砕けたパズル

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 夕刻近くなり、グリフィンドールから何やらざわついた囁きに思わずスネイプは足を止めた。
「あぁセブルス、ポッターを…ポッターを見ませんでしたか?」
 慌てた様子のマクゴナガルに声をかけられたスネイプは朝あった後は見ていないと告げ、何があったのかとマクゴナガルとともにいるハリーの親友らを見る。
「どうしよう…杖を持たずにカバンもって出ていったっきり…。」
「ひどく取り乱した様子だったから置いていったんだわ。」
 心配気に顔を見合わせる二人に嫌な予感が頭をよぎる。
そこへ見慣れないフクロウがマクゴナガルに手紙を落としていった。
なんでしょうと広げたマクゴナガルは手紙の内容に目を見張り、ひどく取り乱した様子でこれを、と目の前にいるスネイプへと渡す。
 手紙はホグワーツ特急からだ。持ち主不明のトランクがあるという。
トランクにはH・Pのイニシャルがあり、それが見つかったコンパートメントは明らかに普通の様子ではないことが記されていた。

 ドクンと、嫌な音が鳴る。
 ふいに違うと首を振るハリーを思い出し、手が震える。
「すぐに確認に行かなくてはなりません。」
「私も同行しましょう。いや、行かせてほしい。」
 青ざめたマクゴナガルは留守をスネイプにお願いしようとするが、それをスネイプはついていくという。
 これまで数多くしてきた後悔がいっぺんに襲ってきたかのように、苦痛で顔を歪ませるスネイプにハーマイオニーがもしかして、と口を開いた。
「ハリーが言っていた、年上の好きな人って…スネイプ先生ですか?」
 唐突な言葉に否定できる余裕もなく、かといって信じなかったこともあり、ただ小さく頷くことで示すしかなかった。
 驚いたのはマクゴナガルとロンで、ロンに至ってはしきりにハーマイオニーとスネイプを見比べてどういうこと?と目を白黒させている。
 マクゴナガルはその件については後にしましょうとため息をつき、いつの間にか近くに来ていたダンブルドアに視線を移す。
 視線をうけたダンブルドアは一つ頷いて二人に行ってきてほしいと告げた。
「セブルス、後悔は後じゃ。今動かねば取り返しのつかないことになるじゃろう。」
 こわばったままのスネイプの肩に手を置き、促すように告げればようやく強ばりは解かれスネイプとマクゴナガルはホグワーツ特急のまつキングクロス駅へと向かった。


 停車している列車に乗り込み、最後尾に行くと換気されてもなお漂う青臭いにおい。白い汚れに落ちた血の滲んだ縄が何が起きたかを語る。
 必死に抵抗したのか、カーテンの一部が破れ、コンパートメントは荒れ果てていた。
生徒らは帰宅すれば魔法は使えない。使ってはならない。
 だからキレイにされることもなかった。
トランクは開けられた様子はなく、ただ荷造りの際にパニックになっていたのか、中身は支離滅裂で、ぐちゃぐちゃに詰め込まされている。
 透明マントがその上にきちんと畳まれて入っていたことから、その状況は察せられた。

 透明マントには一枚メモが挟まっており、広げればハリーが記した今後の予定が涙の痕ともに書かれていた。
“グリンゴッツでお金を下ろしてもう一度買いなおす。こっそり戻って、今度こそ先生に全部話す。助けてと素直に言う。杖、忘れちゃったなんて怒られそう。”
 決意ともとれるメモは金庫のカギとともに置き去りにされ、書いた主はいない。
「降りる乗客の中で不審な生徒はいませんでした。」
 誰かがハリーを連れ去ったことはない、という駅員にハリーは立って歩いて去っていたと推測される。

 それが一番怖い。

 荷物を置いて、杖を持っていない事を知ってなお、ただ去っていった。
どう考えても正気の沙汰とは思えない。

 処理を任せ、置き去りにされたトランクとともにホグワーツに戻ると、帰りを待っていたダンブルドアからさらに追い打ちをかけられる。
 ハリーの気配が弱すぎるのか、それとも制御できない状態で起きた無意識による位置探査系の魔法の無効化のせいなのか、ハリーの足取りがわからないのだという。
「何か変わったことはなかったかね?」
 今回の…誰かに無理矢理襲われたことについて、聞いていないかというダンブルドアにスネイプはじっと考え込む。
抵抗していた。
手を封じられていた。
助けてと書かれていた。
ならばあの時見た光景は…うつむいて顔の見えなかったあの時のハリーは。
強ばる顔や一瞬緊張する体…。
弱弱しくすがるようなあの目は…。
 ばらばらに砕けたピースがひとつ、形になる。






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