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「誰がロリコンだ!!!」
新聞を破くヴォルデモートは青筋を立て、あの女記者と杖を手に立ち上がった。
「何も間違ってないだろう。3周りも離れた少女の純潔奪ったのは間違いないんだからな。」
だめだよ、と杖ごと抑えるハリーに少しだけ怒気が下がるヴォルデモートは怒りの矛先をぐるぐると縛られている男に向けた。
ひくりと頬がひきつるヴォルデモートだったが、腕にすがりついたハリーと目の前の光景に怒る気が一気に失せる。
悔しかったら反論してみろこのロリコン!と声だけは勇ましいが、動かないよう柱にぐるぐる巻きにされている男…シリウスはルーピンにこの鎖解いてくれよと懇願するが、ハリーもルーピンも…相変わらず巻き込まれているスネイプもいや、それは無理だろうと心の中で声が一致する。
「その情けない姿で吠えるとは流石に犬だな。」
「なんだと!?この蛇男!」
騒ぐな、と声を小さくする呪文をシリウスにかけるヴォルデモートはハリーを抱き寄せ、ロリコンではないと否定する。
その姿に同級生3人は誰がどう見てもロリコンだろうと心の中で突っ込みを入れるが、口に出したところで堂々巡りなのはわかっている。
そろそろホグワーツに戻るぞと言うヴォルデモートはハリーを抱きあげた。
ハリーが来るにはホグズミードへの道のりを友人らだけで歩かせるには危ないと、ヴォルデモートが必ず付いてきた。
が、それがシリウスには許せない。
でもそれを承諾しないとハリーはここに来てくれないと言うか連れてきてもらえない。
「スニベルス!!あいつどうにかできないのか!?というかこの鎖解けぇえ」
「脱狼薬を届けに来ただけの我輩を巻き込むな!!!大体、鎖は我輩がしたものではない!文句があるならこの鎖を準備したダンブルドアに直接言うんだな!」
「セブルス、薬ありがとう。まぁ…うん…。復活後に何度かあっているうちに…大分丸くなったんだぁとは思うよ。ハリーもまた女の子らしくなったし…死喰い人の活動も聞かないし…。もう全部丸く収まっていいんじゃないかな。」
帰っていく2人を見送った3人は深々と溜息を吐き、シリウスはルーピンにゴブレットを渡すスネイプに喰ってかかった。
スネイプもまた城内でいろいろあるのかシリウスに怒鳴りつけてさっさと帰ろうとし…あの二人に追い付きたくなくて足を止める。
ルーピンに鎖をほどいてもらったシリウスは三本の箒に向かっていくスネイプを見てモヤモヤしたまま首輪の鎖の先が巻き付いた柱を睨みつけた。
2階の使われていない教員の部屋を使うハリーはやってきたハーマイオニーとロンを中に入れて机に広げていた羊皮紙を片付ける。
「薬学の勉強していたのね。はい、昨日の呪文学のやったこと。」
「ありがとう。うん、薬草学の授業を教えてもらってた。どう?皆落ち着いた?」
ノートを受け取るハリーはハーマイオニーに問いかけた。それに対し、まぁまぁかな、とロンが答える。
「一応ハリーの相手がその…あの人っていうのはみんな理解したみたいなんだけど…。その、やっぱりね、マグル出身の子は落ち着いたんだけど…魔法使いの家出身の子たちはまだ…。まだ複雑みたいね。」
理解が追い付かない、というハーマイオニーに奥からハリーの分のついでに二人の分の紅茶をもってきたヴォルデモートはだろうなと同意する。
まだ慣れないハーマイオニーとロンはぎぐしゃくとお礼を言って恐る恐る紅茶を一口飲む。
「一応、誓いの魔法の効果で誰かを害することはないと言っているのに。」
「それはヴォルの信用が0だからだよ。あ、ここ昨日やったところだ。よかった…ヴォルの教えるペース早いからやっと追い付いた。」
臆病者め、というヴォルデモートにハリーはハーマイオニーのノートを見ながら信用ないから信じてもらえないんでしょ、と返した。
ヴォルデモートとハリーの関係が新聞で出てから二週間。
未だに学校内はざわついており、ハリーは体調を考慮して部屋で勉強をしていた。
もろもろの元凶であるヴォルデモートがハリーの教科書やハーマイオニーが持ってくるノートからの進行から考えて、個人授業を行っていたが、そもそもホグワーツきっての秀才。
必死にハリーは追いつこうとするが少しペースが速い。
