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案内された家は小ぢんまりとしていて、特に何の魔法も感じられないごく普通の家だ。
家に入ると、腕につけられていた縄が解かれ、ぐるりと室内を見渡した。ソファーがあり、テレビがあり扉がいくつかあり…階段の上が寝室か、と目算をするスネイプは物音に視線を落とす。
「彼が監視役だ。薬を作るふりして何もしなければすぐにアズカバンに入れさせてもらう。我々はお前を信頼したわけじゃない。だが…」
「大丈夫です。彼は…スネイプ先生は手を抜くなんてことしないですから。」
キッチンにいたのか、顔をのぞかせた癖っ毛と緑色の瞳にスネイプはただ眼を見張るしかない。
連れてきた役人をさえぎる青年…ハリーは定期報告をすることと、何かあれば連絡することを伝え、最後に苦笑いをしながら僕の事は信用してくださいよと言う。
役人が出ていくとスネイプはどういうことだと、ハリーを見下ろした。
「えっと…。ハーマイオニーもロンも他のことで忙しくて…。ホグワーツである程度見知った仲だっていうことと、ダンブルドア先生がスネイプ先生が死喰い人を裏切った理由が母さんにあるっていうことで…。僕なら危害を加えにくいんじゃないかって。あ、僕は監視と言っても大それたことはできないので、先生は気にせず魔法薬の精製を行ってください。」
じっと見られることに居心地が悪いのか、まくしたてるように自分が選ばれた理由を話すハリーはちらりとスネイプを見返す。懐からメモを取り出し、何かを書きつけるとずいっとハリーに差し出す。
【新しい魔法省は人手不足なのか。よりにもよって本物の英雄となったポッターをこの程度の雑事にかりだすとはな。】
「あはは…。まぁ人がほとんどいませんからね…。それに、実は監視役というのは口実であちこち引っ張り出されて辟易していた僕を一時的に隔離して、休ませようっていう…キングズリーの配慮でもあるんです。」
先生も知っての通り、僕はそこまですごい魔法使いでも、聖人でもないから、というハリーにスネイプはただため息を吐くしかできない。
ざっと部屋の中を説明するハリーはここが、と言ってリビングからよく見える扉のない部屋を示す。
「ここが魔法薬を精製する場所です。一応作り方の本はそこにあります。本来は聖マンゴ魔法疾患病院のヒーラーだけに渡されているレシピだそうですけど、薬に関しても実は品薄でして…。複雑なこの薬をつくっている余裕がないと。先生ならきっと作れるかなっていうことで。材料とかはある程度そろっていますけど、足りない場合は僕が買い出しに行ってきます。僕がいないからって勝手に外に出ると警報が鳴るそうなのでやめてくださいね。」
器具はホグワーツから引っ張ってきましたというハリーにスネイプはじろりとにらむだけにして、レシピに目を通す。ざっと部屋を見渡すととりあえず次の部屋はとハリーを見る。
1階の説明を終え、2階に上がるとこっちを先生が使ってくださいとハリーは扉を開けた。
部屋の中にはホグワーツ内でも使われていたような少し大きいベッドとクローゼットと机と…。ごく普通の家具にスネイプは怪しむようにハリーを見ろした。
どうやら、監視対象である自分がこんな広い部屋なのかと、そういわれた気がして、ハリーは驚いたように眼をしばたかせた。
「何か変…でしたか?」
不思議そうに言われてしまえばスネイプとしても何も言えない。
何か違和感を覚えながらも1階に戻り、レシピに再び目を落とした。
「食事は屋敷しもべ妖精のウィンキーが作ってくれます。本当はここで住み込みという話もあったんですけど…色々あって。そんなに大変じゃないからとホグワーツとを行き来きしてくれることになったんです。」
だから普段はいないというハリーにスネイプは振り向き、じっと窺うように見つめる。
その表情になんだか笑うハリーは更に睨むスネイプにすみませんと手を振った。
「あれだけ僕に閉心の術をと教えてくれた先生なのに、今は何を言いたいかよくわかるのがおかしくて。不用心というわけでもないですよ。ただ、彼女は魔法薬匂いをかぐとくしゃみが出るというので、四六時中それは可哀そうだって。クリーチャも協力してくれようとしたんですけど、あの戦いで少し負傷してしまって。」
他に候補する屋敷しもべ妖精がいなかったから仕方ないんです、というとスネイプはつまらなそうに机に向き直り、戸棚から材料を取り出す。
ハナハッカにレモンバームの粉末に…。何段階かある工程のうち、ここまではやってしまおうと早速作り始めようとしたスネイプは視線を感じて再び振り向く。
じっとみつめる緑色の瞳と目が合い、何だと問いかけようとして、監視役ということで見ているのかとため息をついて再び薬の精製に取り掛かる。
夕食が用意できましたよ、という声に顔を上げたスネイプは、鍋の状態を見て傍を離れた。
キッチン内に置かれていたテーブルに座ると、向かいに座ったハリーに目を移す。
「僕も一緒に食べますね。片付けぐらいはやるよって言ったので、食べ終わったらシンクに下げといてください。僕が片付けますから。先生はまだ完全に体力が戻ってないと聞いています。製薬に区切りがついていたら先に休んでいてください。シャワー室は先ほど説明した通りその奥です。」
僕と顔を合わせるの嫌でしょうけど、というハリーにスネイプはそういうわけではないと眉を寄せて静かな食事を始めた。
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