砕けたパズル

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 いろいろ準備があるとダンブルドアが戻り、スネイプは再びハリーの傍らへと座る。
抱きしめてハリーがここにいるという実感を得たいが負担もかけたくない。
 額に口づけ、スツールを背もたれのある椅子に変えて異変があればすぐ起きれるように仮眠をとった。
 朝になり、目を覚ましたスネイプはハリーがまだ眠っていることにほっと息を吐いた。
 スープを用意してメモを残すとハリーが消えないよう厳重に施錠魔法をかけてホグワーツへと戻る。

 朝早くにもかかわらず待って居たダンブルドアは小さな、庭付きの典型的なイギリス中階級層の家の模型を差し出した。
 模型の庭に水晶があり、怪しく光を放つ。
水晶の台にはダイヤルが付いており、今は1のところに4の数字が合わせられていた。
 そうか、とスネイプはすぐに合点し、ダンブルドアを見る。
頷くダンブルドアは思案の箱庭というと水晶に触れるよう促した。
 
 光とともに中へ入るスネイプとダンブルドアは模型が原寸大となりごく普通の家になった玄関に立っていた。
「この世界はまやかしの世界じゃ。ここでは睡眠も食事も、何もかもが思うがままじゃ。じゃが、それはすべて幻。この世界の時間そのものが歪められておる。」
「入る際のダイヤル…あれが現実の1日をここで何日にするか…そういうことですな。」
 今は1日が4日…つまりは現実で6時間たつ頃に一日が終わる。そういう計算だという。
「期間はそうじゃの…この冬休みが終わるまで…幸い土日があるため今年は少し長い。そうじゃの、5日…これが限度じゃ。じゃが、現実との時間差を長くすればするほど戻った際の反動があるじゃろう。こちらでの1日が終わるころに魔法薬を飲むなどが必要じゃろうから持っていくといい。」
 どの程度に調整するかは任せる、そういうダンブルドアは魔法薬を作る場合にと材料はある程度用意したと、部屋に案内をする。

 外から持ち込んだものだけは現実だが、といつの間にか手にしたキャンディーを食べるダンブルドアはこれは幻じゃ、という。
「もちろん食べれば空腹は満たされ、寝れば疲れもとれる。じゃが、それらはすべて幻。現実に戻れば現実で過ぎた時間だけ腹は減り疲れもたまる。」
「現実で4日も過ぎる時間を過ごせば当然4日間何も食べない状態になると。確かに、見誤れば危険な代物ですな。」
 大切なのは今が現実でいつなのか、それを忘れないことだと、模型を見る。
魔法薬であればあらかじめ作って持って行くことも、材料さえあればすぐ作れることもあり、食材を大量に持ち込むよりは効率がいい。
 模型を手にしたスネイプに念のためホグワーツ内の私室で使うといいじゃろうと、スネイプの私室と自宅を煙突ネットワークにつないであるとつげる。


 模型を私室に運び、自宅に戻るとカランという音が聞こえて、慌てて部屋へと向かう。
部屋の中では意識を取り戻したらしいハリーがぼろぼろの手袋をはめて、空になったスープ皿を抱えるように眠りについていた。
 外すのに苦労した手袋をそばに置いておいてよかったとほっとするスネイプはハリーを抱きあげ、ホグワーツの私室へと向かいそのまま模型の世界へと入っていった。
 
 ふかふかの寝台に下ろすスネイプはスープで汚れた口元をぬぐい、一度抱きしめてから離れる。
ふとひかれる感覚に視線を下ろせばハリーの手が緩くスネイプのローブを握っていた。
「せん…せ…。」
小さくこぼれた声にスネイプはそっと髪を撫で、額に口づけを落とすと手をほどいた。
パズルの枠に題名を書くための紙があり、じっとハリーを見つめたスネイプはあのクィディッチの試合の日から完成までと書き記した。
付き合い始めからにしてしまおうとも考えたが、先ほどの手に逃げてる場合ではないと枠に紙を納める。
 ばらばらという音ともに箱にピースが現れ、スネイプは静かにハリーのそばを離れて作業部屋とした部屋に向かった。

 パズルを取り出し、広げると机と自分以外の景色が消え、映画でも見るかのように少し離れた場所でピースを一つはめるごとに記憶が再生される。
 あの日何があったのか…それを今のスネイプに突き付けてくるのだった。
ピースははめられた分を見せるように手を止めたスネイプが顔を上げると勝手に進んでいく。
そしてあらかた記憶が再生されるとはまったピースは一つの塊にくっついて離れなくなる。
これを繰り返すのかと、色が定まらない抽象画のような色のピースをぱちりとはめていった。





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