砕けたパズル
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スネイプとの密会は時々罰則と銘打って呼び出される以外では週末の夜にと決めていた。
たわいのない話をして、キスをしてそして寝室に行き、淫らに咲かせられる。
ひと月もするとすっかりハリーの体はスネイプを覚え、スネイプの色で染まっていった。
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何もかもがハリーにとって完成されていて、まるで完成されたパズルを眺めるように、スネイプを思い浮かべては幸せをかみしめていた。
ハーマイオニーのパズルのように望んだ絵が写しだされた至福のパズル。
ばしゃりと、汚したのは黒ではない濁った色。
そんなのもがぶちまけられ踏みにじられるなんて、ハリーには想像もできなかった。
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カタカタと震える手で大事な手袋を握る。
大事なそれはずっとはめたままだからか、擦り切れてぼろぼろだ。
それにも気が付かない様子で手袋をはめた手で自分を抱きしめる。
あぁ、彼の手だ。
抱きしめてくれるのは彼だ。
閉じた目に浮かぶ影にそっとほほ笑む。
どんなに美しいパズルでも、ちゃんと固定できてなければ一瞬で崩れ去る。
散らばったピースを抱きしめるように、自分を抱きしめてふと空を見上げた。
くすんだ建物の壁に囲まれた、汚れたような灰色の空からちらりと見える白いものが舞い落ちる。
ピントの合わないぼやけた視界を埋めていく白い飛来物。
冷たいとかそういう感覚は何もない。
最後にまともな食事にありつけたのはいつだったかぼんやりと考え、ふと手袋に目を移す。
自分にはこれだけあればいいと自分を抱きしめて目を閉じた。
どうせもうこれしかないのだから、とうずくまる。
ぱりん、とまだ残っていたことが不思議な何か心の奥の大切なものが音を立てて崩れた気がして壁に寄りかかった。
急速に体が冷えていく。
薄れゆく意識の中、できればもう一度彼に会いたい気もするが、合わせる顔がないのと…彼とは誰か、わからず体から力が抜けていった。
ダンブルドアの使いで土日を費やしたスネイプは内心で悪態をつきつつホグワーツへと戻ってきた。
土曜はクィディッチの試合だった。
だから木曜日の夜、無理をさせすぎないようにブレーキをかけながら、幼い想い人と交じわい熱を分け合った。
なにやらぼーっとしているなと、声をかけた時の思いもよらぬ一言から発展するはずのない関係が始まった。
柄にもなく舞い上がってしまった。ハリーからそんな告白があるとは思ってもみなかった。
キスだけで蕩ける子供に煽られ、余裕があるふりをして週末の約束をした。
それからの授業では嫌味を言いすぎないようにしつつ、不自然にならないようにしなければならなかった。
後ろを通るたびにちらりと見える細い首筋に、週末にこの白い肌がどれだけ赤く染まるか、想像しただけで喉が鳴りそうになった。
彼は快楽そのものを味わうことさえ初めてで、事前に飲んだ薬がなければめちゃくちゃにしてしまいたいのを抑えられないほどの淫らさで花開いた。
一度知ってしまった花の蜜はあまりにも甘美で、罰則で呼び出し、たわいのない話をしながら口づけ、軽いスキンシップで留まれなかったときは回復薬を飲ませて夜のうちに寮へと戻す。
週末は寝室に連れ込み、思う存分淫らで愛しい花の蜜をむさぼった。
ここまで彼に飢えていたのかと、驚くと同時にこれ以上は彼の負担になると、罰則を減らし今までの関係を維持した。
困惑するような目で見るから、人気のない廊下で彼を待ち伏せ、誰もいない空き教室で不安を払しょくさせるように口づけた。
勘ぐられたくはないだろうといって、これまでの関係を維持することと、ハリーのためにも罰則を減らした旨を伝えれば、彼のまた納得してくれた。
最初の異変に気が付いた時、なぜもっと早くに問い詰めてでも聞かなかったのか。
さびれた裏路地で雪片につられ空を仰ぐ。普段ならばなんとも思わない灰色の空と舞い散る雪片に胸騒ぎがつよくなる。
この雪が少しでも積もる前にあの子を見つけなければ永遠に失ってしまう。
そう確信めいた、痛いくらいの胸騒ぎ。魔法ですら追えないほどの虚弱な気配。
もはや勘としか言えない当てずっぽうな捜索でみつかるか不安しかないが、もうこれしかないのだと、路地の奥を見つめる。
あの時、なぜ話を聞いてやらなかったのか。カッとなって、嫉妬で彼のことを見ていなかった。
裏切られたと、怒りで聞く耳を持たなかった。
払いのけたあの袋に入っていたものはどこに行ったのか。
振り返れば何度も何度もかすかなSOSを出していた。
それを無視したのは…。
ギリっと奥歯から音が聞こえる。
後悔している暇はない。
一刻も早く、彼を抱きしめてあげたかった。
冷たい風がほほをかすめ、路地の中でも特にさびれた細い道をみる。
考えるよりも前に風に導かれるように足を踏み出していた。
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