砕けたパズル

--------------------------------------------




 朝からフクロウがせわしないことに、ここ最近日にちの感覚がなくなっていたスネイプはクリスマスであることに気が付いた。
朝食後急用などで遅れて帰る生徒らの荷物を横目に地下牢へと戻る。
 そして部屋の前に来たスネイプは自分を呼ぶ声にうんざりしたようにため息をつき、視線を向けた。
 他に生徒のいない廊下に憔悴しきった様子のハリーが緑の袋を手に立っていた。
 すがるような視線に部屋に入れる気はなく、ついてきたまえと教室へと向かう。

 久々にまともに見たハリーは痩せて、今にも壊れそうな、そんな風に見える。
「何の用かね?」
「あ、あの…これクリスマスにって…。あの…ずっと言えなかったんですけど‥‥その…。」
 差し出された袋はちょうど手袋が入る大きさだった。
受け取る気もなく、腕を組んだままのスネイプにハリーは弱り切った眼をゆがめ、何度も唇をかむ。

「あ、の…実は「セックスにはまり、我輩だけじゃ満足できずに上級生に硬貨と引き換えに抱いてもらっていました、かね?」っ!」
 声を遮り、冷たく告げるスネイプにハリーの顔色がまともに変わる。
 真っ白な顔でなんで、と震える唇で呟く。
「あの、先生、「その金で購入したものなど、汚らわしい。そんな薄汚れた手で稼ぎ、握りしめたものなど誰が欲しがるというのだね。」」
 縋るように袋を抱きしめるハリーにぴしゃりと告げれば、翡翠のような瞳から涙があふれ出る。
違うと首を振るうハリーは袋を突き出しながら違うと繰り返した。
その手を袋ごと打ち払うスネイプは、二度と娼婦のまねごとをしないようにまた見かけた際は退学とすると告げ、教室を後にした。

 残されたハリーはのろのろと袋を拾い、違うと繰り返す。
「先生…    」
 教室を後にしたハリーはふらふらとした足取りでどこかへ消えていく。
忌々し気にそれを見て、去ってくスネイプはその頼りない背中を見ることができなくなるとはつゆほどにも思わなかった。



 本格的に降り始めた雪はそれほど積もっていなかった路地をも白く染め、吐く息が白くなる。
隅のほうにみえた黒い塊に、心臓をわしづかみされたような痛みが走り、全身が震えだす。
力なく地面に横たわるぼろぼろの塊のそばで足を止め、膝をつく。
いや、膝から崩れたというべきか。
凍り付いた前髪をかき上げ、ほんのわずかなぬくもりを閉じ込めるように強く抱きしめた。
「ハリー…。」

気絶してなお軽く感じる痩せた体。
泥などで薄汚れた頬。
緩く微笑むように弧を描く唇。

やっと見つけた。







≪Back Next≫
戻る