砕けたパズル

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 ハリーの突然の行動に首をかしげるロンとハーマイオニーは、朝食に向かう道中まだ何やら挙動のおかしいハリーに何があったのかと挟むようにして座った。
「えっと…その…。レポート出して小言を言われて…その帰り道にぼぅっとしていたらその…おっ驚かないでくれるとうれしいんだけど…その…。」
 はぐらかそうとしても両脇の二人の息の合った連携に、とうとう口を開くハリーはスネイプに迷惑だけはかけられないと、必死に考える。
 帰りの話にすればきっと大丈夫、と話し始めようとして、そうだ、大前提を言い忘れた、と顔を赤くしてベーコンを意味なくフォークでつつく。
「なんだよ、俺たちの仲じゃないか。隠し事なんて水臭いじゃないか。」
「そうよ。困ったりしたときはお互い様よ。誰にも言わないでほしいなら言わないから。」
 二人の言葉に背中を押されたハリーは実は、と切り出した。
「ちょっと前からなんだけど…年上の…他寮の…その…同性の人が好きになっちゃって…。」
 同性だからすごく言いにくくて黙っててごめん、とすっかり穴だらけになったベーコンをこれまた意味なくひっくり返す。

「驚いた…よね?」
「驚きはしたけど…私は別にハリーが誰を好きになろうと、好きになることが大事だし、いいと思うわよ。まさかハリーから恋に関する話が聞けたことはちょっと驚きだけど。」
 笑うハーマイオニーにちょっとムッとするハリーだったが、すぐに同じように笑い、反対隣へと目を向けた。
同性が好きということに驚いた様子にロンはえっと、と考えている。
「やっぱり…ちょっと引いた?」
「いやいや、そういうわけじゃなくて…同性が好き、じゃなくてそいつが好きってことなんだろう?」
 思わぬことだったらしく、動揺するロンにハリーは笑うと大丈夫だよと返す。
「そりゃそうだよ。他の人見てもなんとも思わないし。前にシェーマスが持ってきた本、一緒になってみてたよね?あの女性の…」
「はっハリー!!!それは内緒だって!!!」
 彼以外なんとも思ったことはない、というハリーは先週フクロウで送られてきたという雑誌の話を持ち出すとロンは顔を赤くしてガタリと立ち上がった。
 首をかしげるハリーにハーマイオニーが咳ばらいをするとロン、座りなさい、とやや冷ややかな目で顔を赤らめたロンを座らせる。

「そっちじゃないよロン、ほら、女性とのデートについての特集の話だよ。」
 自分のことで精いっぱいだったハリーもさすがに気が付き、慌てて別の雑誌を持ち出した。
「なっなんだよてっきり…。そっそうだよ。うん。そうなんだ。そっそれで話の続きは!?」
 慌てふためくロンとハリーに全くとため息をつくハーマイオニーはそうそう、話は?とハリーを促す。
さっきまでの設定何だったか、スネイプに迷惑をかけない話を必死に思い出すハリーはそれで、と切り出した。
「それで…ぼうっとしてたらいきなり目の前にその人がいて…えっと…気が付かなくてぶつかって…どうかしたのかって聞かれたときにその…うっかり好きだって言っちゃったんだ…。でも好きを伝えるだけでどうするかとか何にも考えてなかったからその…好きしか言えなくて。」
 くるくるとベーコンをフォークで回すハリーは昨晩を思い出して顔を真っ赤に染める。
なんであんなにぼうっとしていたんだろと考え、そうだパズルだとやり直しのピースを思い出す。
「その人はなんだって?」
 ハリーの様子から最悪の展開にはならなかったんだろうと、察するハーマイオニーが先を促すとどうすればいいのかわからない、というハリーの言葉に首をかしげる。