おかげで遅れてしまったりした分を取り戻せるのだが、一日の終わりに小テストを出され、あまりにも間違えたりすると…とハリーは必死に顔に出さないよう昨晩の事を意識から追い出す。
「今はもう少し落ち着くまで待ってって、ダンブルドア先生に言われているんでしょハリー。」
「うん。もう少ししたらヴォルだけでも部屋から出て周りに無理やり慣れさせるって。」
ダンブルドアの名前を出したとたん負のオーラが出たことにハーマイオニーはハリーに視線を合わせて問いかける。
一見するとそれなりに顔が整った男…。
それでも醸し出されるオーラが普通ではないことと、冷たい印象の赤い目にどうしても怖気づいてしまう。
「それにしても…。マグル出身および混血の方が純血よりも優秀なものがいる気がするが…。」
「混血とか純血とかどうでもいいでしょ。大体、ヴォルだって半純血だとか言ってるけど要するに混血なんだから矛盾してるよ。」
ヴォルデモートは純血のロンとマグル出身のハーマイオニーを見比べ、ハリーから聞いていた成績やらから考える。
それに対し、ハリーが突っ込みを入れると、ヴォルデモートはこめかみをひくつかせてハリーに笑いかけた。
「誰に聞いたその話。」
「ダンブルドア先生。ヴォルのお母さんが純血主義のスリザリンの子孫で…マグルの男の人を好きになったって…ヴォルが音信不通になった時に教えてくれたんだよ。ヴォルの話から考えると…ヴォルは混血だから頭良くて強いってことになるんだよね。」
イラつくヴォルデモートにロンはやっぱり怖いよ、とハーマイオニーに目配せてハリーを見る。
ハリーはそれに、と言うとイライラしているヴォルデモートを振り返り、マグル出身だって言ってたのヴォルだよ、と指摘した。
「言った覚えはない。」
「うん。リドルの日記から出てきた昔のヴォルが言ってた。自分も同じだって。」
思わず真顔になるヴォルデモートにハリーは2年生のころを思い出す。
確かリドルはそう言っていたはず、とねぇ僕その時その話ししたよね、とハーマイオニー達をみた。
そうねぇ、と言うハーマイオニーは石化が解かれてから聞いた話を思い出し、確かにそう聞いたよね、とロンに確認を取る。
「あー。そういえば…。」
「ノートが壊れて残念だ。」
っち、と舌打ちをするヴォルデモートは流石に大人げないと思ったのか、長い溜息を吐いて気持ちを落ち着かせた。
ノートってあんたの一部だったんじゃ、と口の中で呟くロンはハリーからハーマイオニーのノートを受け取ったヴォルデモートを見た。
ようやくホグワーツ内と、世間が落ち着いた初夏の兆しが見え始めた6月。
マダムポンフリーとマクゴナガルはばたばたと休日のホグワーツ内を走っていた。
立ち会いたいと希望したハーマイオニーもその忙しさに加わり、ハリーの使っている部屋をせわしなく動き回っていた。
ハリーのそばから離れないヴォルデモートは今まで命を奪うことはしていても誕生に出会ったことがなく、ハリーの手を握っている以外何もできない。
内心動揺しているヴォルデモートは場の空気があわただしいことに何もできず、ハリーを見つめる。
大丈夫じゃよ、と言うダンブルドアに普段は条件反射のように怒りがわき上がるヴォルデモートだが、今はそんな声さえ耳に届いていないのか静かな声で大丈夫だハリーと声をかける。
その声と握った手に頷くハリーは大丈夫だよ、と返した。
ほどなくして元気な赤ん坊の声が響くと、廊下で見守っていた同級生の女の子たちはやった、と喜び、ロンもまたほっとする。
「ポッター。元気な女の子よ。」
疲れて荒い息を吐くハリーにマダムポンフリーは生まれた赤ん坊を見せる。
マクゴナガルもまた良く頑張りました、と言うと貧血を起こしたのか、しゃがんだ男を見た。
「アバダでいつも済ませていた分、血をみた経験が少なかったんじゃろう。」
だめじゃのう、というダンブルドアがマダムポンフリーから赤ん坊を受け取ると、しゃがんだ男に近付く。
「ほれ、トム。」
「…今何と言われようとも無理だ。」
渡そうとするダンブルドアにヴォルデモートは軽く怒りを覚えるが、立とうとしてめまいが取れずに無理だ、と手を振った。
あんだけ暴れまわっていた闇の帝王が今更何を言っている、と呆れるマクゴナガル達はため息を吐いた。
