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 そして、何の進展も見せず、2週間が経ってしまった。
いくらゆっくりと進む時間が遅くなっているとはいえ、目に見えてハリーは少し痩せていた。
「まだ見つからないのか!?奴と…奴が持っている対の薬と…。」
 苛立ちをにじませるシリウスをルーピンがなだめると、セブルス、と振り向きざまに声をかけた。
「大丈夫。絶対薬は見つかるよ。」
 声をかけられたスネイプは疲れた様子でハリーから目を離し、わかっていると頷く。
痩せているのはスネイプも同じで、必死に解毒薬を模索していた。
 ふと、廊下を走る音が聞こえ、何事かとシリウスとルーピンが目を向けると、戸を開いたロンがあのっと声を上げる。
「れっ例のあの人がウェールズの方にいたって今目撃情報が…。」
「ダンブルドア先生が皆を呼んできてって。ハリーは私たちが見てますから。」
 顔を出すハーマイオニーの言葉にシリウスは飛び出し、ルーピンとスネイプもそれに続く。
「本当に生きていたなんて…。」
「でも結構遠くだから大丈夫だよ。」
 びっくりしたと言うハーマイオニーにロンも頷き、眠ったままの親友をみる。
皆皆嘘つきだと言って消えたハリー。
「私達…なにかハリーを傷つけてしまったのかしら…。嘘なんて…ついた覚えはないのに…。」
 呟くハーマイオニーはギュっとこぶしを握り、ずっと考えていた疑問をため息とともに吐き出す。
「僕もさっぱり…。でもハリー…多分何かとても嫌なことがあったんだと思う。ほっほら、たとえば…あっもしかして…。」
 考えるロンにとってもわからないことばかりだ。
ふと、いつからハリーの様子が変わったのか、はっと何かを思い出す。
少しハリーが距離を置くようになったのは…あれは土曜日だ。
「もしかしたらなんだけど…ほらっ、ハリーが夕食にも姿を見せなかった土曜日。あの日からハリー、少しぎこちなくなったような…。」
「土曜日…?もしかして、ロンが買い物にホグズミードに戻って、そこに私が同じ店で…。」
「そう。そのあと、店を出るところで思いっきり人にぶつかって…。それでそのぶつかった人がお詫びにってバタービールを奢ってくれたあの時。もしかしてなんだけど…そこにハリーも戻ってきていて…。」
「私たちが共謀してハリーをのけ者にしたんじゃないかって誤解したってこと!?」
「でもそう考えるとハリーが夕食に来なかったのも顔を見たくなかったから…とかじゃないかな…。」
 驚くハーマイオニーにロンはもしかしたらだけどさ、とだんだん声が尻すぼりとなりながら答える。
 誤解…だとしたら全てを捨ててしまったハリーは…。
ハリーに悪いから黙っていようという選択肢は間違いだったのかと、ハーマイオニーは悔しさで拳を握りしめた。
 一年前のあの日、それに気がついていれば眠らされることなく、闇の勢力に行くことなく…今でも3人一緒に授業を受けて他愛もない言葉を交わして…。
 ロンもまた複雑な表情でうつむいた。
 
 その時、ガシャンと言う音が廊下から聞こえ、驚いたハーマイオニーとロンは廊下に飛び出した。
そこには散らばったガラスの破片が散乱しており、慌てた様子の職員がそれを杖でかき集めている。
 びっくりした、と部屋に戻ろうとしたハーマイオニーは戸に手をかけ、ピクリとも動かないことに顔を青ざめた。
 そういえばたった一歩しか廊下に出ておらず、片手で戸を支えていたはずがいつの間にか自然と重みで閉まったような気がする。
 いや、なんとなく重みが増して自然と手から離れてしまったのだ。
「やだっ…ねぇハリー!!ハリー!」
「だめだ全然動かない。アロホモラ!!」
 拳で戸をたたくハーマイオニーにロンも魔法を唱えるが戸は全く開かない。
その騒ぎに嫌な予感で戻ってきていたスネイプは残りの距離を駆け出し、離れているようにいうと魔法で戸を粉々に砕く。
 さわりと、風が部屋を通り抜け、空の小瓶が誰もいない枕元に転がっている。
慌てて窓によれば早くも遠くになった一つの箒が見え、それもあっという間に小さな影となってしまった。
 目撃情報はポリジュースと服従呪文によるかく乱。
すぐさま箒の行方を探すが、そもそも最新式の最速を誇るファイアボルトを追跡することは容易ではない。
 空の小瓶からは例の薬と酷似した成分が見つかり、ハリーを目覚めさせたことは当然の事であった。
 大規模な捜索がされるものの、すでに国外に出た可能性があり、年月だけが悪戯に過ぎて行った。
 
 
 白いカーテンの引かれた窓を開け、ナギニが戸をそっと押して閉めると完全施錠呪文を唱えた。
眠った姿は少し時間がかかってしまったために痩せてしまっている。
 懐から赤い小瓶を出すとうっすらと空いた唇にあて、そっと流し込む。
戸が激しくたたかれる音の中、目を開いた少年は目の前の男に気がつくと嬉しそうに笑い、まるで一晩寝て起きたかのように立ち上がると、男…ヴォルデモートが差し出した箒にまたがり、ナギニと蛇に変化したヴォルデモートを服に入れて空いた窓から飛び立つ。
 久々の箒に心が躍り、ハリーは試合中にもほとんど出したことのない最高スピードで空を飛び、郊外に出る。
 今度は地面をはうようにギリギリの高さにすると、事前に決めていたヘドウィグの待つ北欧の地へと向かう。
 赤子を抱いたベラトリックスのいる古い民家にたどりつくと、箒を降りたハリーは傍らの男にすがりついた。
「ヴォル、お帰り。」
「起きたばかりに無理をさせてすまない。奴らもまさかその足で国外に出たとは思っていないだろう。ましてや、箒に慣れたハリーが起きてすぐに飛んだとは考えも及ばないだろうな。しばらくはこの地で…静かに体を休めよう。」
 抱きしめ返すヴォルデモートはハリーの髪をなでると、どちらともなく口づけをかわした。


-- ED1  眠れる森のジュリエット







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