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ぼっという暖炉の炎が大きくなると共に、戻ってきたヴォルデモートは絞ってきた、とハリーの隣に腰を下ろした。反省してた?と問いかけるハリーにしてもらわないと困るとため息交じりに答える。
「しばらくは懲りるだろう」
教え子が見ていても関係ないのか、自然にハリーの腰に手を回して抱き寄せるヴォルデモートはハリーの手からカップを奪うと、勝手に飲み干す。淹れるのに、と頬を膨らませるハリーに構わず、眠いとだけ言ってしゅるりと蛇になりハリーの襟もとから中へと入る。
「アニメ―ガスでもないのに蛇になる魔法ってなんなのよ……」
変身術でいまだに聞かないわ、という娘にハリーはヴォルデモートだからねと、答えになっていないような答えを返す。意味が分からないわ、と首を振るチャルは校内一怖い教師のべたべたに甘い私生活を見て固まる友人を見た。
家族に……というよりも母ハリーに甘い父の姿を見慣れているチャルはやっぱり変なのかしら?と蛇の鱗が冷たいと、口先だけ怒る母を見る。母も母で父に甘いのよね、と引きはがすこともせず、落ち着くのを待って紅茶を淹れ直す姿に思う。どこかで落ち着いたのか、もぞもぞと服の中を移動していたヴォルデモートが動かなくなると、ハリーはびっくりさせてごめんねと娘の客人に笑いかける。
「い、いえ、その驚いて」
「ゴーント先生……授業中ものすごく厳しいからギャップに気圧されています」
逆に怖い、という二人にチャルは笑い、ハリーもまた学生時代を思い出したのか、わかると頷く。ハリーが実際にヴォルデモートに教えてもらったのは6学年からの2年間だ。ハリー相手にであっても採点はスネイプ並みに容赦なかったし、授業は魔法省が見たらひっくり返るようなことばかりだった。
まず、従来の教科書はほとんど役に立ってなかったし、ハリー以降の世代の魔法による決闘スキルは格段に上がったという話をダンブルドアから聞いている。ハリーにとっては世代が世代なだけにネビルが始終怯えていたし、聞いた話ではあのマルフォイがガタガタ震えていたという。ルシウスに何したのかと聞いたが、はぐらかされたあげく抱きつぶされた。
7学年の最初はまず双子出産から始まったなと、ハリーに似た子だと喜んだシリウスが、父そっくりの赤い眼を覗かせたとたん固まったのを思い出し、賑やかになったなと笑う。
そこにドアベルが鳴り、いい匂いがするという少女の声が響きお茶を楽しんでいた4人はリビングの扉に目を向けた。先に手を洗ってと促す声に素直にしたがう声に続けて俺はペットの犬じゃないんだぞ、とぶつぶつ言う声が聞こえ……ばたばたと駆け戻ってくる音共に扉が開かれる。
「あ!チャーだ!」
「あぁもう汽車着いていたんだ。久しぶりだね」
「サンドラもリーマスも元気?」
姿を現したのは黒髪の少女と顔に傷のある男性で、一目散に姉に駆け寄る少女はともかく誰かしら、とミランダとエリーは顔を見合わせる。帰っていたのかと入ってきた黒髪の男に同居人さん?とさらに首をかしげる。
「あぁ、こっちはシリウス。ママの名付け親で実質祖父みたいな……我が家のペット兼用というか。それでこっちはリーマス。シリウスのお目付け役で、あの人との緩衝役。シリウスは離れに住んでいるのよ」
何でもないように説明するチャルに友人二人は意味が分からず眼をしばたたかせる。シリウスもペットじゃないと反論するが、パッドフット大好き!という少年に抱きつかれてあーもう!と頭を掻いた。しゅっと犬の姿になると噛みつくふりをして少年を楽しませているのを見ると、そういうことね、と少女たちは納得して笑う。少年…アレックス抱きしめて転がるシリウスは私もーと乗っかったサンドラにぐぇっとつぶれた声を上げた。
「姫、相変わらずかわいー」
「姫じゃないもん!シワコアトルだもん!」
中の様子をうかがう様にひょこりと顔を出したさらに小さな子供に、チャルがおいでと声をかけると、姉の腕に駆け寄りながらも姫じゃない、と顔を膨らませた。黙っていると人形のような顔立ちで、母ハリーと同じ癖のある黒髪から緑色の眼を覗かせるシワコアトルは恥ずかしそうに姉の胸元に顔を寄せてちらりと客人を見つめる。
散々シリウスで遊んだらしい双子がおやつ!と顔を上げてスコーンを手に取り、おいしーと食べ始めるのをハリーは笑ってゆっくり食べなよと声をかけた。自分によく似た顔立ちのアレックスと、かつて見たリドルによく似たサンドラ。どちらもリドル時代の黒い瞳を細ませて食べる姿は歳相応だ。
スコーンを食べてひとごこちついたのか、やっと姉の客人に気が付いたアレックスはサンドラを小突き、自己紹介が遅れました、とほほ笑む。アレックスの中身はリドルだなぁとぼやいたハリーにじゃあサンドラの中身はハリーねとハーマイオニーに言われたことを思い出す。
ユルングはどっちに似ていくのかな、と姉に抱かれてご満悦な赤子を見る。
客人二人を交えて子供たちが仲良くしているのを微笑ましく見るハリーは起きたのか、ずるりと顔を覗かせたヴォルデモートにスコーンいる?と問いかけた。父がいることに気が付いたのか、ねぇねぇと声をかけるサンドラは黒い瞳を輝かせ、ハリーが止める間もなくぐいっと蛇の首を掴んだ。ため息をつく蛇は待て、パーセルタングで話し、ハリーの服から出て人型に戻る。
