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 ぎりぎり朝食に間に合ったハリーは透明マントを脱ぎ、ハーマイオニーとロンにごめんね、という。
「なるべく日中に会えるようにしてくれるって。心配かけてごめん。」
「ハリーの相手の人には悪いけど・・ハリーもまだ学生なんだから気を付けないと。あぁ、ハリー。ボタン、上まで閉めないと…。」
 急いで朝食をとるハリーにハーマイオニーはため息をつくと、はっとしたようにハリーのボタンを留める。
 ちょうどスープを飲んでいたロンは見えていなかったが、何を隠したのか分かったハリーは顔を赤くし、ありがとうと小声で伝えた。
 
 そのやり取りを見ていた男は見えなかったものの、ハーマイオニーの反応とハリーの顔を見て何を隠したのかを察し、思わずこぶしを握る。
 汚してはならないと必死に本能から守った無垢な体を誰かが簡単に暴き、汚した。
 別れてから何かあったのかと考えてはいたが、まさか自分がこえずにいた一線を…ハリーはいとも簡単に体を許したのか…
 そう考えるだけで怒りがこみ上げ、スネイプは静かに席を立つと自室へと下がった。
これ以上そのことを考えたら自分から手放した…自由にと逃した小鳥を握りつぶしたくなりそうでスネイプは大きく溜息を飲み込んだ。
 
 
「それにしてもハリー…。貴方の彼氏?って学校外の大人の人だったのね。私てっきり…。」
 ハーマイオニーの言葉にハリーは照れたように笑う。
スネイプに告白する前、思い切って2人に相談したのだ。
はじめは驚いた2人だが、すぐに人それぞれだから、と応援してくれた。
「そう、卒業生。週末用事があるとかで、そのついでに会ってもらっていたんだ。日中に会えるよう調節してくれるって。」
 50年前の卒業生で、実際用事があるとかで、いるときといないときがある。ハリーの言葉にはどこにも嘘はない。
 だからなのか、ハリーの言葉を受け止めたハーマイオニーは特に疑うことなく、いい返事がくるといいわね、とハリーの肩をたたく。
「うん。」
 はにかんで笑うハリーにロンはそれにしても、と考える。
「外部ってことは…ホグズミードで知り合ったの?」
「うん。いろいろあって叫び屋敷で落ち込んでた僕を元気づけてくれたんだ。この傷を見ても英雄とか、そういう事を言わずに僕のことを見てくれる人。何にもないただのハリーって僕を見てくれるからすっごく楽なんだ。」
 以前のようにどこか頭の隅でいつ死喰い人に襲われるのか、いつどこからヴォルデモートが出てきて襲ってくるのか、そういったある種の恐怖がわずかにあったが、今はそんな心配も恐怖も全くない。
 あるのはこの危険な関係がいつだれかにばれるのではないかというスリルだけ。
死への危険はない。
 嬉しそうに笑うハリーにハーマイオニーは何か嫌な予感の様なものを感じ、大丈夫よね、と自分に言い聞かせた。


 ヘドウィグが戻って来たのは最後にあってから5日目夕方のことだ。
「あれ?手紙とか…ないんだ…。」
 何も持たずにもどって来たヘドウィグに意気消沈するハリーだが、ヘドウィグはむっとしたように一声鳴くとハリーの杖をつかみ飛び立っていく。
「え!?ちょっちょっと待って!」
「へっヘドウィグ!?どうしたのよ。ハリー待って!」
 慌ててヘドウィグを追いかけるハリーにハーマイオニーとロンは驚き、大広間を出ていくハリーを追いかけた。
 
 玄関ホールを出たところでしゃがむハリーを2人が見つけると、ハリーは何かを大切そうに抱えて立ち上がった。
 駆け寄る2人は抱えられたものを見てぎょっと足をとめた。
「あ、前に言ってた僕の好きな人のペットなんだけど怪我しちゃったんだって。手紙はこの子が咥えてて…。急に忙しくなってしばらく近くに寄れないのと、この子の世話ができないからお願いって。」
 一抱えもある蛇を抱えたハリーは大丈夫かなと言いつつ、嬉しさを隠しきれずににこにこ笑っている。
ヘドウィグありがとう、と肩にとまった自分の梟をねぎらうと、まだ驚きから覚めない親友に目をとめた。
「蛇って…ハリー、その…好きな人って…ハリーのパーセルマウスの事とかは・・。」
「大丈夫。知ってるよ。それもあって意気投合して…この子の言葉を通訳してみたりしてたからね。」
 蛇というといやな記憶しかないハーマイオニーとロンは、パーセルタングができるということで嫌な目にあって来たハリーが大切そうに蛇を抱える姿に目を疑う。
 おまけにパーセルタングを使用しているという。
「パーセルタングもね、最初は嫌だったけど、僕の能力だと思えば活用してもいいやって思えて。変に誰かと一緒だからっていうよりも受け入れたほうが楽かなって。」
 だからもう気にしないことにしたんだ、というハリーはどこかで手当てしてくる、と蛇をローブの中に入れ、走っていく。
「ハリー…なんか変わったね…。」
 驚きで見送るしかできなかったロンは同じように固まるハーマイオニーに、不安げに問いかけた。
いい変化なのか判断できない二人は嫌な予感に大丈夫かなという。
 
