砕けたパズル
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翌朝、しっかりと抱きしめあったまま目を覚ましたスネイプは、腕の中のハリーをみてほっと息を吐いた。
ふと、ハリーの顔の近くに見覚えのあるピースが落ちていてスネイプは目を疑った。
残り僅かのピースをすべて覚えているわけではないが、この色をしたものはなかったとハリーの肌と同じ色のピースを見る。
そこでハリーがもぞもぞと動き、目を覚ましたことを知るとスネイプは素早くそのピースを隠した。
もしかしたら壊れてしまったハリーの心のピースが足りないのかもしれない。
目を覚ましたハリーにやさしく触れるだけの口づけをする。
何度も角度を変えて口づけると、目元を赤く染めたハリーと目があい、どちらともなく顔を寄せ深く唇を合わせた。
スネイプに乗り上げたハリーを降ろそうとして、今まで見せたことのないほど不安な顔を見せるハリーに手が止まる。
「わからないけど…お願い…お願いだから…抱いて下さい。心が、頭が、ぐちゃぐちゃで。今手放したら、落ちちゃいそうで。」
ぼろぼろと涙をこぼすハリーにスネイプは降ろそうとしたのをやめ、引き寄せて涙の味がする唇を重ねた。
ハリーの寝巻を脱がせ、記憶にあるよりも細くなった体をなでおろす。
幻として現れたジェルを手に取り、口づけながら最奥を蹂躙する。
スネイプの指を喰いしめる姿にスネイプは唇を引き結んだ。
こんな風に淫らに体を悶えさせ、意図的に喰いしめるなんて今までしたことが無い。
スネイプの体を忘れ、誰かによって吹き込まれた身体に嫉妬の感情が荒れ狂う。
恥じらい、それでも自分なりに必死にこたえようとしていたハリー。
大切に大切にしていたはずの掌中の珠。それを放り出し放置したのは自分だ。
落ちた衝撃で球は欠け、人から人の手に渡り削られてしまったスネイプの大切な球。
ほぐれたことを確認し、下から突き入れる。
背をそらし、喘ぐ姿にこんなに苦しい性交はしたことが無いと、意識の中のハリーとの違いを見つけてしまうことに体を起こして踊り揺れるハリーの体を抱きしめた。
そのままハリーを押し倒し、のしかかる。
ハリーを壊したのは自分だ。
だからハリーを責めることは愚か者の極みだと、そう分かっているのに怒りと憎しみと、いろいろな負の感情が渦巻いて留まるところを知らない。
甘く嘶く声と細い体にだけ集中して何度も穿ち続ける。
ハリーを何度も先にいかせて、ようやくスネイプも体の快楽だけで上り詰めて、最も深い場所でその欲望を解き放った。
行き過ぎた快楽に気絶するハリーを抱きしめて、体を洗いに行く。
眠ったままのハリーをソファーに横たえてスネイプは再びパズルと向き合った。
あの後ピースは3つ出てきた。合わせて4つのピースが何を意味するか分からない。
だが、とぱちりぱちりと最後のピースをはめた。
欠けていたのはハリー自身の顔と、スネイプの顔の部分だった。
汽車から下りたハリーは路地で見かけた男性に声をかけ、そしてホテルの一室でシャワーを浴びて抱き合う。
食事とわずかなお金をもらって次に行く。
何度も繰り返すうちにハリーの服が汚れて、誰もが断って消えていく。
「ねぇ先生。僕はね、先生さえいればいいんだ。」
あの手袋をはめ、その手に向かって話しかけるハリーはけらけらと笑った後自分の身体を抱きしめる。
「先生…。」
『いくら望んでも“先生”が僕を抱きしめることなんてないのに。』
「先生。」
『こんな外も中も汚れ切った僕を抱きしめる人なんていない。』
自分を抱きしめるハリーの相反する心の声にスネイプはだからか、と昨晩の涙を思い出す。
ハリーはただ、抱きしめてほしかったのだと、ようやく知ることができた。
「先生っ…。」
『誰を待っていたんだっけ。』
ハリーの言葉が突き刺さる。
ハリーの心は壊れていて…大切な記憶が抜けていた。
だからあのとき一緒にパズルの山にピースが入っていなかったのだ。
ハリーの記憶は雪とともに途絶え、完成したパズルが淡く光りだす。
この世界で果たして正常に動くのか、そう考えたスネイプはハリーを抱えて元の世界へと戻る。
幾重にも重ねられたベールを抜けていく感覚があり、体に重圧がかかる。
ふらりと足をもつれさせるスネイプは、しっかりと床を踏みしめハリーを寝室に連れて行く。
現実では計算した通り3日と半日がたっておりスネイプは徹夜したときのような虚脱感に魔法薬を煽る。
ハリーにも飲ませるとそっと頬を撫でる。
自分とハリーに清めの魔法をかけ、ハリーの服の乱れを整える。
パズルが発光したことに呼応するように淡く発光するハリーの傍らに置き、祈りを込めて抱きしめた。
「ハリー。戻ってきてほしい。もう二度と…二度と愛したのを失いたくはない。戻ってくるのだ、ハリー。頼む…。これほど大切で、手放したくないと、そう思えるほど…愛している。」
口づけてずっと言えずにいた言葉を口に乗せる。
ふるりと瞼を開けるハリーは顔を赤くして、本当に?と聞き返した。
もちろんだと、そういってまるで初めて唇を合わせたように、誓いを結ぶように目を閉じて唇を触れさせた。
パズルを覆った汚れが消え、額縁ががたがたと震える。
溢れた光が世界を白く焼き、風がはためいて白い靄を…たくさんの記憶を吸い込んでいく。
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