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そろそろ夕食か、と作業がひと段落したスネイプはハリーが静かなことに気が付いた。
暖炉の温かみで眠るハリーを目に入れ、ため息をつくと肩をゆする。
熟睡してしまったのか、それでも起きないハリーに、朝のように怒鳴ってやろうかと考えるスネイプはハリーの寝顔に仕方がないと首を振った。
抱き上げ、寝室に運びながらやはり軽いなと昼間、腕の中で震えていたハリーを思い出す。
「元に戻った時どれだけ減点するか…覚悟しとくのだな。」
このもやもやについても減点してやると、寝台にハリーを下ろす。
と、そっと下ろそうとしたあまり顔が近いことに気が付き起き上がろうとして足が滑る。
(危なかった…)
ハリーの上に倒れる前に肘をつくことができたスネイプはハリーを下敷きにせずに済んだとほっと息をついた。
はっとスネイプは今の状態がどうなっているのか…それを思い浮かべる。
ハリーの顔の脇を挟むように肘をつき、ハリーの体に覆いかぶさるようになった体勢。
見下ろせばすやすやと眠るハリーの唇。
すぐ起き上がれる体勢ではない。いっそのこと唇を奪ってしまおうかという欲望が頭をかすめる。
(何を考えておるのだ私は!!!あと数センチ顔を降ろしただけであのやわらかそうな・・・。あのいかにも弾力がありそうで吸いつきがよさそうな・・・。ってちがっ!?)
理性と煩悩がせめぎあうスネイプは寝返りを打つハリーに飛び起きるとものすごいスピードで薬を作っている部屋へと駆け込んだ。
(今のは寝返り…寝返りだったのか。これは事故だ!そう事故!決して私が悪いわけではない。)
ふにゃりと触れた柔らかな唇の感触を思い出すスネイプはあと一歩で何か出てきそうな気がして…違うとため息をつく。
気分転換しようとコーヒーの準備をしながら猫耳ハリーを思い出すスネイプは違うと否定したところで、ノックの音が響き思わず手からカップが滑り落ちる。
ノックした方にも食器が割れる音がしたのか、沈黙のまま何も反応がない。
「誰かね?」
戸を開ければそこには親友を心配する生徒がたっていた。
自分の部屋にいるとなればハリーのお見舞いには来ないだろうとそう考えていたが、嫌いなスネイプの部屋だろうと何だろうとやってくるこの二人を忘れていたと、内心で舌打ちをする。
「グレンジャーとウィーズリーです。」
「ハッ、ハリーのお見舞いで…。」
仕方がないと、中に通すスネイプは割れたカップを杖で消し、きょろきょろと興味深げに部屋を見る二人を振り向いた。
ハリーの見舞い、と考えたところで現在ハリーは猫耳状態だ。
「あの…ハリーは今…。」
当然二人が猫耳ハリーを知っているはずはないのだが、子猫ハリーではなく猫耳ハリーしか頭によぎらず、言葉に詰まる。
別に説明して猫耳ハリーが見られたっていいではないかと考えるが、猫耳ハリーは赤い首輪をつけてローブを着ているだけで他には何も身に着けていない。
しかも寝ているところは寝室。
黒い髪から覗く黒い三角の耳。
揺れる黒い尻尾。
怒られるなどすると正直に反応する耳と尻尾と恥ずかしさで顔を赤くしたハリーと…。
それが見られたくないのではない、前半部分だけ見られたくないだけだと、追い払う口実を考える。
そう、ハリーが自分の部屋で自分の服だけを着て寝ている姿を見られれば誤解されかねない、とそう結論付けた。
「昼食後しばらくあちこち歩きまわっていたが、図々しくも我輩の寝室で寝ておる。今ここではその図々しい猫を戻すための薬の調合中なのだぞ。ポッターも人がいて暴れられてはかなわない。したがって、即刻部屋から出ていきたまえ。あと一週間と少しぐらい会えなくとも問題ないだろう。」
招き入れたのは自分だということも棚に上げて、出たまえと二人に告げる。
「えっと、今日はお見舞い以外にもう一つだけ…えっとハリーが起きたらお願いします。類似した魔法を調べたところ、月の光を浴びたり、感情が高ぶると一時的に人の姿に戻れるんだそうです。」
「だからここにいれば月の光もないだろうし、怖いとか…はありそうだけど…じゃなくて感情がそこまで高ぶらないだろうからおとなしくしてなよって。」
伝えてほしいという二人の言葉にスネイプはすぐ合点する。
ばたばたと出ていく二人を見送ったスネイプはそういうことかと納得した。
思えばあの小部屋では小さな窓が付いていた。
今日はあの高さからせわしなく動く足と、はぐれたことで不安と恐怖を感じ、感情が高ぶったのだろう。
一つわからなかったことがわかり、上機嫌になるスネイプは次の工程をやらなければと、薬の生成方法を確認する。
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