砕けたパズル
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ハリーがお金を一切持っていないことを知ったのは先日のことだった。
事が事のため、帰省しているスリザリンの生徒の家を訪ねていたがずっと留守でようやく戻ってきた時…知ってしまったのだ。
ハリーの最後の目撃情報を。
あまりの仕打ちに両親がこの生徒を殺すのではないかと危惧するほどの怒りと悲しみに同情する余地もなく、思い出しただけでも…かつて行われていた非道の尋問を、あの頃はできなかったそれを彼に与えて原形すら…いや骨一片すら残したくない衝動に駆られる。
彼らは最後尾で寝ているハリーをたまたま見つけたのだという。
そこで何人かに声をかけ、思うがままに嬲ったのだと。
今までならいつもの脅しや硬貨をちらつかせれば大人しく体を開いたのに、その時はひどく抵抗したらしい。
スネイプにすべてを打ち明けるつもりだったハリーはその程度じゃ屈しなかったのだろう。
必死に助けを求めていたであろうハリーを思い浮かべて…その次に続けられた事実に言葉を失った。
彼らはトランクを開けることはしなかったのだが、その上に置かれた緑色のプレゼントには手を伸ばしたのだという。
トランクの外ポケットに入れていたあの青い袋も見つけて取引をしたと。
いわく、このプレゼントが欲しければこの青い袋で買えと。いらないなら俺たちが貰ってやると。
ハリーはひどく狼狽えて…プレゼントを受け取ったらしい。
駅に着くまで延々と嬲り続けて縄をほどいた後、彼は放心したかのように乱れた服のまま虚空をみつめていた…それが最後の目撃情報だった。
たった一つの持ち物、緑の袋だけを抱えてハリーはその場を立ち去ったのだろう。
彼の処遇についてはすでにホグワーツ内で隔離している生徒たちの中に放り込むだけで、その両親には厳重に戒厳令が敷かれた。
彼らもまた息子がそんなことをしたことをいうつもりはなく、ひどく落胆した様子で処遇は任せると言っていた。
とうとう年を越した日の光にはっと顔を上げたスネイプは最近ではほとんど感じられない光を探そうと目をつぶる。
あれほど頼りにしていた勘も焦りと失望感で鈍り切ってしまった。
ふいにどこからか百合のにおいが香った気がして目を開く。
狭い路地の入口にクリスマスの飾りに使われたのか百合の造花が一つ落ちていた。
においがするはずのない造花の香り。今その匂いはない。
これが最後の道しるべだ、とスネイプはその狭い路地へと進んでいった。
ふいに今までにないほどこの先だという思いが強くなり、それと同時に今見つけなければもう導きはないだろうと焦燥感に背中を押される。
今にも消えそうな最後の瞬きを見せる光を見つけたのは、その時だった。
やっとみつけた、と頼りないほど細い体を抱きしめる。
スピナーズエンドの自宅へと戻り、ぐったりしたハリーを魔法でなく自らの手で清める。
けがはどの程度か、体に異常はないか。
一度も目を覚まさず目をつぶったままのハリーは何日も食べていないのか、やせ細ってしまっていた。痩せた体は特にけがもなく、見かけは無事だ。
ただ、お金がないゆえにこれまでどう過ごしてきたのか…隅々まで清めたスネイプにはわかっていた。
清めた体をシャツで包み、魔法で乾かした髪をなでる。
すぐにでもホグワーツに連れていきたいが今のハリーを誰の目にも止めさせたくなかった。
梟を飛ばし、回復薬をハリーに飲ませる。
片時も離れたくなくてスネイプは眠り続けるハリーの隣で静かに見つめていた。
玄関先で物音が聞こえ、杖で開けるとほどなくしてダンブルドアが顔を出した。
スネイプとその傍らでわずかにのぞく黒髪にハリーが見つかったことに微笑んで、中に入らずかわりにスネイプをよびよせた。
「詳しい話は少し落ち着いてからにしよう。今回に件について大規模な記憶修正が彼のためにも必要とわしは考えた。本来の使い道とは異なるのじゃが…これが最適と考えておる。」
そう言ってダンブルドアが取り出したのはパズルの箱だった。
開けられた箱にはピースはなく枠だけが入っている。
明らかに普通ではない気配にスネイプは眉を寄せた。
「これはの、記憶のパズルと言って対象者の記憶をピースとして使用する呪いの道具じゃ。対象者の記憶をペンシーブで見るように体験し、完成させる。完成された記憶はパズルを組み立てたもの以外の関わった者たちの記憶からも封じられる…。強力な呪いじゃ。だが、記憶を修正しただけでは済まされないうえ、どこまで追い切れるか…今回のように不特定多数の記憶修正には効果的じゃろう。もちろん、今回にかかわった主犯格の生徒には別の記憶と罰で退学を言い渡すつもりじゃ。」
呪いを使い修正するというダンブルドアにスネイプは迷いなくその箱を受け取る。
一歩間違えればその人の存在そのものを人々の中から消してしまう危険な呪いだが、ハリーの負担にならないのであればなんでもいいと、眠り続けるハリーを見つめた。
ハリーには言えない秘密が増える、ただそれだけだ。
「それと、これは時間がかかる上にセブルス、おぬしにもかなりの負担がかかるじゃろう。場所を別に用意しよう。明日、わしの部屋に来てほしい。少し心配じゃろうが、ハリーは寝かせたままにしておくのじゃよ。暖炉はつなげておく。」
今日は休むのじゃ、とそういうダンブルドアは本当に見つかってよかったとほっと息をついた。
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