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言葉以上の想いをこめて


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人里離れた森の入口にぽつんと、一軒の小さな家があった。
森の木漏れ日を室内に取り入れ、森が生み出した新しい風が通り抜ける。
 かつての住人を思い出させる家はただ静かにそこにあった。
 
 自分の役目は終わったのだと、目を閉じたスネイプは子供たちが立ち去った音をかすかに聞いて、吐けない息を吐いた。
 息が詰まる中、喉元の痛みもまた徐々に感じなくなると全ては闇に包まれた。ここが死の世界かとようやく満足にため息を吐くことができるようになり、消えていく自分を他人事のように考えていた。
 不意に誰かに呼ばれた気がして、何かが手に触れた気がして、闇の中振り向くと自らが世界から奪った大魔法使いがいた。
 この期に及んでなんのようだと眉をしかめると、大魔法使いはいつもの悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「もう全て終わったようじゃ。」
 その言葉にさようで、というと大魔法使いの背後からまばゆい光が放たれ、徐々に闇の世界を照らしていく。
「最後まで影の功績を残したおぬしにわしからの感謝じゃ。」
 光に目がくらみ、大魔法使いの姿すら見えなくなる。どういうことかと問おうとして、喉に走る激痛に思わずうめき声を漏らす。うめき声?とスネイプは耳に拾った音に重い瞼をこじ開けた。

 ダンブルドアの肖像画からフォークスが決選前に立ち寄ったという場所にまさか、と駆けつけたハリーはうめき声を拾って、彼がいる部屋へと駆けこむ。
 うっすらと開いている漆黒の目がぼんやりと自分を見たことにすとんと、力が抜けて座りこむ。後から駆けつけたハーマイオニーもまた驚くと、スネイプのそばに落ちている不死鳥の尾羽と傷口をぬらす不死鳥の涙に全てがつながる。


 すぐに気を失ったスネイプは不死鳥の騎士団らによって運ばれ、全ての事情を聴くため…尋問のために簡単な治療を施す。ダンブルドアの肖像画は彼がおこなった”影の功績”を包み隠さず全て語ったが、全員が全員それを鵜呑みにはしなかった。
 意識を回復したスネイプだが、尋問には問題が起きていた。喉元の傷はフォークスの力をもってしても十分回復出来なかったらしく、声を出すことが出来ない。
 筆談でという話も上がったが、真実薬を使った尋問をという声によって行き詰っていたのだった。
 スネイプとしては蘇ったことは誤算で、余計なことをしてくれたと事の成り行きを見守るしかない。

 声以外十分回復したスネイプに通達が来たのはあの決戦から2週間…5月も半ばだった。
いわく、尋問を行うために自身で魔法薬を精製し、喉を治すこと。
そのために人里離れた一軒家が用意されていること。
監視役が一人寝食を共にすること。

 たったこれだけの通達にスネイプは眉をよせた。
 魔法は無言呪文がある程度使えることを彼らは知っている。
 なのに魔法に関しては何も書いていない。
だが、反論をしたところで筆談は無視されるだけ。拒否権はないなと薬を作ることを了承した。





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