「ナギニにもそうだが、首を掴むな」
「ノクターン横丁に行きたい!」
首をさするヴォルデモートにひるむことなく、行きたいと騒ぐ娘にヴォルデモートはまだ早いと言って首を振る。じゃあ、杖欲しいというのも早いと言って首を振る。
「シリウスー、最初にダメなのお願いしてもダメだった」
「いや杖は入学きまってからだ。さっき言った場所以外だったらどこでも連れて行ってやるぞ」
作戦失敗と報告するサンドラにシリウスはやれやれとため息をつき、誰に似たんだか、とヴォルデモートを見た。素知らぬ顔をするヴォルデモートはユルングを寝かしてくる、とぐずり始めた子供を抱きかかえて黒い霧のようなものを出して2階に上がる。
無言でチャルを見る友人の視線に、私たちはちゃんと階段使っているわ、と言ってあれは急ぎだったから、と慌てるハリーに笑いかける。
クリスマスだから、とツリーを出したハリーに小さい子供たちが我先にと飾りつけをし、シワコアトルが最後の星を姉に持ち上げてもらって付けたことで完成した。夕食も終わり、ほろ酔いのシリウスをヴォルデモートが窓から見える離れに向かて投げつけ、すこし頬を赤らめたハリーを連れて地下に消える。
「ママたちの寝室はあの人の意向で、スリザリンの談話室みたいに水の中にあるの。と、言うわけで、ユルングが泣いたら私たちの誰かが世話するのよ」
年中涼しいの、というチャルにいつも高い塔で過ごしている二人は寮によっても全然雰囲気違うものね、という。W.W.Wのグッズで溢れているという双子の部屋は入らないほうがいい、と自分の部屋に案内すると、3人はパジャマパーティー……とはいかず、夜通し本を読むのに夢中になった。知識に対し貪欲な特性のあるレイブンクローの彼女たちの興味を引く本は数多くあり、チャルもお気に入りの辞書を引っ張り出して読み更けていく。
いつのまにか寝ていた、と目を覚ましたチャルは同じように寝落ちした友人達に微笑み、起き上がろうとして肩からタオルケットが滑り落ちるのを目で追った。羽織った覚えのないタオルケットに首を傾げ、同じようにタオルケットをかけた友人達を見る。やっぱりそういうことよね、と簡単に身支度を整えて降りていくと、キッチンに顔を出す。
「相変わらず朝早いのね。おはよう」
「あぁ。夜更かししてもいいが、ちゃんと横になって体を休めねば休んだことにはならないぞ」
チャルが思った通りヴォルデモートが居て、朝食の準備を行っていた。いつもはハリーがしているのだが、まだ寝ているらしいいつもの光景に何か手伝おうか?と問いかける。
「特にない」
「あらそう。そうだ、そろそろ増築しないと手狭になってくるんじゃないの?」
短い返答に気にすることなく、牛乳を出して飛んできたコップに注ぐチャルはそうだ、と口に出す。そもそも2組目の双子が生まれた時に一度増築しているが、このままのペースでは来年あたりに足りなくなりそう、と焼きあがったトーストを皿にのせる。
ママが大変よ、と小さくつぶやくと聞こえていたらしいヴォルデモートは無理させたいわけではないという。
「別にハリーに子を産ませたいから抱いているわけではなく、ハリーがいいからであって、結果増えているだけだ。だいたい、子を宿した期間の状態を戻す魔法薬を飲んでいるから、常にハリーの身体は第一子……チャルチウィトリクエを産んだという状態に戻している。子の産み過ぎで体を壊すことはない」
今度の増築は上に伸ばすとしよう、とやはり今後も増えることを見越した父に兄弟が多い理由はその魔法薬のせいじゃないかしら?と口には出さず、チャルはそれならいいわと返した。兄弟でにぎやかな分には文句はない、と準備ができた朝食をリビングに運んでいく。今後も増えていくというのであれば魔法省内部にヴォルデモート課という部署ができるんじゃないか、自分で呟きながらもそれ楽しそうと笑う娘をヴォルデモートはじっと見る。
「昔から伝えているが、俺様はかつて多くの命を奪った。そのツケとして監視がチャルチウィトリクエ、お前たちにも及んでいるのは知っての通りだ。特に第一子であるお前には何が起きるか俺様にも、ハリーにも見当がつかない。偏見を持たない友人は大切にするといい」
いつもながら感情のわからない顔でそう告げる父に、チャルチウィトリクエは眼をしばたたかせてされるがままに頭をひと撫でされるのを黙って受け入れる。少しくしゃくしゃになった髪にムッとしながら、弟たちに引き継がれた赤い眼を見返した。
「ありがとう、お父さん」
にっと笑うチャルに対してその呼び方はやめろ、とヴォルデモートは視線をそらし自嘲するように鼻先で嗤う。子供たちの部屋に行って律儀にタオルケットをかけたり様子を見た後、全員分の朝食を作って魔法で保温したヴォルデモートはもうひと眠りする、と地下に消えていく。
あの調子じゃママも昼過ぎまで出られないわね、とチャルは日刊預言者新聞を開いて、誰か一緒に朝食をとってくれる人が下りてくるのを静かに待った。
こうして、いつもよりちょっと賑やかな年末年始の朝は穏やかに過ぎていく
-fin
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