砕けたパズル
--------------------------------------------
次に目を覚ましたハリーが見たのは、自分に覆いかぶさるあのスリザリンの生徒だった。
訳が分からないものの穿たれ打ち付けることに身体が無慈悲に反応し、甘い嬌声があがる。
「お、やっと目を覚ましたのか。」
「寝てるから先に入れたけど、別にいいだろ。おまえもたのしんでいるんだし。」
声の方向に目を向けると3人の生徒がそこにはいた。
青ざめるハリーは快楽におぼれる体を叱咤し、目の前にいる生徒を突き飛ばすと身をよじって起き上がろうとカーテンに縋る。
「このやろっ!」
髪をつかみ、なおも抵抗するハリーの手を縛る。
「いきなりなんだよ。いつも金出せば足開いただろ。やりすぎて気絶したの放置してたら別のやつに犯されたり…いつものことだろ。」
「お前自分の立場が分かってないだろ。お前は、俺たちのものをぶち込まれて喘いでりゃいいの。」
「快感以外にお情けでお金貰ってる、娼婦なの。わかるか?お前は卑しい存在なんだ。」
やだやだと暴れるハリーを抑え、萎えたハリーのものを力任せに握りしめる。
一人がハリーのシャツを口に当て、叫ぶ声を消しさった。
攻防の末、一人がハリーの足を限界まで広げると、勢いよくハリーの体に穿つ。
「ほら、お前はこういうやつなんだから暴れるな。」
衝撃で声を詰まらせるハリーは動きを止め、ひくひくと体を震わせる。
「あれ?なんだこれプレゼントか?」
いやだいやだというハリーは、身勝手な抽挿にただ体を震わせる。
生徒の声にハリーは顔を上げてダメと必死に首を振った。
リボンを解かれ、中から新品の手袋が出てくると生徒らはもしかしてと嗤う。
カードはありきたりのクリスマスの言葉だけ。名前は書いてなかった。
「これ例の彼氏へのクリスマスプレゼントか?」
「へぇ俺たちと同じくらいか、最終学年くらいか…」
「もしかして、彼氏に振られて傷心のあまり帰省とか?」
最後の言葉に、ハリーは顔を強ばらせる。
『違う‥先生は誤解してるだけ。振られてなんか…ない。』
『「二度と娼婦のまねごとをしないように。また見かけた際は退学とする」』
あの時、まともに聞こえていなかったハリーの心に、スネイプの冷たい言葉が刺さる。
記憶の世界に無数の亀裂が走る。
『違う違う、先生は。』
「どうせお前の彼氏も、お前の体目当てだったんじゃないのか?」
「あぁそれでか。初めから感じやすすぎると思ったんだよ。お前が彼氏だと思ってるやつは、ただ単に、無料で足を開く便利な道具としてしかお前を見てなかったんだ。」
『違う。』
「どうせ一度だって好きだとか愛してるとか言われたことないんだろ。」
ぱん、という音とものに世界がハリーを残して砕け散る。
遠くで生徒らの図星だったのかと笑う声と穿つ音、反射的にあえぐハリーの声。
それがうっすらと聞こえる。
『先生は一度も言ってくれなかった。そうだよ、先生は僕が嫌いだったんだから。先生にとって僕は嫌いで…自分の都合のいいように僕を変えて…。』
ハリーの世界が壊れていく。
『違う違う、先生はそんな人じゃない。自分に不器用で優しくて…。』
『でもあの目は…。全部僕のせいなんだ…。』
ハリーのつぶやきとともに記憶の再生が終わる。
黙ってみていたスネイプはがくりと膝をついた。
あの時の自分を思うがままに痛みつけ、殺してしまいたいと、うちの中で暴れる感情に立ち上がることができない。
“愛してる”なんて言葉はどうしても直前で止まり、あふれた感情をハリーの唇を奪うことでそこから直接与えたつもりになっていた。
だけどハリーは初心で、そんな抽象的なものを感じ取れるほど経験を積んでいない。
だから、一度でもいいから伝えていれば…。
涙なんてものはリリーが死んだと聞いたあの日以来、何かに蓋にされたように溢れ出ることはなかった。
今もまた、同じくらいに苦しいのに溢れてはこない。
息ができないというあの苦しさはわかっているつもりだったのに。
それをハリーに与えてしまった。
ハリーに同じ苦しみをさせてしまった。
ふらりと立ち上がり、寝室の扉を開く。
痩せてぼろぼろのハリーを視界に入れ…起きてしまうことも構わず強く抱きしめた。
今、こうして腕の中にいることが奇跡だと腕の力を緩め、今度はまるでガラス細工を抱きしめるように優しく包み込んだ。
「泣いているんですか?」
胸の中から聞こえる声にスネイプはただ黙ってハリーを包み込み続ける。
ぎこちなく背中に腕を回すハリーをまた強く抱きしめた。
言葉にするのが苦手で、どうしても消えてしまうたった一つの言葉を何度も何度も心の中でつぶやき続ける。
キスもいらない。
何もいらない。
ただ、ただ胸の中にいることだけをかみしめ、体だけでなく、口づけだけでなく、溢れる思いを…ただ感じ取ってほしいというのは怠惰だろうか、と抱きしめる。
ふと、なんでという小さな声とともに胸元に熱いものが触れて、徐々に広がり、端から冷えていく。
涙が止まらないハリーの頭を撫で、泣きやすいように肩口に顔を埋めさせる。
あふれる涙と背中に回された腕の力に、スネイプは願いが通じたのだとハリーの薄くて頼りない肩に顔を乗せた。
愚かな大人のせいでボロボロになったハリー。
その穴埋めになるのであれば自分の魂をいくらでも注ぎ込んでやると、スネイプは目を閉じた。
|