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7:汽車に揺られて

 猫の姿で護衛につくマクゴナガルとともにダイアゴン横丁で買い物を済ませ、新学期の準備を整えたヘンリーはダンブルドアとマクゴナガルに相談し、ロンドンの駅に一度行くこととした。
 一人でホテルに泊まらせるのも、というマクゴナガルとともに近くのマグルのホテルをとったヘンリーは一寸の隙も無いほどマグルの姿をしたマクゴナガルを見つめ、さすが母さん、と呟く。
 いつものローブ姿ではないマクゴナガルは最低限のたしなみです、とほほ笑みハリエットを抱き寄せた。
「たまには部屋に戻ってきていいですからね。何か辛いことがあればいつでも相談に来るのですよ」
 これから激動の時代が来ることを予想し、長くなった髪を撫でる。これから起きることに不安と戸惑いを感じるハリエットはこくりを頷き、考えていたことを伝えなければと体を起こす。

「母さん、私……生まれ変わった今……やらなければならないことがたくさんあるの。心配もたくさんさせると思う。前はこんな風に育ててもらえなかったから……家族に心配かけるのが今……辛い」
 本来ならばここまで制約が厳しい予見者ではないはずが、大きな流れがあり少しでも近づけば容赦なく呪いが襲い掛かる。だがそこに飛び込まなくては生まれ変わった意味が何一つない。
「くれぐれも最後の1回だけは……。呪いの力を最後まで使わないように。それしか私からいえることが無いのが……本当に悔やまれます」
 できる事ならば変わってあげたい、そう言葉には出さないマクゴナガルは我が子同然に育てた華奢な体を抱きしめる。この子にどんな運命が待ち構えているのだろうかと、不安を胸に押し込めた。

 翌日、ホテルの前で別れたハリエット……いやヘンリーは森フクロウのシークを入れた籠を揺らし、9と3/4に入る。シークは学校にいるフクロウと同種のため、まぎれさせることができるといい、実家がホグワーツ内になっているハリエットのためにマクゴナガルが用意したフクロウだ。
 シークは黒い縁取りがほかより太く、目元を覆う羽毛が少し長く、始終鋭い眼をしているがハリエットによく甘える性格をしていて、かつての相棒を思い出すハリエットはそれがひどく懐かしい。
 ヘンリーの姿であっても間違いなく手紙をもってくるシークは威風堂々としたたずまいであたりを見回す。ハリーとの接触を避けるため、中ほどの一年生がちらほら見え始めるところに入ると、窓からプラットフォームを見つめる。
 早めに来たからか、たくさんの生徒を見て、きらきらした笑顔に笑みがこぼれる。

「なんだ人がいたのか。入っていいか?」
 がらりと空いた音にヘンリーは振り向き、長い前髪で隠れる目を見開いた。
「お前まさかウィーズリーのやつか?」
 プラチナブロンドの少年……マルフォイが不快そうに問いかけるのをヘンリーは首を振ってヘンリー=マクゴナガルと名乗る。マクゴナガルと聞いてほっとしたようにして……ヘンリーの回答を待つでもなくどかどかといつもの3人でコンパートメントに乗り込む。
「マクゴナガルというと確か変身術の教員がその家の物だったと父から聞いているけど」
「そう。伯母様……かな。あ、いや違うか。大伯母様か。父が甥だと言っていたから」
 ヘンリーの言葉になるほどと納得するマルフォイはドラコ=マルフォイだと名乗り、グラッブとゴイルがそれぞれ名乗る。
 ヘンリーの隣に座ったマルフォイはちらりとヘンリーの手元にある魔法薬学の本に目を落とした。

 まだ純粋で、無垢で、父親の威を借るだけの子供だったマルフォイ。まさかこんなに早く会うなんて、と考えるヘンリーは相変わらずのマルフォイとその腰巾着の会話を聞き流しながらぺらりと本をめくる。
 家から直接着替えてきたのか制服姿の3人はとても懐かしく、本に興味を持ったふりをしてひっそりと口角を上げる。
 そう、まだみんな子供だったのだ。
 あの日、命を落としたクラッブも今はまだ。
 ごめんね、とそっと心の内で呟きながらマルフォイの言葉に同調するように頷くクラッブをみる。自業自得で命を落とした彼を救う気はない。
 セドリック、シリウス、ムーディー、ドビー、そしてスネイプ。この5人を助けるのにあと8回の制約は少なすぎる。リーマス夫妻とフレッドについても助けたいがこればかりはいつどこで、が分からない以上助けようがなく、きっとシリウス達を助ければ運命は変わるはずだ、とそれを信じるしかない。
 シリウスとムーディーがあの場にいたのならば……戦局は変わるはずだ。もしそれで命を落とすというのであれば……それはもう運命だし、なにより自分のせいでというのは消える。
そう割り切るしかないのだ。

 ひっそりと静かにするヘンリーを気にするでもなく、べらべらと話すマルフォイらは何かを言いながら席を立ち、後方に向かって去っていく。
 ちょうど来たワゴンで買い物をすませ、ついでに着替えも済ませると不機嫌な様子のマルフォイが戻ってきた。
「何がハリー=ポッターだ。あんな奴とつるむなんてどうかしている」
 そう言って乱暴に座ったマルフォイはすでに制服に着替えているヘンリーに気が付いてお前はどこの寮に入りたいと問いかける。
 不機嫌そうな様子からハリーにあって来たんだな、と判断するヘンリーは運命が順調に回り始めたことにそうとは知られないように息を吐いた。
「僕は……スリザリンかな。大伯母様はがっかりするだろうけど、あまり騒がしい寮は好きじゃない」
 本から顔を上げ、答えるヘンリーは邪魔だという風に前髪をさらりとよけ、ヘーゼルの眼を片方あらわにした。
 同じ電車に、かつての自分であり、そして今は血を分けた兄弟であるハリーがいる。当然スリザリンだと満足そうなマルフォイを見て、真の友とは彼の事だったのだろうか、と、ヘンリーは本に視線を戻した。








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