--------------------------------------------


15:これはあくまでも事故

 マクゴナガルの所から戻ったヘンリーはまた課題を持ってくると、談話室に広げて取り掛かる。魔法史なんてこんな古いのではなく、グリンデルバルドの時代とか、ヴォルデモートとか……
 近々でやばいのいるのになんでまだ魔女裁判なんだ、とソファーに腰をおろし、資料を見ながらヘンリーはため息をついた。ビンズ先生はいったい今がいつなのか……ゴーストになるとそれもわからなくなるんじゃないのか、とジャム付きのクッキーを頬張る。
 魔法史の授業はスリザリン生であろうと容赦なくその睡魔を誘うというのが嫌というほど分かった。ゴイルが開始5分と起きていたことなんてないだろう。あのマルフォイでさえ寝落ちしていたこともある。
 そんなことを考えていたからか、急に眠くなり薬の時間は確か10時間を飲んだ、と考え……うとうとと眠りについた。


 朝のヘンリーが妙に緊張していたこともあり、少し気になるスネイプは寮に戻る姿を見て何となく彼が一人どうしているのか気になってスリザリン寮へと入った。
 ぱちぱちと心地よい温度に保たれた談話室には片付けられてはいるものの、クリスマスプレゼントがたくさんあったのか、テーブルの上にお菓子かいくつかおいてあり、課題を片付けていたのがうかがえる。
 そして、ヘンリーはソファーに腰を下ろしてこくりこくりとわずかに揺れながら眠っていた。

「また転寝を……。暖かいとはいえ……いや、昼寝位であれば問題ではないか」
 ふっと笑い、近づいて……その視線がジャム付きのクッキーに向く。寝る前に食べていただろうヘンリーの口の端にも少しついているのが見て取れる。眉間にしわを寄せ、開けられた缶を手に取り、一つクッキーを手にそのジャムの匂いを嗅ぐ。
「これは……睡眠薬」
 もしやと貰い主のヘンリーに悪いと思いながら確認すると、惚れ薬と睡眠薬とだけでも問題だが、女性ホルモンが増えるとかいう眉唾物のチョコレートとか一時期女性の間ではやった魔法薬など……彼を一体どうしたいというのだ、というものが含まれた食べ物が見つかり回収する。
 あとでヘンリーには魔法薬が含まれていたと……真実をそのまま伝えてはそれはそれで問題な気がして、悪戯で老け薬などが入っていたため、安全のことを考えて回収したと、そう彼には言おう。
 成長途中の少年がそんなものを取ったらより中性的になってしまう。そう考えて大きくため息を吐いた。
 もう少し警戒心を持ってほしいと、そう考えるが大広間で間接的なセクハラの気配を感じても気が付いていない様子にため息が思わず出てしまう。見ていても小食なのだから食べさせたいのであればシチューなどがあるのに、あえてかじりつくようなパンやソーセージなど……なぜものを咥えさせるのだ、とため息が出る。

 少しサイズの大きい服はまだ新しくみえ、誰かのプレゼントだろうか、と考え‥‥‥指先だけが出たセーターに身を包んだ姿はざわりと、心の奥の何かが刺激された。
 眼鏡をはずし、机に置くと妙に音が響いた気がして、スネイプは妙な喉の渇きを覚える。本当にジャムに睡眠薬が入っていたかの確認だ、と誰に言うでもなく心の内で呟きそっと口の端に口づける。
 ジャム以外にもなぜか妙に甘い気がして、眉を顰めるとヘンリーの瞼が震えヘーゼルの瞳を覗かせた。まだ薬の効果で完全な覚醒に至っていないのか、ぼんやりした表情ですぐ目の前のスネイプを見る。
 男子生徒に何をしているのだ、と慌てて離れようとするスネイプだが、ゆるくローブを掴む手があり、まだうつらうつらしているヘンリーを窺いみるしかできない。

