砕けたパズル

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 ハリーを好き勝手凌辱した生徒にも当然殺意がわき、どうにもできないと分かっていても杖を握る手が震えるほど力が入る。
そしてあの時、勘違いして去ったあと、ハリーは自分が来ていたことを知ったのだと、あの当時の自分を今すぐ殺してやりたいと顔を覆った。
 まだ記憶は流れていたが、その内容はスネイプの心を容赦なくえぐっていく。
避けられていることにハリーは焦り、その狼狽えぶりは親友二人にも心配されているほどだ。
ふと、今まで見てきた画像と明らかに違うことにスネイプは気が付いた。
端々がまるで古いビデオテープを無理やり動かしたようにぶれて、揺らいで、ところどころ欠けている。
ハリーが焦れば焦るほど…無理やり抱かれれば抱かれるほど音もぶれてスネイプの耳を打つ。
特にハリーの顔がどんどん不鮮明になってきて、ハリーの記憶だというのに見る影もない。
 
  大部分が出来上がったパズルを見ると、そういうことかといつの間にか消えた画像にため息がこぼれる。ハリーの心がもうこの時から壊れ始めていたのだ。
 次のピースに手を伸ばす勇気がない。
間違いなく次まとめたあとに見えるのはあの朝と…列車の記憶だ。

 部屋を後にし、リビングに行くと寝かせたハリーを見下ろす。
幻を取ったところで彼の体には変化は起きない。
満腹感だけだ。
現実世界のため、疲労回復と栄養とをいっぺんに賄う魔法薬を抱き起した口に当て、飲ませる。
自分もまた服用すると、ハリーのやせた頬を撫でつけた。
ハリーは一人で戦っていた。
なのに…突き放してしまった。
 背後が崖と知らず、その縋る手を振りほどき、立ち去ってしまった。
知らなかったからと言って罪が消えるわけではない。
それどころか、より重罪に思える。

 さらりと指をくすぐる髪にそっと口づけた。
残された猶予は現実にして2日。それしかない。
延ばすこともできるが、管理が難しくなってしまう。
 
 ハリーを起こすために柔らかく口づける。
ふるりと瞼を震わせて目を覚ましたハリーに軽く唇を合わせ、唇が触れたままおはようと声をかけた。
 目を覚ましたハリーは自分がずっと眠ってばかりなことに体を小さくし、ごめんなさいと座りなおした。
「それだけ体が疲弊しているのだ。魔法使いの中には万全になるまで絶対起きないものものいる。それに比べたらほんの数時間だ。」
 額に口づけ、食事にしようと幻の食事をとる。
少しパズルから離れたくて、食後直ぐこもっていたのとは違い、仮初の庭で花に触れるハリーを窓越しに見つめる。
ハリーは花に触れた後、急いで手を抱き込み、花に謝る。その姿が苦しくて、気が付いたらハリーを抱きしめていた。
不思議そうに見つめるハリーの瞼に口づけ、そっと頭を撫でる。
「花はいずれ枯れる。」
 だけど、ハリーは違うのだと、そういう意味を込めて触れるだけの口づけを交わす。
きょとんと眼を瞬かせた後、はかないガラス細工のように軽く微笑みをスネイプに見せる。
ハリーは抜け殻だが、完全に意識が無いわけじゃない。こうしてスネイプに向けて笑みを浮かべることもある。
 “愛している”たったこれだけの言葉を伝えられず、体を預けてきたハリーを強く抱きしめた。


 ハリーを寝かしつけてから再びパズルの前に来ると、大きく息をすって改めて絵を見る。
相変わらず汚れた絵は元の絵がなんであるかを見せない。
ふと、この下にある絵は何だろうかと興味を覚え、濡れた布を呼び出しぬぐってみる。
良くも悪くも変化が無いことを確認し、ペンキ汚れのための魔法薬を呼び出した。
だがそれでもきれいにはならない。
このパズルはハリーの心。
少し考えるスネイプは傷薬を手に取り、それでぬぐってみた。
「やはりこれは心の傷か…。」
 明らかに色の変わった絵に下の絵を傷めないよう、全体的に軽くぬぐう。
すべて落とせたわけではないが、全体の絵がおおよそわかるまでになるとそれは人間の絵だった。
いや、その対象の写真と言った方が正しいか。額縁に入った人の写真。
顔の部分に大きなひびが入り粉々になったガラスとともに散らばった…そんな絵。
 まだ組みあがってない箇所はちょうど顔の部分で、そしてもう一人背の低い姿がその腕に抱きこまれている。
だがその顔も抜けていて出来上がってはいない。
なんの絵だなんてとぼけるのもばかばかしい絵に、綺麗にしなければよかったと後悔の念が押し寄せる。
逃げ出したくなるのを叱咤し、どうにかパズルに手を伸ばすとぱちりとはめ込んだ。






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