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 失われた声を取り戻す魔法薬は複雑で、いくつかの魔法薬を作った上で再生成させる必要がある、とスネイプはまず一つ目と、早くも生成された魔法薬を瓶に詰めると誰が用意したのか、自分のサイズにぴったりなナイトシャツに着替えて部屋へと戻った。
 奇妙な生活の始まりにスネイプはただため息しか出ない。


 翌日もハリーはソファーからじっとスネイプの背中を見つめる。監視役も大変だと皮肉ろうかと思うスネイプだが、それをわざわざ書くのも煩わしい。
 結果的に物音以外に部屋に響くものはなく、スネイプの薬だけが順調に作られていく。

 ハリーは定期報告と言って2,3時間離れることもあったが、薬作りに没頭するスネイプは戻ってきた音に出かけていたのかという感想しか浮かばず、特に気にすることもない。

 この奇妙な生活ももう明後日には終わるな、と薬を作り始めて5日。
スネイプは出来あがった薬とレシピを見て頷く。その時、小さな咳が聞こえてスネイプは振り向いた。
 ソファーに座って背を向けているハリーは小さな咳をこぼすと大きく息を吐いていた。
【具合でも悪いのかね?】
 差し出されたメモに少し驚いたように振り向くハリーはちょっと風邪かなと小さく笑いをこぼした。
製薬室に戻ったスネイプは作った魔法薬から一つ選ぶと、ハリーへと差しだした。
「え?でもこれ…薬に必要なんじゃないですか?」
【それは比較的簡単な薬だ。のどの炎症を治す効果がある。うつされては困る。】
 受け取るハリーに再びメモを書くスネイプに、ハリーはすごいなぁと褐色の薬を見て、追加のメモに目を落とすとためらうことなく薬をあおる。
「苦い…。あ、でも楽になりました。ありがとうございます。」
 顔をしかめるハリーにスネイプは空の瓶を受け取り、何か文句あるかねという表情でハリーを見る。

 ハリーに渡した薬を再び作ったスネイプはそろそろ夕食が運ばれてくる頃合いか、と部屋を出た。
静かなことに出かけたか、と考えるが、何気なくソファーを覗くと青年は寝息を立てていた。
監視役が寝てどうする、とため息がでるスネイプは一応”仕事中”だろうと細い肩に手を伸ばした。
ゆすろうとしたところでふとこの青年が自分の前でこうも無防備になるのは初めてだな、と顔にかかった髪をそっと梳く。
 ジェームズに似てはいるが、どこか違うとあまり観察していなかった青年をじっと見つめた。
似ているとは思うが、どこか…例えば目の色もそうだが、まつ毛の長さとか寝息を立てる唇とか…リリーを連想させて、やはり少し違うとこれがハリーの顔なのだと、そう改めて認識する。
 眠った顔を見る限りでは闇の帝王を打ち破った英雄というレッテルも、生と死の狭間で敵も味方もたくさんの死を見てきた青年でもなく、ごく普通の青年ということしかわからない。
 自分との生活に疲れているのかもしれないと、無理に起こすのはやめてとりあえず眼鏡だけは外そうと手を伸ばす。
「せんせい…?」
 ぼんやりと目を覚ますハリーがまるで寝言のように呟くと、覗き込むスネイプが今まさに自分の顔に手を伸ばしていることに気が付き顔を赤くして、パクパクと口を動かした。
「せっ先生いつから!?」
 顔を真っ赤にしたハリーに驚くスネイプは何をそんなに恥ずかしがる、と目を細ませて細い体をなぞる。
「ひゃっ…!」
 更に顔を赤くするハリーにスネイプはじっと窺うように…ハリーが何を考えているのかを汲み取ろうと見つめた。
 どうせ薬ができたら自分は尋問され、アズカバン行きになるか…それとも処刑だろうと、スネイプはハリーが反応するより前にハリーの唇に自分のを重ねる。
 触れるだけの口づけに驚くハリーだが、スネイプは何も言わずにキッチンへと消えていて…ハリーもまたぼんやりとしながらその後を追った。
 どうしてキスをしたのか、それを気にするハリーだが、面と向かって聞いたところで、筆談してくれないとわからない。
 今のはどういうことなのかと、顔を赤らめたままハリーは悶々とスネイプを見るが特に変わった様子もない。
 本当に何なの、と困惑するハリーにスネイプは面白いなと、傷が治ってから久しぶりに口角が上がるのを自覚していた。





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