人になってから振り返ると、なんとも言えない気持ちになった。競わせることで規律を守ることと、仲間との絆を深める、一体感を持つということが目的のはずが、子供のグループによる優劣を決める争いのもとになっていることにばかばかしい、とため息をついた。
 教員もまた寮監という立場上仕方がないのかもしれないが、優勝か否かで争うのはいかがなものか。ハリー時代に寮のことで様々嫌な面も見てきたハリエットはスリザリンがマルフォイを責めない様子に何のために寮が分かれているのか…競い合うのか。
 わからなくなっていた。ハリー達に皮肉を浴びせるスリザリンはもちろん嫌いだが、所詮は子供なのだ。

「なんていうことを言うんだハリエット。寮の勝敗は大切じゃないか。それをあんなに減点して……」
 眉を顰めるハリーは反省しているようにため息を吐く。そう分かってはいるのだ。自分たちが規則違反をしたからこうなっていることには。
「まぁ今回はチャーリーも悪いのよ。ノーバートをあんなところまで運ばせるんだから。もしかしたらハグリッドが運ぶことを想定していたかもしれないけれども、湖畔とかもう少し考えようがあったんじゃないかな」
 あんなところまで木箱に入ったドラゴンを運ぶなんて無茶だから、とため息をつき元気出して、というハリエットにハリーは目をしばたたかせた。
 
「なんで……ノーバートのこと……。それにロンのお兄さんのことまで……」
「そう、知っている。だから一緒にいられないの。私は知りすぎているから。そして、ハリーあなたとも会いたくなかった理由は……こんな能力を持っていることを知られたくないから。そろそろ戻るね。一緒にいるところを誰かに見られたら困ったことになるから」
 驚いた様子のハリーにハリエットは言葉を選びながら答え、ハリーが反応するより前に立ち上がる。
 じゃあ、と言って杖を振るい目くらましをかけると足早にその場を立ち去った。

 知っていたらなんで、という眼がハリエットの心に深く刺さり、ハーマイオニーの苦労が身に染みてわかるよ、とハリーが見えないところまで行くと薬を煽り、ビオラの時にいつも行くスネイプが薬草をとっている場所にまで足を運んだ。
 生まれ変わってから心が繊細になりすぎじゃないか、と苦笑するヘンリーは心配するように肩にとまったシークとヘドウィグの温かさにどうしてだろうね、と目元を拭う。
 わかっていたはずだ。未来を知っているのならなんで教えてくれないのか、助けてくれないのか。
 
 かつて自分がそういって周囲にあたっていた。なんで僕に誰も教えてくれないんだと憤り、あげくシリウスを失った。
 あの時の自分なのだからわかっていたのに。

「本当、僕は甘えていた子供だったんだ」
 英雄と言われるたびに反発して……だけどなんで誰も教えてくれないんだと怒り……。落ち込むヘンリーをシークが寄り添い温め続けた。

 ハリエットの言葉に驚いていたハリーは消えてく背を見てから立ち上がった、傷を負ったような緑の目が頭から離れなかった。ヘンリーに続いてまた傷つけてしまった。
 ヘンリーはロンのせいかもしれないが、それでも何か罪悪感が拭えなかった。そして今回ハリエットだ。明確に自分が傷つけてしまったという事実が胸に突き刺さる。
 彼女は知っているのだ。自分が今寮内でどんな風に扱われているのか。それに対し怒っているようにも見えた。

 彼女は再三いっていたはずだ。一緒にいられないことを。そして今回その一端なのか全容なのかわからないが理由を教えてくれた。だけど驚きと戸惑いと……ただ黙って見ていたことに憤って思わず責める様に見てしまった。
 自分の知らない高度な魔法を使い消えてしまった時、どうしてヘンリーと重なるのか……それは二人とも孤独なのだとハリーは気が付いた。
 何時か全部教えてくれるのか。それともそれはできないのか。
 僕にはわからないよ、と首を振るハリーは城に向かって歩き始めた。どこかでハリエットが泣いている気がして、ごめん、と小さくつぶやく。









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