「せんせい……」
 つぶやくような声に何をしていた自分、とはっとなったスネイプだがすぐにその思考が停止した。寝ぼけているヘンリーの閉じた目を間近で見つめ、当てられた唇の熱さに何かががらりと一部崩れた気がする。
 少し香るアルコールの香りにテーブルを横目で見ればウィスキー入りと書かれた空箱があり、思わずため息がこぼれる。そう、これは子供の舌であるヘンリーが酔っぱらっているだけで、これは不可抗力であって、そう、大した意味はないのだ。
 抱きしめて、合わせるだけでも唇の柔らかさ堪能しているのもやましいことではなく……ぐるぐる回る思考とは別に自分の手はいつの間にかヘンリーの頭を支え、その細い体を抱きしめていることの言い訳が思いつかない。
 一喜一憂する彼を見ていると、コロコロ表情を変えるポッターの様に守らねばという思いが沸き起こり、憂いを含んだヘンリーの瞳がかつて諦めた面影に重なり……。ただ、好ましいとそう思えてしまうのは何故か。
 パチン、という薪がはぜる音にようやく離れたスネイプはヘンリーにローブをかけ、怪しいお菓子とともにスリザリン寮をあとにする。部屋に戻るなり、一連の行動を思い返したスネイプはただただ頭を抱えていた。

 クィディッチの一件の後、時折視界の端でヘンリーがスネイプを見ていることに気が付いてはいた。視線をそちらに向けると慌てたように逸らされるため、見ないようにしてきたが。怖がらせたことはわかったが、彼との間に開いた溝が少し悲しかった。
 ビオラに思わず相談してしまうほどにはあの傷ついた眼がスネイプにはこたえたのだ。答えることのない雌鹿を撫で、勝手にその瞳から大丈夫という風な空気を感じ……少し気持ちに整理を付けたはずだったというのに。万が一覚えていたら謝ろう、とらしくなさすぎる自分の行動がスネイプはまるで訳が分かっていなかった。


 赤毛の少年は顔を真っ赤にしてかけられたローブを抱きしめ……何が起きているの、と悶える。よほどスネイプも動揺していたのか、気が付いていなかったが、ヘンリーは元闇払い。魔法薬には気が付かなかったが、さすがに口に何か触れたら目が覚める。少しばかり寝ぼけはしたが、この体で初めて取ったアルコール分で酔ってはいたが、触れた瞬間パチリと意識は覚めていた。
 今は男なんだから、ちょっとスネイプがとち狂っただけで、あの人はリリーを愛しているんだから、と必死に言い聞かせるヘンリーは抱き締めたローブに顔を埋め、魔法薬独特の香りの他にほのかに落ち着くような香りを感じて……。
 何してるの自分、と暴れた結果ドスンと床に転がり落ちる。その痛みで少し落ち着くも一度上がってしまったスネイプに対する気持ちは下がりそうにもない。
 時間をおいて、動揺をひた隠しにしてローブをスネイプのもとに届ける。触れてこないスネイプに触れるのも戸惑われ……あれは夢、あれは夢なんだ!と自分に言い聞かせてそのことを出さない。
 談話室内とはいえ体を壊さぬように、ともはや何を言っているのかよくわかっていないスネイプにも気が付かず、ヘンリーは平静を装って部屋を出ようとして呼び止められる。

「君へのクリスマスプレゼントに届いた食べ物の中に、悪戯で眠気を誘う魔法薬が入ったものを見つけた。それらはすべて処分したが、食べ物関係については親しいものからもらうのではない場合は十分注意するように」
 気を付けたまえ、と言われてヘンリーは目をしばたたかせた。だから急に眠くなったんだ、というのと、なんでそんなものくれるんだろうか?と首を傾げる。今度からは知り合いから来たものだけを食べよう、と心に決め今度こそ部屋を出て行った。
 日記を書くところで一日を振り返り……鏡のことを書き出す。そろそろハリーが見つけるだろう。そしてそこで家族を見る。とりこになったところをダンブルドアに声をかけられる。そうだったはずだ。
 午後のことは……夢じゃなかったんだ、という記録ために書こうとして顔が赤く熱を帯びる。どうせ明日は頁をめくらなきゃいけないんだ、もうここを見ることはないはずだ、と一言書いて寝台に飛び込む。もうあのページは読み返せない。



“キスしちゃった”









≪Back Next≫
戻る