砕けたパズル

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 身じろぐ気配に目を覚ませば、まだ少し眠たげな翡翠の瞳がこちらを見る。
うっすらと開いた口を塞ぐように口づければ翡翠は閉じられ、甘えるように何度も合わせられる。
優しく抱きしめるスネイプはトロンと目をふやけさせた瞳にそっと微笑み、おはようともう一度唇を合わせる。
「やはりまだ体調が戻っていないようだな。無理をさせてすまない。」
 まだ半分覚醒していないハリーの頬に口づけ、そっと細い体をなでる。
そこでやっと目が覚めたらしいハリーは混乱したように身じろぎ、スネイプもまた服を脱いでいることに気が付いたのか、かぁっと頬を赤らめた。
「もう少し体調が戻った時…改めて堪能させていただこう。今は体調を戻すことに専念したまえ。」
 優しく抱きしめ、囁けばハリーはあたふたした後、小さな声でごめんなさいと謝罪を口にする。
謝ってほしいわけでもないスネイプだが、体を差し出そうとして眠ってしまったという事実を作れば、いくらなんでも体を休めることに専念するだろうと見込んでのこと。
謝る必要はないと、そういって起き上がった。
あれだけ大切にしていた手袋をはめていないことにハリーは気が付かない。
もとより、正気ではないのだ。
いったい何を心に思っているのか…それはわからなかった。

 朝食をとった後、ハリーには回復薬だと言って魔法薬を飲ませ、眠らせる。
 とにかく今は食べて、眠って…体を休ませてほしいと、ソファーに横たえて毛布を掛ける。


 幾日が経過したのか、現実の時間を確認するスネイプが根を詰めたおかげでパズルはいくつかの塊ができていた。
それらをつなぎ合わせても、まるで絵の上にいろいろなペンキを塗りたくったようなパズルは相変わらず絵が分からない。
記憶の映像の時系列が時折前後するのは小さな塊をいくつも分けて組み立てているせいだ。

 塊を組み合わせればかちりとくっついたパズルが発光し、スネイプは顔を上げた。
ハリーとロン=ウィーズリーが肩を並べて雑誌を読んでいる。
ハリーは見ながらそっと自分の手を自分の手で包み込んだ。
そして手の甲をなぞるとこれぐらいかな、とサイズをメモする。
 雑誌には作業用手袋の写真がいくつものっていた。
 薬草を摘むときにも最適、どんなに冷たいアッシュワインダーの卵でも問題なく、火中の栗を拾うを拾うことも可能。
 森に薬草を取りに行ったり、温度管理の難しいものを触っている自分のための、作業用の手袋。

「この手袋、サイズどうするんだい?」
「えっと…たぶん…このサイズでいいと思う。ちょっとロンの手貸して。うん、やっぱりこのサイズだ。」
「でもよかったなギリギリ間に合って。明日締め切りだろ?」
「うん。ちょっとね、臨時収入ってやつがあったから。」
「あぁハグリッドの手伝いか。にしても地道に集めるなんて…でもこれ買ったらしばらくお金ないんじゃないのかい?その…それに入っているのはダメなんだろう?誰か先生に相談して解除してもらった方がいいぜ?」
 二人の会話にあの日の記憶が思い出される。
 そうだ、あの時あの二人とすれ違った。
 もっとも重要な分岐点にどくりと心臓が跳ね上がる。
「うん…もう少ししたら相談するよ。じゃあちょっとフクロウ小屋に行ってくるよ。」
 顔を暗くするハリーにロンは慌ててまぁいざとなったら少しだけど頼ってくれよ、と言って二人は別れた。

 ハリーは急ぎ足でフクロウ小屋に向かい、たどり着く前にやって来た自分の雪フクロウにお金と注文書を渡して飛ばす。
ウキウキとした様子のハリーだったが、城に戻るや否や肩と腰にあの二人の生徒の手がかかり、ハリーの顔から怯えの色が見える。
 あの人気のない、あまり使われていない教室に引かれていき、乱暴に蹴り倒される。
「ここはそうそう人なんて来ないさ。さぁ早く脱げよ。汚したくないだろ?」
「それとも、お前の彼氏呼んできて一緒に楽しんだ方がいいか?」
 床に倒れたハリーに二人は脱げと命令し、ハリーは震える手で制服を自分ではだけた。
遅いと言って押し倒し、乱暴に前をはだけてズボンを中ほどまで脱がせる。
「どうせ汚れたっていいか。どうせお前は俺たちの手垢でベッタベタに汚れた、淫乱な娼婦だもんな。」
 あざ笑う男子生徒が乱暴にハリーのものをしごき上げ、反射的に体を守るためににじみ出たものを掬い取り、後ろをおざなりにほぐして、突き入れる。
 悲鳴を上げそうになるハリーだが、その口はすでにもう一人の生徒のものが塞いでいて、ボロボロと涙を流すだけにとどまった。
「ほら、お前はこんな風に扱われても勃つし、全然切れもしないじゃないか。」
「本当はもっと激しく犯してほしいんだろ?」
 好き勝手動く二人に細い体はおもちゃのように翻弄され、あちこちにぶつける。
『先生に知られたら…きっと軽蔑する…。こんな汚い体…。こんな浅ましくていやらしくて…』
 入れ替わり立ち代わり、二人が満足するとこれしかないと言って倒れたハリーに銅貨と銀貨を投げつける。
 息も絶え絶えであちこちに擦り傷と打ち身を作ったハリーはどうにか起き上がると、視界に入る銅貨と銀貨をとって袋に入れた。

『先生…助けて…助けて…。』
 袋を抱きしめてボロボロと涙をこぼすハリーははっと顔を上げて振り向いた。
一瞬黒い布が翻った気がして、ハリーは立ち上がろうとして全身を襲う痛みにうずくまる。
『今の先生?違うよね。先生じゃないよね。どうしよう、どうしよう…こんなところに来るはずない…。』
 カタカタと震えるハリーは制服に清めの呪文をかけると、よろよろと起き上がって、廊下を見つめる。
ふと、何かに気が付いたのか、何かを屈んで拾い上げた。
『どうして先生…。』
 魔法薬でよく使う見慣れた切片にハリーは座り込んだ。






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