砕けたパズル

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「今思い返せばあのレイブンクローとの試合以降様子がおかしくなっていましたな…」
 日に日に痩せていく体。
それでも、週末の逢瀬では終わった後とても幸せそうに安心した顔で眠っていた。
あれが安らぎであったのであれば、突き放して会わないようにしている間に憔悴しきっていたのは…ほかならぬ自分のせいだ、とこぶしを握り締めた。

 ハリーと付き合いだしたこと、週末に会っていたこと、だんだんと会う間隔が広がったこと、そして…。
「ハリーはスリザリンとレイブンクローの上級生とおそらく金品を取り入れた…いわゆる売春を行っていたようです。」
 はっと息をのむマクゴナガルと、冷静に聞くダンブルドアにあの光景を思い出す。
投げつけられたように散らばった硬貨と、うつむいた後ろ姿。
「そして今朝。ハリーは私にプレゼントを持ってきましたが…。」
「なるほど。しかしどうやら合意の上ではなかったようじゃな。」
 先が続けず、言葉を詰まらせるスネイプをダンブルドアはもうよい、と押しとどめる。
問い詰めればよかった。
何をしているとあの時声をかければよかった。
手段を選ばず聞き出せばよかった。

 追い詰められたハリーを突き放し、背を向けた。
 そして…振り向いたそこにはただ、誰もいない崖が広がっていた。
「スリザリンの生徒は今日…ハリーと同じ列車に乗っております。レイブンクローの生徒は…昼にすれ違いましたので、今もいるでしょう。」
 今回のとどめを刺したのはスリザリン生徒で間違いはないだろう。
とにかく、ハリーの行方を探すと同時に何があったのかを聞き出しましょう、とマクゴナガルは言い、後悔と自責で動けないスネイプにハリーを探してください、とかつての生徒の肩をたたく。
「セブルス、後悔はすべてが明らかになり、ハリーを無事見つけてからにするのじゃ。」
「私は…また…私のせいで」
 左腕を強く握りしめるスネイプの肩にダンブルドアはそっと手を置いた。
下手な慰めはできない。するつもりもない。
「今回はまだ間に合う。彼が今どうしているかわからないが、おそらく猶予は10日。いや、雪が今よりも降ればもっと早いかもしれん。足を止めている場合ではないぞ。とにかく、動くのじゃ。」
 魔法での捜索が困難である今、とにかく探すしかない。
ダンブルドアの言葉にはっとするスネイプは一つ頷いてその場を後にした。


 散らかったハリーのベッドを片付けたハーマイオニーとロンを呼び出し、整頓したトランクの中身と部屋とでなくなったものはないかと尋ねる。
「たぶん…プレゼントの袋と、ねぇロン、ハリーの持ってた青い袋、あれもないわよね?」
「え?あ、ほんとだ。ないかな。」
 腕を組み、余裕のない顔のスネイプにハーマイオニーとロンは少し怖気づきつつもなくなったものをいう。
「青い袋…硬貨の入った袋かね?」
「えぇっとはい。でも…ハリーがあれは使ってはいけない呪いのかかった硬貨だからって…。」
「プレゼント買う時もお金足りないって言いながら、このお金はダメだっていってたから…グリンゴッツに両替してもらうためかな。」
 うつむいた背中で硬貨を拾う姿を思い出す。
二人の言葉でスネイプは目を見張った。
ではあのプレゼントは…。
「足りないといっていたのであればなぜ購入できたのかね?」
 ハリーはあの硬貨が穢れていると認識していた。
 そんなお金でのプレゼントなんて考えてもなかったというのだ。
 最後の聞き取れなかった言葉は、違うと言っていた言葉は…。
 言いよどむロンをハーマイオニーは仕方ないわ、と話すように促した。
「前に足りないって言っていたのをハグリッドが聞いていました。困っているハリーに魔法生物にあげるためのクルミを割るのを手伝ってくれれば少し駄賃を渡そうって…。でっでもハグリッドはハリーのためにと手伝いをお願いしたのであって、その…」
 言いよどむのはハグリッドの件を話さねばならないからか、とロンの言葉からわかるスネイプはあの時聞こえた二人の会話を思い出す。
 ハグリッドがクルミを割るのに手伝いなんて必要ないだろう。
本当にハリーのために善意で…貸すのではなく、プレゼントの費用に困るハリーを助けるために彼ができることを提案したのだろう。

 それなのに…あのうつむいた細い肩にかっとなって勘違いをしてしまった。
冷静に考えればすでに資金がたまったかのような会話のあと、また体を売らなくてもよかったはずと気が付くだろうに。
考えもしなかった。
 早く、あの細くて頼りない、今にも折れそうな痩躯を抱きしめたくて、握りしめて爪が食い込んだ手のひらをじっと見つめていた。







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