砕けたパズル
--------------------------------------------
光に目を焼かれていたスネイプだが、徐々に戻った視野に眠ったハリーをみつけて、強く抱きしめた。
額縁には自分とハリーが映った写真の絵が一枚はめ込まれている。
魔法をかけ、自分以外には絵柄が分からないようにすると戸棚の奥へとしまい込む。
これは…ハリーの心は誰に見せるわけにもいかない。たとえダンブルドアであっても、見せたくはなかった。
覆いかぶさるようにハリーを抱きしめると、ハリーの瞼が震えて何度か目を瞬かせた。
「あれ…なんで先生の部屋に…。」
澄んだ緑色の瞳をぱちぱちと瞬かせ、覆いかぶさるスネイプを見上げる。
きょとんとするハリーの唇を塞ぎ、衝動のままにハリーの顔に口づけを落としていく。
何が起きたかわからない様子のハリーは抱きしめ返そうとして顔をしかめた。
「どうしたのかね?」
「なんかすっごく体がだるくて…。えっと‥先生痩せました?」
体が言うことを聞いてくれないと眉をしかめるハリーはのぞき込むスネイプをみて首をかしげる。
「覚えていないのかね?」
正直どこまで消えたかわからず、ハリーの髪を撫でながら問いかければハリーはうーんという。
身体をずらし、傍らに肘をついて見下ろせばハリーは言うことを聞かない体を叱咤しながら寝返りを打ち、スネイプに向き合う。
「すごく長い夢を見ていた気がするんだけど…そうだ!クィディッチ!先生、僕がスニッチを握ったあと強い衝撃があって…グリフィンドールは勝ったんですか!?」
すべての発端となったあの日のことを問うハリーにスネイプはそっと額に口づける。
「もちろん、苦々しいことにグリフィンドールが勝ったようだ。」
「苦々しいって…そこはよく取ったってほめるところじゃないんですか。」
「あぁ、そうだったな。」
むくれるハリーに、スネイプは胸が熱くなり、ハリーをかき抱いた。
戸惑うハリーはなんか変なの、とくすくすと笑う。
「無事に目を覚まして本当によかった。」
抱きしめるスネイプのこぼした言葉にハリーはえ、と顔を上げた。
そういえばその後の記憶がなく、おまけにスネイプは土日に会えなかっただけというのに、見るからにやせてしまっている。
「打ち所が悪かったのだ。試合終了直後に…ぶつかった選手の親友と、選手自身の呪いで吹っ飛ばされ、大分流血したと聞いている。手を尽くしたのだが、全く目を覚まさず…このまま消えてしまうのではと…。」
大けがを負ったのだというスネイプにハリーは疑問しかない。
どんなに考えてもあの衝撃しか思い出すことができない。
だからきっとあれが呪いだったのだろうと何か引っかかるものを感じながらこくりと頷いた。
「今日って何日ですか?」
スネイプがこれほど痩せて心配したというのだからきっと長い間眠っていたのだろうと、ハリーは首を巡らせる。
スネイプの部屋は相変わらず物がないせいで今日がいつかなど分からない。
「今日は1月6日だ。」
1日にハリーを見つけ、翌日から篭っていた。
そして3日半日がたって…6日になったばかりだった。
そんなに長い間?と目を見開くハリーにスネイプは黙って抱きしめる。
本当によかったというスネイプに、ハリーはあまりにも長い間の記憶がないせいか、いまいち時間の流れを実感できず、首を傾げたあとその消えた空白をわきに置くこととした。
1月6日であるということによかったとほほ笑む。
「まだ7日じゃなくてよかった…。でも…せっかく初めてのクリスマスだったのに…それに先生の誕生日にもプレゼントを用意できなかったなんて…。」
ほほ笑んだ後、落ち込む姿にスネイプは再びハリーを抱きしめる。
あの手袋はまだあの引き出しに残されている。
だが、ハリーはまだ用意していなかったらしい。
あれはダンブルドアに頼んで彼の手で処分してもらおうと、うつむいたハリーの顎を救い上げ、口づける。
「今更誕生日など。」
「11歳の誕生日をハグリッドが祝ってくれた時すごくうれしくて…だから先生の誕生日もお祝いしたいなって…。先生はあまりそういうの好きじゃないのかな…。」
いい年して待ち遠しいわけではないというスネイプにハリーはしゅんとして、上目遣いで見上げる。
ずっと祝ってもらえなかったハリーが祝ってもらって…祝ってもらえることの喜びを知ったからこそ、スネイプにもという。
どこまでこの恋人は自分を好いているのか…思わず目頭が熱くなり、深く口づける。
何度も何度も角度を変えて繰り返すのにハリーもまた嬉しそうに笑って一生懸命スネイプの施す口づけに答える。
「ここにいる…目を覚ましてくれたこと以上に今欲しいものなど何もない。だから…一番に祝ってほしい。それだけで十分だ。いったいどれだけ心配したと思っているのかね?」
生きて目を覚ましてくれたこと以上のプレゼントはないと、続けるスネイプにハリーは目を見開いてうん、と大きく頷いた。
「先生、絶対最初にお祝いの言葉言わせてね。」
笑うハリーはそういって触れるだけの口づけを交わす。
「愛してる。」
唇が離れた隙に、零れ落ちる様に囁けば、ハリーは顔を真っ赤に染めて嬉しそうにはにかむ様な笑顔を見せる。
「僕も先生のこと、愛してます。」
ハリーの世界のパズルがかちりと、固定される音が聞こえた気がして…スネイプは誓うように唇を触れ合わせた。
もう二度と、ハリーの完成されたパズルを、ハリーが自分と居ることで笑顔になるあの絵柄を、バラバラにすることはさせないとスネイプは自分だけが覚えているあの時間を心に刻み、奥底へとしまい込む。
今はこの掌中の珠を二度と落とさないよう、抱きしめた。
―FIN
|