砕けたパズル

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注意:この話はモブハリががっつりあります。
   鍵部屋に行くには大きくなりすぎてしまったので、
   こっちに掲載となります。っていう注釈を入れるぐらい暗いです
   カカオ齧ってるのってぐらいビター(当サイト比)なので、
   甘いのがいい!っていう方には全く向いていないかと思います。
   
   
   忠告はしたよ?
   
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 完成していないパズルはたった一つの衝撃でバラバラになる。
それはまるで、誰かの心のようだ、とバラバラになったパズルを前にハリーは呆然とした気持ちで落ちていくパズルを見つめた。
 ハリーはもう少しで完成だったパズルがいともたやすく崩れたことに落胆が心を満たし、怒りよりも喪失感に見舞われていた。
「ごめん!!ハリー!!!」
 崩したのは最初にパズルを持ってきたネビルだった。
集中力が付くからと、祖母に渡されたということがきっかけで、いくつか送られてきたというので何人かでやろうという話になった。
 ロンは早々に音を上げ、ハーマイオニーは両親にマグルのを送ってもらい、早々と完成させた。
シェーマスも頑張ったが、今ハリーのパズルを崩した一撃で、半壊して怒っている。
 ネビルは転んだ足をさすりながら立ち上がりかけ、うっかり踏んだピースにまた足を滑らせて、シェーマスの無事だった残りの半分をバラバラにした。

 燦々たる有様にハーマイオニーが杖をふるうとそれぞれのピースでまとめて3つの山を作り上げた。
「パズルもいいけど、ハリー。あなた追加のレポート出してきたのかしら?」
「あ、レポート出してこないと。僕のはまた今度やるよ。」
 興をそがれたとはこのことかな、と立ち上がるハリーにネビルはただ小さくなるのみ。
自分のがなかなか進まず、二人のパズルがどうなったのか、それを聞こうとして立ち上がった際に足をもつれたらしく、反省するネビルにシェーマスが怒る。
パズルは残念だったが、レポートを手に廊下に出たハリーは時間ギリギリまで出していなかったレポートをちらりと見た。
時間については減点されるかもしれないが、こういう時はいつもより長く拘束されることが多い。
以前ならば何としても避けたい時間だったが、今は一秒でも長く一緒にいたいなんて思うのは自分だけかなと、思わず口元が緩む。
 想いを伝えるなんてできるはずもない。
 ただ、彼の意識が自分だけに向いていることだけで幸せだった。


 地下の扉を前にして無表情に徹するよう頬を軽くたたき、ノックをして名乗る。
すぐに返事があり、失礼しますと扉を開けた。
 戸の先には魔法薬学教授…スネイプが待ち構えていた。
追加で出されていたレポートを手渡すと、そこで待てと扉の前に立たされる。
きっと今すぐ見て嫌味を言いたいのだろうと、じっと待つハリーは長い指が羊皮紙をめくる動きを見つめた。

 スネイプに触れたことはない。
あの指がどんな体温をしているのかさえ分からない。
「少しはましになっているかと思えば…。これで本当にいいと思って持ってきたのかね?」
 今確認してやろうと意地悪気な顔で告げて、パラパラとめくるスネイプをただハリーは見つめるだけ。
あの指は暖かいのだろうか。
取り留めなく考えるハリーは聞いているのかね?という声にはっと顔を上げた。
いつの間にか自分を見下ろしていたスネイプに、ハリーは慌ててぼんやりしていましたと答える。
「グリフィンドールから2点減点。何を英雄殿は悩んでいるのかね?」
「なっ悩んでなんかいません。ちょっと集中して疲れただけです。」
 スネイプの言葉に顔を赤くしたハリーは慌てて首を振って否定する。
だが、顔を赤らめていることでバレバレなのかスネイプは不機嫌そうに眉を寄せて、それでいていつもの皮肉めいた顔をのぞかせる。
「なるほど、英雄殿を煩わせる恋の悩みとは。相手が断らないと踏んで尊大な態度をとるかと思いきや、なんと繊細なことか。」
 鼻先で嗤うスネイプになんでこんな人を好きになったんだろうと、顔が赤らむのが止まらない。
でもこうやってあざ笑っているのは自分はその当事者であることを知らないからだと、キっと顔を上げた。

「好きです。僕は、スネイプ先生が好きなんです。」
 面白そうに見ていたスネイプの眼が驚いたのかわずかに見開かれ、顔を真っ赤にしたまま告げるハリーを凝視する。
内緒にしなければならなかったのにと早くも後悔が胸を満たし始め、より一層目に力を込めた。
「満足なレポートを作れないからと言ってそのような心にもないことを。このレポートの評価を上げてほしいのであれば逆効果ですな。」
 じっと感情の読めない顔でハリーを見るスネイプにハリーはこぶしを握り締めた。
「違います!いえばこうなると思ったのでずっと黙ってたんです…。本当に先生が好きなんです!」
 本心を誤解されたくないとスネイプを見返すハリーだが、その眼に最初の力は篭っていない。
不安と拒絶されることへの恐怖でハリーの緑の瞳が震える。
 先に動いたのはスネイプで、触れられるほど、スネイプを包む魔法薬独特の匂いを感じ取れるほどの距離に詰めてきて、ハリーは思わず一歩足が下がってしまった。
拒絶されるのではと震える瞳を見つめたスネイプはすっと目を細めて、ハリーの頬に大きな手が添えられる。
少しひんやりとした手に、先ほどまで考えていたことを思い出してスネイプが触れていることに驚きを隠せない。

「その告白を聞いて、我輩に何を求めているのだ?」
 優しさか?待遇の改善か?それとも恋人の甘い時間か?問いかけるスネイプンにどう答えようとただスネイプの黒い瞳を見返す。
すり、とハリーの唇を撫でるスネイプにハリーはこれ以上ないほどに顔を染め上げた。
とにかく好きだということを伝えることで必死で…そのあとのことなんて、スネイプに望むなんて考えてもいなかった。
緩く腰に置かれた手に誘われるようにスネイプの黒い胸元に顔をうずめる。
もうこれだけで顔から火が出そうだというのに、何を望めばいいのか。

「どうしてほしいか…どうされたいか、我輩の返事はそのあとということにしよう。今日はもう帰りたまえ。」
 驚くハリーが反応する前に唇に軽く口づけを落とすスネイプはハリーを押し出す。
一瞬のことに驚くハリーだったが、ぱっと駆け出しそのままわき目も降らず寮へと戻り寝台に飛び込むと、すっぽりとタオルケットを頭からかぶる。
心配して追ってきたロン達の声も入らずに怒涛の展開にただぐるぐると回る頭を落ち着かせようとした。






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