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10:母と娘のひと時

 目くらましをかけ、先に城内に戻っていたヘンリーはあの日ダンブルドアが依頼した魔法薬をまだ覚えていて、改良してくれていることに嬉しくなって足早にマクゴナガルの部屋へと帰ってきた。
 ノックをして一生徒の様に扉を開けると、ノックの癖で気が付いたのかマクゴナガルがおかえりなさい、と柔らかく迎える。
「あなたがスリザリンに入るのは少し意外でしたね」
 紅茶を淹れ、ヘンリーの前に置くとヘンリーはため息をついてから気持ちをハリエットに切り替え、そっとカップを持ち上げながら笑う。
「前はどっちにしようと言われてグリフィンドールを選びましたから。それに、今後を考えるとこちらの方がいいんです。まだ平和なうちに一番近くて一番遠いいスリザリンに居場所を作って……未来に抵触しないか見極めないと」
 少なくとも、スネイプを助けるにはスリザリン生としてあの日を迎えるのが都合がいい気がして、ハリエットは出されたクッキーをかじる。
 まだ平和なうちに、という言葉の中に今後ホグワーツが争いに巻き込まれることを察したマクゴナガルは詳しく聞くようなことはせずヘンリーを見つめる。

 未来を変えると危惧されることが制限されているが、こうして想定できる範囲で抗おうと抗えないほど大きな流れに関しては詳細を聞かない限り触れないことにこれまでの生活で学んでいた。
 だから答えを聞くのではなく自分の中でその答えを探し、解決する。それが彼女の知っている未来に繋がるのか、それともほんの少し違う光景が出るのか。
 それを知っているのは彼女だけだ。そしてその答えはその時を迎え、見ることでしかマクゴナガルはわからない。

「それにしても、さすがに一年生の授業ではあなたは好成績になるようですね」
「魔法って素直だよね……。狡いかなと思って頑張って肩の力を抜いたのに……。あぁでも、私筆記苦手だから……成績優秀にはならないと思う!」
 ふふ、とほほ笑むマクゴナガにヘンリーはため息をつき、テストは苦手だと先に宣言した。えぇ何となくわかっていますよ、とヘンリーの書いた課題を見せるマクゴナガルにヘンリーは思わずうめき、闇払い時代も報告書ロンと一緒に書き直したなと思い出しながら大きくため息を吐いた。

 ハリエットの前世についてはマクゴナガルもダンブルドアも問いかけはしないが、恐らくは彼なのだろうというのはわかっている。
 何時どうやってその生を終えたかはわからなくとも、きっと闇の勢力との戦いが終わった後の話だろうと、誕生日に買い与えた10年計画帳を最後まで開いた様子がないことから考えていた。
 彼女にとってかつて自分だった彼は現在ウィーズリー家の6男と仲がいいのはこの一週間でわかった。
 成績優秀なマグル出身の魔女ハーマイオニー=グレンジャーもいがみ合いながらその周辺にいることも見てきた。ヘンリーとして暮らしているハリエットはどうだろうか。
 友達は。親友はできたのか。
 寮生活は個室とはいえ談話室やシャワーなどいくらでも寮生と接する機会はある。この一週間で起きたことを嬉しそうに話すハリエットに少し心配を抱えながらマクゴナガルは紅茶を注ぎ足した。

 魔法薬は表面上を変えるに過ぎない。

 今はまだ女性らしい体つきはしていないが、薬はそれをちゃんと男性的なものにするらしい。現に、慣れているから平気と言って目の前にいる子は男子シャワー室でシャワーを使っているうえ、トイレも男子のを使っているという。
「なんちゃってな感じで本当に見た目だけですけど、うっかり裸を見られてもばれないし、そもそもスリザリンってそういうアクシデントがあると同性同士でも目をそらすから大丈夫」
 貴族として育っている子が多いからなのか、それともそういう風になっていく風習があるのか。騒がしかったグリフィンドールの男子シャワー室よりも静かだし、ふざけてタオルを引っ剥がす遊びをするのもいない。
 前世が男の子だからいいのかもしれないが、と頭を抱えるマクゴナガルは好きな糖蜜入りのクッキーを食べたのか嬉しそうな子を見て仕方がないと首を振り紅茶を含む。
 そのうち恥ずかしくなったりするのかしら、と慈愛のこもった眼差しで我が子同然のハリエットを見つめた。

「あ、そうだ母さん。ニンバス2000を一つ用意したほうがいいよ。今年のクィディッチのために」
 突然悪戯めいた眼で笑いながら口に出すヘンリーを見て、マクゴナガルは驚き……今度の飛行術で何かが起きることを察し、頷いた。








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