しかたがないのう、とハリーに赤ん坊を渡すダンブルドアはにこりと微笑む。
「かわいい。…二人とも黒髪だったのよね。じゃあ目はどっちかしら。」
嬉しさで胸がいっぱいになるハリーの隣でハーマイオニーはかわいいと赤ん坊を撫でると、リーマス達に知らせてくるわ、と外へと出て行った。
「そうじゃな。ひとまず、親子だけにしてあげよう。」
「ポッター。何かあったらすぐ呼ぶんですよ。」
背を向けたまましゃがんでいる男を不安げに見るポンフリーはもう一度ハリーと赤ん坊の様子を見るとダンブルドアに促され、扉の外へと出て行った。
残されたハリーは赤ん坊を抱え直し、ねぇヴォルと呼びかける。
「ヴォルってば。あ、目開いた…。ごめんねびっくりさせちゃった?」
「ハリー…。」
嬉しそうに笑うハリーにようやくヴォルデモートがたちあがると、ちらりと自分の子供を横目で見る。
まだ迷っている様なヴォルデモートにハリーは仕方がないなぁとため息をつくとほら、と赤ん坊を差し出す。
腕に押し付けられた風になったヴォルデモートは反射的に赤ん坊を抱き上げる。
「黒髪だな。」
「うん。ヴォルもリドルの時は黒髪だったし…。でもねぇ、目見てみて。さっきちょっと開いたんだけど…僕と同じ緑。」
赤ん坊を抱え直すヴォルデモートにハリーは笑いかけると、優しく抱きしめる手を見つめた。
ちょうど抱え直したところで赤ん坊の眼がうっすらと開き、緑色の瞳がわずかにのぞく。
「ハリーに似ているな。」
「そう?でも女の子はお父さんに似るっていうし…もしかしたら大きくなると昔のヴォルみたいに顔立ちがきれいになるかもよ。」
扱いに戸惑う様なヴォルデモートをハリーは見つめて渡される子を抱えた。
じっと自分と赤ん坊をだまって見つめるヴォルデモートにハリーはどうしたの?と首をかしげた。
「俺様に…俺様が赤ん坊を授かるなど…。」
「ヴォルの子供なんだし、生んだ僕が望んだんだから気にやまないでよ。それにヴォルはこれから少しずつ奪った分返していこう。」
未だに戸惑うヴォルデモートにハリーは大丈夫だから、と赤ん坊を抱いていない手でそっと触れる。
あ、と声を上げたハリーにヴォルデモートは何だ、と視線を上げた。
「この子の名前…まだ決めてなかった。」
女の子か男の子かわからなかったからどうしよう、とハリーは決めなきゃと微笑む。
「あぁ、緑色の目をした女の子なら…チャルチウィトリクエ。現地の言葉で高貴な緑の貴婦人と言う…女神の名だ。ハリーが他にいい名があるならそれで構わない。」
名前を探しているときに緑の貴婦人と言う言葉が気に入ったから覚えていた、と言うヴォルデモートにそういえばナギニも女神の名前だっけ、とハリーを心配気に見つめるヴォルデモートの蛇を見てくすくすと笑う。
イギリスらしくないのはわかっているから他の名前で構わない、と言うヴォルデモートにハリーはニヤリとちょっと意地悪気に笑いかけた。
「でも普通の名前はいや…でしょ。チャル。うん。僕たちと違ってちゃんと呼び名があって良いと思うよ。ロンみたいにロナルドとか呼び名とは違うのちょっとうらやましかったから…。それに…何だかんだ言ってちゃんとヴォルが名前考えていてくれたの嬉しいから。」
普通の名前は嫌だから自分の名前を変えたんでしょ、と言うハリーに図星だったらしいヴォルデモートは今はヴォルという愛称をハリーがつけてくれたと目をそらす。
「いつのまに調べたの?」
大体をハリーと過ごしていたはずのヴォルデモートがいつ調べたのだろうと、首をかしげると、ヴォルデモートは赤ん坊を恐る恐る抱きながら我が子の顔を見つめる。
「ハリーが授業中に透明マントを使って図書室で漁っていた。男なら虹の蛇…ユルングだった。」
「本当に蛇関係ばかり調べてるね…。」
図書室のマグル学のコーナーにはそういう神話が複数あったと言うヴォルデモートにハリーは呆れるように呟く。
これでチャルチウィトリクエが普通の名前がよかったと怒ったらそれはそれで対照的でなんだか微笑ましい。
翌日、名前をめぐって闇の帝王と父の親友とでひと悶着起きることを想定しつつ、ハリーは目を開けた娘に微笑みかけた。
-fin
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