「好きって伝えるのが精いっぱいで、付き合いたいとかその…どうしてほしいかとか全然わからなくて。答えはその答えが出た時にするって…。」
 好きって伝えた後どうすればいいのかわからない、そういってもみくしゃにされたベーコンをようやく解放する。
告白する前ならこっそり見ていられたスネイプも、なんだか今日は見れずにいる。
「どうするって…付き合ってほしいんじゃないの?」
「好きです、付き合ってくださいって言えばいいんじゃないかな。」
 一緒にいたいなら、とアドバイスをするハーマイオニーにロンもそれ以外何があるんだい?と首をかしげる。
「そっそうお願いしてもいいのかな?でも付き合うって何をしたらいいか…。」
「相手はどんな様子だったんだよ。」
「その…直接言わなかったけどその…去り際に…。」
 そう、部屋から出す際に軽く触れるだけだったが確かに…。
無意識に唇に指をあてるハリーはその時のことを鮮明に思い出し、ロンの髪よりも赤くなる。
おぉぅとさすがに察したロンは良かったじゃないかとハリーの肩をたたく。
「あら、さすがに年上ね。いっそのこと付き合ってほしいけど、どうしたらいいかわからないから、教えてって、素直に伝えたほうがいいんじゃないかしら。」
 付き合ってほしいけど、その先がどうしたらいいかわからない。
そう戸惑うハリーにハーマイオニーは笑う。
自分達だってそう経験してないんだから、的確なアドバイスはできないが、なるようになるわ、とそっとハリーの背を押した。


 急いで授業に出て、戻ってきた、夕食後。
 多分あそこにいるはず、とはぐらかすハリーは透明マントを羽織って寮を出た。
元気づけてくれた二人の言葉に励まされ、地下牢へと向かうと昨日と同じ木の扉をノックする。
 すぐに返答はなく、出かけているかなと少し残念のようなほっとした気持ちになると引き返そうとして、扉が開いたことに振り向いた。
 何も言わずに扉を開いたスネイプは中に入るよう促すとそこに座るようにと椅子を示す。
大人しく従うハリーは落ち着かない様子できょろきょろと部屋を見回して、じっと見つめるスネイプの瞳を見つめ返した。
「もう答えが出たのかね?」
「えっと…その…迷惑じゃなければ…付き合ってください!あの…付き合うってなにをすればいいのかわからないので…先生に教えてもらいたいというか…。」
 勢いで伝えると同時に、でも付き合うといのがどうしたらいいかわからないと素直に伝えるとスネイプはやれやれといった様子でため息を吐いた。
「言っておくが、私の付き合う、というのは子供の恋愛事などではなく、大人の恋愛事、という意味になるが、わかっているのかね?私は子供の恋愛ごっこに付き合うつもりはない。」
 腕を組み、ハリーの前に立ちふさがるスネイプは読めない表情でじっとハリーを見下ろす。
大人の、と言われて顔が赤らむハリーは目を泳がせながらこくりと小さく頷いた。

 こつりと足音を鳴らし、距離を詰めるスネイプを見上げ、また頷くと眼鏡がとられ、そっと触れる口づけが落とされる。
頬に添えられた手が優しく、それでいてどこか強めにハリーを支えると次の口づけは柔らかな舌がハリーの口を舐め、開けるよう促した。
 おずおずと開いたハリーの口に押し入るスネイプはキスの不慣れな子供に教えるよう、じっくりと時間をかけて味わい尽くす。
時間にしてどれくらい経ったのか、ハリーの息が上がるのもお構いなく蹂躙するスネイプはどこかで聞こえた時計の音でようやくあどけなさを残す唇を解放させる。
とろんと蕩けた目でスネイプを見つめるハリーの唇は赤くそまり、あふれた唾液が妖艶に光る。
ぬぐうようにもう一度口づけたスネイプはハリーを抱き寄せた。
「週末の夜、来てくれるかね?私の私室へ。」
 耳元で囁くように伝えると、ハリーはこくりと頷いた。ふわふわとして、どこか落ち着かなくて、縋るようにスネイプを抱きしめ返す。

 寮に戻ったハリーにそっとロンがそばに来ると、どうだったか聞こうとして、ハーマイオニーに止められる。
首をかしげるロンだったが、ハリーの顔見て、という言葉にじっと親友を見て、ほっと息を吐き、告白成功やったなという意味を込めて肩をたたく。
 はにかむように笑うハリーは素直にうなずくと、応援してくれた二人にありがとうと心からの感謝を伝えた。







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