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2:運命の子供たち
ゴドリック谷の一軒から元気な赤ん坊の声が2つ響き渡った。男の子と女の子の双子に父親は喜び、少し驚いた様子の妻を抱きしめる。
その翌日、白いひげを蓄えた老人が祝いのためやって来た。男の子を満足げに見つめた老人ははっとしたように女の子を見つめる。
「この子は予見者じゃ」
そういう老人……ダンブルドアは驚いた様子のポッター夫妻を見つめ、静かに首を振る。
「予見者って…それじゃあこの子は」
「そうじゃ。強い後悔と、過去を変える意思を持った魔法使いがごくまれに最後の魔力で起こす……奇跡の力じゃ。もっとも、このようなものは廃れて知っておるものはほとんどいないじゃろう。じゃが今の情勢では危険じゃ」
戸惑う男……ジェームズにリリーが寄り添う。
本人にいつどこで、誰の家になどを選ぶことはできない。
だが何かしらの後悔を抱き、時を超え戻ってきたことだけは確かだった。
「それと重大な話があるのじゃ」
そういうとダンブルドアは生まれてきた7の月が終わるときに生まれた男の子の予言を二人に告げる。もしかしたらこの子が生まれたのも偶然などではない、とそう考える二人に更にダンブルドアは告げた。
しばらくかかった話し合いの末、一週間後女の子はダンブルドアが選んだ人のもとへ預けられることとなった。生まれたばかりの我が子に降りかかる運命にその晩二人は涙を流し、同じ姿で眠る子を見つめる。
「この子の名前……。シリウスが言っていたでしょ。絶対男の子だからハリーだって。だからこの子は……ハリエット。ハリーと同じ呼び名なら……きっと大丈夫だから」
生まれたばかりの子を手放さなければならないことに打ちのめされるジェームズとリリーだが、ダンブルドアの予言によればきっとハリーの傍にいる方が危険かもしれない。一人ならば間違いなく助けられる。
だが、それが二人となれば。
何度も何度も闇の勢力を退いてきたジェームズだが、悔しいことに守るべきものが増える一方守る力が不足していることに悔しさでうつむいた。親友のシリウスに預けるわけでもないということは、きっと大勢の大人で守らなければならない。
そして本当に未来を予め見てきたというのであれば、彼女は間違いなく闇の勢力に追われる。だから……だからこの子は、ハリーは一人っ子だったと育てなければならない。互いの弱点にならないよう、互いのつながりは最小限にしなければ。
「ダンブルドアだって言っていたように、すべてが終わったら……その時はハリエットに会いに行こう」
寄り添い涙を流す夫妻は娘のためにハリーとおそろいの靴下を用意し、おそろいの帽子を作る。迎えに来た人を見て、二人は驚き心の底から安心して我が子を、ハリエットを恩師であるマクゴナガルにどうか、彼女をと言う。
「ホグワーツは盤石な守りがあります。だから……会いたくなった時は私の部屋に来るといいでしょう」
彼女はホグワーツで育てる、というマクゴナガルの言葉に二人はほっとしてリリーの髪を握る子の手を離させた。うっすらと目を開けたハリエットの深緑の瞳を見つめてからもう一度二人で強く抱きしめると今度こそマクゴナガルに赤子を託した。
いつか4人で会う約束はハロウィンの夜に立ち消えることなど、この時は誰一人思ってもみなかった。火が付いたように泣き叫ぶ赤子を驚いて抱きしめるマクゴナガルは呼び出しを受け、胸騒ぎとともにダンブルドアのもとへと向かう。
両手で顔を覆うダンブルドアは泣きつかれて小さな声を上げるだけのハリエットを見るとすまない、と涙をこぼした。
学校内の校医であるマダム・ポンフリーに赤子を託すと、マクゴナガルは猫の姿で大切な子の兄弟であるハリーのこれからの住まいとなるマグルの家を見に行く。信じられないほどマグルなマグルであることを確認したマクゴナガルはダンブルドアに反論するも、血の守りがかけられているハリーはこの家が一番安全なのだと諭され、戸口に置かれた運命の子を見つめた。
離れ離れにされた双子の片割れであるハリエットは責任をもって育てると、そう心の誓い……。家族による守りがかけられていないハリエットはハリー以上に無防備だ。
予見者である以上記憶が繋がれば実力なども追いつくだろう。彼女には自分を守るすべを教えなければならない。
生き残った男の子、ハリー=ポッターが称えられる一方、その片割れであるハリエット=ポッターは静かに誰に知られないようダンブルドアと校医であるマダム・ポンフリー。そして育て親のマクゴナガルだけの秘密となり、ホグワーツの一角で育てられることとなった。
再び双子がそろうのは11年後……入学式の時なのだと、おもちゃの杖を振るうハリエットを見つめるマクゴナガルは浮かんだ涙をぬぐい、本当の子を育てる様に愛を与える。
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