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丘の上の人魚~蛇の団欒
注意:この先は丘の上の人魚のその後のお話です。
オリジナル要素がかなり強いため、苦手な方はお戻りください。
ハリーは相変わらず女体化したままになっています。
8割オリジナルキャラです。
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ガタゴトと揺れる列車の中、チャルは一緒に座る寮の友人、ミランダとエリーに目を向け、わくわくした様子の彼女たちに普通の家よ、と苦笑する。クリスマス休暇を使っての帰省で、あの闇の魔術に対する防衛術の厳しい教員……元闇の帝王ヴォルデモートの妻、元男で英雄とも言われていたチャルの母に会ってみたいと、チャルにお願いしたのだ。
チャルとしては友人が来るのは初めてであったし、あわよくば兄弟たちの世話を手伝ってもらおうと思っているため、異論はない。母も友人を連れて帰省してもいいかというと、是非と返事からもわかるウキウキとした様子だったことから今か今かと、待ち構えていることだろう。
そのフクロウ便を受け取ったあと、廊下ですれ違った時の父は少し嫌そうだったが、そもそも家に頻繁に帰っているのだからたまにはいいでしょ、と気にしてない。
姉が帰省するというので監視の目がなくなる、と喜んでいた弟たちはうっかり廊下で騒いだがために魔法薬学の教授、スネイプにつかまりたっぷり課題を出されていたので大人しいだろう、とこちらも気にしていない。
彼らにとって幸いか不幸か。怒れるときは恐ろしい存在だが、いざとなれば匿ってくれる存在でもある父も年始まで帰らない。監視の目が緩んではいるが、スネイプの眼はあるわけで、結局あの二人が解き放たれる心配もない。
徐々に減速する列車に、降りる準備をしながら鞄から布の塊を取り出した。
ホームに降り立つと、どうやって帰るのか首をかしげる二人にこっちきてと布から腕輪の様なものを取り出す。腕輪を3人でつかむとちょうど時間が来たのか、ポートキーが発動し、二人にとっては見知らぬ場所に移動した。
静かな湖畔で人気のない家は木々に囲まれ、とても静かだ。ホグワーツの湖畔を彷彿とさせる場所はとても明るくて、ここにスリザリンの子孫が住んでいるとはだれも思わないだろうと、体を伸ばすチャルは物珍し気な二人を見てほほ笑む。
「静かでしょ、ここ。ちょっと行った先にはマグルの町があるけど誰も来やしないわ。あ、でも家の近くにおじさんたちの住む家もあるからおじさんたちには会うでしょうね」
森のおかげで箒を使ってもそうそう見つからないし、とってもいい場所なのよ、と笑うチャルはさぁ入ってと門を開く。
「ゴーント先生のことだから、いかにもスリザリンらしいというか……そんなところを想像していたから」
「あら、私の実家でもあるのよ。ママたちの寝室は湖畔の下だけど……それ以外は普通の家だから」
適当に座って、とリビングに案内するとキッチンからする物音に何しているのかしら、と顔を出す。弟たちと同じく癖っ毛で小柄な女性がオーブンに入れた何かの火加減を見ていた。
「ママ、久しぶり」
静かに声をかければ、娘と同じ緑の眼を細ませ、元気だった?と母ハリーが笑う。目の色以外は弟たちに似ているハリーはちょっとまってね、とオーブンを覗いてスコーンの焼き具合を確認していた。
「チャルチウィトリクエの友達が来るなんて初めてだから。あ、シリウス達は今散歩に行ったからそろそろ戻ると思うよ」
張り切っている母に照れ笑いを浮かべるとだから静かなんだ、と見まわす。少なくともこの一階には4人……いや5人しかいないらしい、と軽い音共に現れた男にお疲れさまーと声をかける。
「あの爺……」
舌打ちをするヴォルデモートにハリーはくすくすと笑う。お疲れさま、と振り向きざまに口づける両親に仲がいいことで、とチャルはコップを用意する。
カップはどこだっけと出していると、トレーにカップとソーサーが人数分積み重ねられ、お茶の準備が整えられてチャルの目の前に漂う。ありがとう、と受け取るとチャルを見ずにハリーを抱えた手で指先だけ動かし、チャルが持てないケーキなどをその周囲に漂わせ、リビングに消える娘の後を追わせる。
「今キッチンで充電しているのがいて助かった。ママったらこんなにお菓子準備して……」
お茶の道具を持ち、周囲にお菓子を漂わせたチャルにミランダは慌ててケーキを受け取り、エリーもクッキー籠を手にする。充電?と首をかしげる友人についさっき帰ってくるなりママを捕獲しているのよ、とチャルは薫り高い茶葉にリーマスが選んだのかしら、と手早く淹れていく。
ケーキとクッキーを楽しんでいると、スコーン焼けたから、とニコニコとほほ笑むハリーがやって来た。慌てて挨拶する二人にゆっくりしてねと声をかけて、微笑まし気に3人を見つめる。
「チャルチウィトリクエがちゃんと年相応に友達出来ていてほっとしたなー。スネイプが女帝なんて言うもんだから心配していたんだよ」