 
 どこか隠せる場所、と考えるハリーに蛇は服から顔を出し道を説明すると突然扉が現れ、ハリーはその中に身を滑らせた。
「びっくりした…。まさか来てくれるなんて…。」
「まさか俺様が城の中に…ハリーの手を借りて入っているとは思わないだろう。ここならば魔法薬の材料も本の内容も手に入れることができる。それにさみしがりなハリーのそばにいることもできるからな。」
 部屋に入るなりするりとローブから抜け出た蛇は人の姿になり、ハリーは嬉しい、とすがりついた。
 見たことのない部屋はどこか叫び屋敷に似ている。首を傾げるハリーに知らなかったのか、とヴォルデモートは体を伸ばす。
「この部屋は必要の部屋という、この部屋を必要とした人物の前に望む部屋を用意する。隠れられる場所、として無意識に叫び屋敷をイメージしたんだろう。」
「そういえば前におまるの部屋が出たって話聞いたことある…。二人っきりでいられる場所、って思ってたからこの部屋思い浮かべたのかもしれない。これなら…一緒に本を探しに行けるね。」
 ふふ、と笑うハリーはヴォルデモートに背伸びし、ヴォルデモートもまたそれにこたえるように少しかがんで口づけを重ねる。
「ヴォルが疲れてなかったら…今夜探しに行く?」
 あんまり長いできないよね、と首をかしげるハリーにヴォルデモートはくつくつと笑い、叫び屋敷と同じ場所にある寝台にハリーを押し倒す。
「今日はこの部屋に入った時から疼いているハリーをほうっておくことはできないから無理だな。」
 俺様はともかく、と耳元でささやかれたハリーは顔を赤らめ、黙ってヴォルデモートに腕を差し出した。


 少しまどろみ気味のハリーにヴォルデモートは髪をなでる手を止め、耳元に口を寄せる。
「そろそろ起きないと怪しまれるぞ。」
 時刻を見ればここにきてから2時間はたっている。
明日は休みのため、消灯時間間近に無理に戻る必要はないが、怪しまれては今後動き難い。
「うん…。あ、マント持ってきてるから戻るよ。ヴォルはどうする?」
「この部屋を出したままにするには怪しまれる。姿を変えて部屋まで着いていこう。寮の構造を知っておきたいからな。」
 起き上がるハリーは鞄の中に入ってる、と言いながら服を整えた。
まだ腰がいたむが不快な痛みではなく、思わず顔を赤らめて、口元が上がる。
 透明マントを羽織るハリーに、蛇の姿になったヴォルデモートが裾から巻き付き、その身を隠す。
 火照った体が蛇特有の冷たい体温によって冷まされ、ハリーはそっと部屋を後にした。
部屋を出た途端、必要のなくなった部屋の扉が消え、2人の秘密の場所を隠す。
「明日から探索だね、ヴォル。」
 守りの固いホグワーツにすでに入り込んだ闇の帝王。
ダンブルドアは気が付いているのか、と考えながらハリーは軽い足取りで寮へと戻った。
 
 
 スネイプは夜の巡回中、いらだちをつのらせながら廊下を歩いていた。
最近聞いたあの子の話。知り合いの蛇を預かり、パーセルタングを使いながら過ごしているという。
おそらくはその知り合いがあのハリーを汚した相手。
自ら解き放ったとはいえ、それは本意ではない。
 卒業生で、蛇を飼う…不意に最も避けなければならない男の顔が思い浮かび、ありえないと首を振ってそれを消し去る。
 ふと、図書館の前までくると妙な予感と、わずかな人の気配に足を止めた。
がらりと扉を開けると同時に鋭い音が聞こえ、本が叫びだす。
「誰だ!」
 ドアを閉め、中へと入るとそれは閲覧禁止の一角の本たちが騒いでいた。
ふと、本棚を見ると、一か所だけ本が抜けている箇所がある。
この騒ぎの元凶が無理やり持ち去ったようだ。
 杖を出し、本を静まらせると警戒するが物音はしない。
注意深く歩いているとずるりと何かを引きずる音がする。
 音を追っていけばそこには蛇が棚を上り、徘徊している姿があった。
ふと、軽い足音と戸の開閉音がし、慌てて振り向くともう誰の気配もない。
この蛇は陽動か、と杖を握りしめ、蛇を見るとその姿さえもない。
とんだ失態だ、と髪をかき上げるスネイプはまさかあのハリーがやったのか、と嫌な予感と妙な確信があの蛇の鎌首のようにゆっくりともたげた。
 
 盗まれたのは最も強力な魔法薬の本。
校内をくまなく…それこそ生徒の私物に至るまで検査されたがみつかることはなかった。
仮にハリーだとして、隠し通せるものではない。
 薬草保管庫のカギを強固なものにし、毎日必ず特に重要そうなものを確認する。
スネイプは時間があればハリーを目で追い、時にはそっと後をつけてみる。
疑いたくはないが、どうしても疑ってしまう自分に苦笑し、あの蛇を預かってからというものどこか色気を増したような愛しい者にスネイプは歯をかみしめた。





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