砕けたパズル
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それから年末に向かっていく中、スネイプは自身の仕事の都合もあって、平日中はハリーを正しく罰則で呼ぶ以外はハリーが来るのに任せて、週末の逢瀬に身体を重ねていた。
年末に向けて風邪をひく生徒が増えてきたこともあり、ほぼ毎日のように薬を作っていたスネイプがふと気が付けばここ2週間ほど週末以外でハリーに会っていない。
授業では顔を合わせているが恋人としてのハリーに会っていない。
さすがにあの年代の子供だ。別の興味があることに目が向いてしまったのかもしれない。
すべてが初めて出会った恋人のことだ、まだそこらは子供の考えなのだろう、と薬を届けにスネイプが地下牢を後にすると声が聞こえて視線を向ける。
そこには何か雑誌を広げるハリーとウィーズリー家6男の姿があり、スネイプはふと来週はクリスマスであることを唐突に思い出した。
俗世に従い恋人とクリスマス、なんてことを考えたこともないスネイプだったが何か用意すればあの恋人はもっと喜ぶかもしれない、とマダムポンフリーの元へと足を進めた。
「この手袋、サイズどうするんだい?」
「えっと…たぶん…このサイズでいいと思う。」
「でもよかったなギリギリ間に合って。」
「うん。ちょっとね、臨時収入ってやつ……」
二人の会話が軽く聞こえ、通り過ぎたことで不明瞭となる。
もしかしたらあの雑誌で今頼んでいるものは…そう考えると機嫌がよくなり、通り過ぎのレイブンクローの上級生が挨拶もせずにすれ違ったことに注意し損ねた。
「あっちにあいついたな。おいお前手持ちいくら持っている。」
「大丈夫足りるって。」
何となく聞こえた会話に肩越しに振り向けばスリザリンの生徒が見え、こそこそ話す二人組はスネイプの来た道をたどるように歩み去っていく。
各寮、利害が一致すればそれなりに友好関係があるだけに特にその組み合わせが引っ掛かったわけではなく、会話に妙な胸騒ぎがして…薬を早く届けてしまおうと歩みを速めた。
薬を届けたついでに今後の方針について相談を持ち掛けられ、いつもより時間がかかってから医務室を出た。
帰り際にハリーのいた場所を見るがすでに二人の姿はない。
ざわりとした予感に任せて歩いていくと遠くのほうで見慣れた赤毛と、グリフィンドールの才女の姿が見える。
だがそこにハリーの姿はない。
二人に尋ねれば教えてくれるかもしれないが、あとでハリーにスネイプが居場所を聞いてきたと伝わってしまう。
あまり使われていない廊下を進むと、戸が開く音がし、スネイプはそっと影に身をひそめる。
見えた姿は先ほどの二人組。
戸の中に向かってまたな、と声をかけ去っていく。
二人が去って開いたままの戸から中をのぞいたスネイプは目の前の光景に呆然と立ち尽くした。
乱れた服、汗ばんだ上気した赤い肌、力なく横になった小柄な体。
あとこそは消されているが、明らかに何があったのかは明白な光景に足が躊躇われる。
ふと、何枚かのクヌートと一枚のシックルが場違いに落ちていることに気が付き、ヒヤリと背筋を何かが伝う。
起き上がった少年は落ちている硬貨を拾い集め、青い袋へと仕舞う。
わずかに聞こえた音にすでにそこには他の硬貨があるらしい音が聞こえた。
うつむいたまま袋を握り締める姿に踵を返し、その場を立ち去る。
すれ違った生徒が慌てて道を譲り、避けていくのをしり目に地下牢へと戻る。
部屋に戻り、鍵を閉め、一人になったスネイプはハリー達の会話と先ほどの光景から、“臨時収入”とは何を示すのか、それがあれならば…と怒りと失望で頭がずきずきと痛む。
いつからハリーは裏切ったのか。いつから始めたのか。
それが許されないことであることを理解しているのか。
ふと、ハリーがいつも座り、甘く啼いて見せるソファーが視界に入る。
いつから…いつからあの子供は自分をあざ笑い、穢れた体で従順な振りで娼婦のまねごとをしていたのか。
杖を振るい、ソファーを消し去る。
ここ最近来ないのは、あぁやって欲求を満たしていたからだろう。
あぁやって金を稼げるほうが有意義だったからだろう。
恋人だから無料で抱かせてやろうというもので、本当は金が欲しかったのかもしれない。
全く持って汚らわしい。
いっそのことハリーと二人過ごした記憶は消し去ってしまおうか、そこまで考えるスネイプは目を閉じ、大きく息を吐いた。
それからは授業中スネイプの氷のような視線にハリーは驚き、大きく失敗するなど散々な結果ばかりを残したが、罰則はレポートだけで、部屋に向かってもいなかったり忙しいと追い払われたり、ハリーは日に日に落ち着きがなくなっていた。
親友二人もそれに気が付くが、ハリーは落ち着かない様子で何でもないと繰り返す。
そしてクリスマスの朝になった。
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