あーよかった、というハリーにチャルは飲んでいた紅茶を無理やり呑み込んで、げほごほと咳込む。何か変なこと言った?と首をかしげるハリーは笑いをこらえている娘の友人たちを見て、顔を赤くした愛娘に視線を移す。ぱちぱちと娘と同じ緑の眼をしばたたかせたハリーだが、なんでもないと手を振る娘にとりあえず楽しそうでよかったと笑う。
「あぁそうだ、あの悪童コンビ、そのスネイプに捕まっていたわ。怖いのがいないってはしゃいで……W.W.Wの禁止されている花火爆発させたのよ」
「あの爆発音はそれか。禁止の花火を校内で爆発か……」
中庭に面した廊下なんだけどね、というチャルにこれ以上ないほど低く冷たい声がリビングに響く。
すぐさま暖炉に向かって行き、魔法薬学セブルス=スネイプの研究室、というと不吉なオーラでリビングの温度を下げていた男は消える。
あっという間の出来事にチャルも驚いていると、ハリーが一人、天上を仰いでやっば、と小さく漏らした。
「ヴォル、久々に本気でキレたかも。あとでスネイプに謝らなきゃ……何がいいかな、貴重な材料で大丈夫かな……やだなぁスネイプに謝るの」
だから花火は絶対校内で爆発させたらダメだって言ったのに、とため息を吐くハリーは何か知っているの?という娘の視線にうーんと考える。
「昔、チャルがまだお腹にいるときに、階下で火なしで着火する花火を一式落として暴発させた人が居て、それが運悪く僕の方に来て……ちょっと割とやばい高さから落ちたんだ。途中でヴォルが助けてくれたけど……。ヴォル、助けてくれた時すっごくほっとしていたから、心配かけたなって」
だからその地雷をあの二人見事に踏んだのだと思う、と深々とため息をつき……自分が焼いたスコーンをほおばって我ながら上出来、と笑う。
もともと怖いヴォルデモートの更に怖い状態を見てしまったミランダたちはまだ上があったんだわ、と冷えた手先をカップで温めた。
久々に見る父の雷鳴渦巻く怒りの暗雲を見たチャルは、なんでそれを何度も受けてこりないのかしら、と弟たちに頭が痛い思いだ。
そこに赤ん坊の泣き声が聞こえて、ハリーは起きたのかな、と立ち上がる。アクシオと小型の箒を呼び寄せると、え?と驚くエリー達をしり目に、見たこともない箒を立てたまま腰を掛けるような乗り方でまっすぐ上階に上がり、そのまま奥に消えた友人の母親に目が点になる。チャルは気にしていないのか、すぐに戻ってきた母の腕に抱かれた赤ん坊に目を輝かせた。
「これが弟のユルングね。はじめまして、一番上のチャルチウィトリクエよ」
母に抱かれてご機嫌なのか、もう泣いてもない赤ん坊は黒い髪をふわふわと揺らし、灰緑色の瞳をぱちぱちとさせて姉をじっと見つめる。
「え?あ、この前言っていた生まれた弟ってこの子?」
「ちっちゃーい。初めまして」
母から受け取ったチャルは慣れた様子で弟を抱き、初めましてとほほ笑む。まだ小さな子供にかわいいと声をかけるミランダ達は何人兄弟いるの?と首をかしげた。少なくとも2つ下には双子がいる。
顔を見合わせるハリーとチャルは無言で指を折り数え、部屋増設しなきゃだめかも、とハリーがつぶやく。
「私、ケツァルとシュロ、再来年入学予定のアレクとサンドラ……姫……じゃなくてシーアとこのユルングと。あらやだ7人。ママがまだ若いし、あの人なんかまだまだ長生きしそうだし……ウィーズリーさんの家みたいに増築しないとだめかもしれないわね」
「あーだから魔法省の人頭抱えていたんだ……。スリザリンの直系はヴォルが最後だったのにここにきて急に増えたから」
絶対まだ増える、と断言する娘にまいったなぁとハリーは苦笑いする。魔法省の名が出たことに首をかしげるエリー達に近代史は知っている?とチャルが問いかけた。一応祖父母の世代から聞いているという二人に、聞いていたハリーはあははと渇いた笑いを零してどこ話せばいいかなと頬を掻いた。
「え~っと、ヴォルが昔暴れまわっていたのはその通りで……僕と結婚する時に子供が成人するまで暴れないとか殺さないとか……そういった誓いを立てたんだけど、つまりは子供が大きくなったらまた暴れるんじゃないかって危惧されていて。だからその期間にいろいろ準備して備えてと思ったらまた延期になったから、いったいなんなんだってな感じで。そもそもチャルチウィトリクエが成人するまでという効果になっているのか、それとも生まれて来た子供で自動更新されているのか……気が気じゃないって」
備えないわけにもいかず、かといってそんなに長い時間緊張しているわけにもいかず……。ユルングが生まれたことを報告しに行って、何人目なんだと頭を抱えることとなったという。
ヴォルデモートの子孫ということもあって、四六時中監視というわけにはいかないものの、ある程度監視されている、と何でもないことのように言うチャルはママがいれば暴れないと思うのに、と考え……あの悪童コンビ……特にシュロはわざと道踏み外しそう、と口には出さずに考えを改めた。
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